10周年の「FGO」をオリバー・エバンスが“オタク語り”!大好きな英霊と歩んだ、人間に光を見出す一筋の希望のような物語

7月30日にリリースから10周年を迎えたスマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order(以下、「FGO」)」。同作はプレイヤーが主人公となり、伝説上の英雄などを召喚した“サーヴァント”と契約して、人類存続のための戦いに挑んでいく。メインストーリーは2016年に第1部が完結し、2017年末より展開されてきた第2部は2025年冬に終章を公開予定。10年間で実装されたサーヴァントは400騎を超え、そのキャラクターデザインには羽海野チカ、白浜鴎、広江礼威らマンガ家も多数参加している。これまでにTVアニメや劇場アニメ、舞台、コミカライズなどさまざまなメディアミックスも行われ、ファンを楽しませてきた。

コミックナタリーでは10周年を記念して、「FGO」をリリース時からプレイしているというにじさんじのバーチャルライバーで、“バーチャル文化人類学”教授のオリバー・エバンスにインタビューを実施。思いが溢れてインタビュー予定時間を大幅に超過するほどの“オタク語り”が展開された。さらに彼の豊富な知識によるサーヴァント解説も披露。インタビューはストーリーのネタバレがない前半と、ネタバレありで自由に語ってもらう後半の2ページに分かれているので、読者自身のスタンスや進行度に合わせて読んでいただきたい。

取材・文 / 伊藤舞衣

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僕の人理修復の旅は、ずっと呪腕のハサンとヘラクレスに助けられていた

──オリバーさんは「FGO」リリース時からのプレイヤーなんですよね。もともと「Fate」シリーズはお好きだったんですか?

すごく好きでした。僕は歴史上の人物がとても好きなんですが、学生時代に「Fate」好きの友人に「すごく面白い作品があるぞ」って言われて。PlayStation 2の「Fate/stay night [Realta Nua]」をプレイしてめちゃくちゃハマってから「Fate」シリーズが好きになりましたね。「Fate」関連のアニメシリーズや映画もほとんど観ました。で、「FGO」が出るということで、当時スマホゲーは何もやっていなかったんですけど、「これはやらねば」と思いました。新しいサーヴァントもたくさん出ると聞いて、すごくワクワクしましたね。

──「Fate」シリーズでほかに触れたものはありますか?

「Fate/EXTRA」シリーズもプレイしています。「フェイト/タイガーころしあむ アッパー」をプレイしてキャラを知ってから、小説版の「Fate/Zero」を読んだりしましたね。「Fate」はギャグ路線も楽しいので、「タイガーころしあむ」は大好きですし、「カーニバル・ファンタズム」も好きですね。あと「Fate/strange Fake」も読んでいるので、アニメが楽しみでしょうがない!

オリバー・エバンス

オリバー・エバンス

──「Fate」ファン歴の長さを感じます。「FGO」にはさまざまな作品からもサーヴァントが登場していますが、好きなサーヴァントを教えてください。

呪腕のハサンとヘラクレスがずっと好きなんですよ。僕の人理修復の旅は、ずっとこの2騎に助けられていました。シリーズ作品でもともと好きだったのでよく編成していたこともあるんですが、一緒に旅をしてきた思い入れもあってさらに好きになりましたね。

──ゲームでより愛着が沸くのは共感できます。今オリバーさんが「熱い!」と思っているサーヴァントはいますか?

インドラです! 僕が大学生だった頃、文化人類学の講義でインドの神話に触れて面白いなと思ってからインド神話は好きで。インドのサーヴァントはけっこう実装されてますが、インドラはかなりメジャーな戦の神様なので、実装されて驚きました。

──オリバーさんが持っていたイメージとは合っていましたか?

超“俺様”のお調子者、そしてチョロいイメージだったので、だいたい想像通りでした(笑)。インドラはすごい愛すべきキャラ性を持ってるんですよ。インドラとヴリトラの戦いの物語はいろいろありますが、インドラが「もうこんなん勝てねえよ!」みたいな感じでやけくそでヴリトラに武器を投げて逃げるパターンもあるんです。海の中に隠れていたら自分を称える声が聞こえてきて、そこで倒したこと知って「俺すげえ」って出てくる、みたいな(笑)。かなり要約して面白おかしく解説している資料ではそういう紹介もされていて、すごい面白い神様だなと思って。

──めちゃくちゃ愛嬌ありますね(笑)。

インドラ。2025年7月の期間限定イベント「インドラの大試練 ~巡るブロークン・スカイ~」で実装された。多くの魔と戦う武勇を見せるが、神酒に目がなく女好き、怠惰かつ尊大な態度を見せる。

インドラ。2025年7月の期間限定イベント「インドラの大試練 ~巡るブロークン・スカイ~」で実装された。多くの魔と戦う武勇を見せるが、神酒に目がなく女好き、怠惰かつ尊大な態度を見せる。

あとインド神話と同じくらいギリシャ神話が好きなので、ヘラクレス・イーコールもよかったですね。ヘラクレスはアーチャーのクラスで現界すると最も力が発揮されると言われているので、ずっと弓を持ってるヘラクレスが見たかった!

──ヘラクレス・イーコールは「冠位戴冠戦:Berserker」で、冠位英霊としてエネミーで登場しましたね。最初は剣を持っていて、ガッツが発動するごとに斧、弓へと武器が変わっていきました。

剣はアルトリア・キャスターが第3再臨で使っている剣と似たデザインなんですが、アーサー王伝説のアーサーが使っていた剣の1つに、もともとヘラクレスが持ち主だったものがあるんですよ。そのエピソードを取ってきているのもすごくいいですよね。

剣を持ったヘラクレス・イーコール。

剣を持ったヘラクレス・イーコール。

アルトリア・キャスター第3再臨のバトルキャラクター。

アルトリア・キャスター第3再臨のバトルキャラクター。

──言われてみれば確かにアルトリア・キャスターの神話礼装マルミアドワーズに似てる! よくご覧になっていますね。ヘラクレスがお好きなのが伝わります。

バーサーカーであっても体が技術を覚えているのがカッコいいし、実はバーサーカー状態じゃないほうが強いっていうのがロマンありますよね! その一端をヘラクレス・イーコールに見ることができたので、冠位英霊に選出されたのがうれしいです。もともと僕が持っていたヘラクレス像と、「Fate」のヘラクレスの解釈が一致すればするほど好きになる傾向はあります。

──ヘラクレスについてはどんなイメージをお持ちでしょうか。

僕の中だと“ザ・英雄オブ英雄”って感じで、強くて、ちょっと乱暴ではあるけど、信心深くてまっすぐな人だなと思ってます。ヘラのせいでひどい目に何度も遭っているのに、「ヘラの栄光」という意味の「ヘラクレス」という名前を受け入れて、12の試練をやりとげて。憧れとは違うんですけど、僕の中の英雄像はやっぱりヘラクレスが最初に来ますね。あとヘラクレスにはヘラにより発狂させられて、自分の奥さんと子供を殺してしまうというエピソードがあるんですが、だからこそ「Fate/stay night」では狂気に陥っていても子供であるイリヤを守ろうとしているところもグっときます。

教授が選んだグランドサーヴァントは? 性能よりも“推し”を重視

──現在「FGO」では好きなサーヴァント1騎をグランドサーヴァントにして、特別な強化を施せる“グランドグラフシステム”がクラスごとに順次開放されています(※取材は7月の上旬に行った)。現在はセイバーとバーサーカーが開放されていますが、誰をグランドサーヴァントに選びましたか?

セイバーは、僕の好みである背が高くて筋肉質な女性のバーゲスト。性格もめちゃくちゃ好きですし、第2部第6章「Lostbelt No.6 妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」をプレイしたら「それは好きになるよ!」っていう。でも少し剣術をかじっていた時期に憧れていた柳生但馬守宗矩とも迷いました。バーサーカーは当然ヘラクレスです。ランサーも今迷っていて……。

オリバー・エバンス

オリバー・エバンス

──選ぶの難しいですよね。ちなみに候補は?

カイニスと、「Fate」好きとしてはクー・フーリン。クー・フーリンはグランドランサーとして、前線で戦わせてえよ……っ!て気持ちが強くありますよね。ライダーはメドゥーサと迷いましたけど、「Fate/EXTRA」からずっと好きだったので(フランシス・)ドレイク船長。アサシンは呪腕先生一択です。アサシンの冠位英霊は、「アサシン」という言葉の語源にも関係の深い初代ハサンの“山の翁”がいいなあ。ハサンたちはみんな「ザバーニーヤ」という宝具を使っていますけど、初代様の「ザバーニーヤ」は見たことないじゃないですか。

──確かにそれは見たい! 冠位戴冠戦は冠位英霊を予想するのも楽しみの1つですよね。ではアーチャーはいかがでしょう。

アーチャーは一番迷っていて。候補は筋骨隆々なギリシャ神話の英雄って感じのビジュアルがカッコいい超人オリオン、教授つながりでジェームズ・モリアーティ。ただずっと僕を助けてくれたアーチャーで、彼の切ないストーリーも含めて思い入れがあるのでデミヤ(エミヤ〔オルタ〕)かなって思ってます。キャスターは順当にいったらキャストリア(アルトリア・キャスター)なんですけど、すでに優秀すぎるからマーリンかなあ。張角も好きなんですけど、グランドキャスターかと言われると個人的には解釈違いかなっていう(笑)。黄巾党広めてきそうだし。

──「この人グランドサーヴァントにしたらヤバそうだな」ってキャラはいますよね(笑)。エクストラクラスのグランドグラフについてはまだ公式からの言及はありませんが、グランドサーヴァントにしたいキャラはいますか?

ぱっと思いつくのはキングプロテア、ゴルゴーン、ヘシアン・ロボですね。ヘシアンは複数の幻霊が結合していて、その1つがスリーピー・ホロウの首無し騎士なんですが、首無し騎士は南北戦争時代の外国人傭兵部隊で戦死したドイツ人傭兵の幽霊っていうっていう説もあるんですよ。エバンス家のご先祖にはどうやら外国人部隊出身だった人がいて、兄弟のうちの1人はそこで戦死してるので、もしかしたらヘシアンは僕のご先祖様なのかもしれないと思って縁を感じています。

ヘシアン・ロボ

ヘシアン・ロボ

──ゲーム的にはサーヴァントの性能で選ぶという選択肢もあると思いますが、オリバーさんは思い入れ重視なんですね。

はい。性能よりも“推し”ですね!

「FGO」は、“今”が熱いとき

──メインストーリーはどこまでプレイされているんですか?

「奏章II 不可逆廃棄孔 イド」までクリアしていて、今は「奏章III 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」を進めているところです。去年の夏が忙しすぎて、イベント(※)リアタイできなくて……!

※「BBプレゼンツ☆セレブサマー・エクスペリエンス! ~逆襲のドバイ~」。奏章IIIの導入的な位置付けとして、2024年夏に期間限定で開催された。現在は条件を満たせばいつでもプレイすることができる。

──お忙しいでしょうし、「FGO」は腰を据えてプレイしたくなりますよね。プレイされている範囲では、第2部にどんな印象をお持ちですか。

第1部も第2部も自分たちの世界を取り戻す物語なんですけど、全然違いますよね。第1部は焼却されてしまった人類史を取り戻していく話でしたけど、第2部はまっさらにされた世界に自分たちのものとは異なる世界が生まれていて。自分たちの世界を取り戻すには、ほかの世界を滅ぼさなきゃいけない。自分たちにも、相手にも大義がある中で加害しなきゃいけないっていう重くて切ない話なのに、でもどこか希望を見出せるのがすごい。

──わかります。

人同士の争いにおいて、「正義の反対は別の正義」という言葉があるじゃないですか。僕は必ずどこかに悪意が潜んでいると思ってしまって、あまりその言葉が好きじゃないんですよ。でも「FGO」に関しては相手の正義を感じる部分がたくさんあって、自分が少し浅はかだったのかなって思わされますね。

オリバー・エバンス

オリバー・エバンス

──第2部になって、より主人公の心境が描かれるシーンも多くなってきたように感じますが、主人公への印象はいかがでしょう。

純粋で前向き、でも絶対どこかに弱さを抱えてるはずなのに、ずっとずっと前に進み続けているので、つらかろう……って思いますし、切なくなりますね。普通の人間である主人公がつらい目にたくさん遭っているのに、それでもいろんな人たちと手を取り合って、歯を食いしばって前に進んでる姿にすごく感銘を受けます。主人公には共感する部分もあるんですけど、親心のほうが出てきますね。没入するというよりは、そばで応援したいというか……後方カルデアスタッフ面してます(笑)。

──ははは(笑)。そんな過酷な第2部も、2025年冬に終章を迎えます。第1部の終章は2016年12月に行われましたが、リアルタイムで参加されましたか?

もちろん! 今まで出会って、絆を結んできたサーヴァントたちが助けてくれるっていうのは熱かったなあ。来てくれると思ってはいたんですけど、やっぱり登場してくれたときはうれしかったです。報酬がおいしかったが故に、ものすごい勢いで魔神柱が狩られていきましたけど(笑)。

──懐かしいですね(笑)。当時SNSでも話題になっていましたが、そういった盛り上がりも含めてライブ感がありました。

その温度感も楽しませていただきましたね。あれは完全に一種の祭りでした。あの盛り上がりがまた来ると思うと、第2部の終章もリアタイしたいなという気持ちが湧いてきてます。

──ストーリーは後からプレイはできても、盛り上がりはそのときだけの体験ですからね……! 「FGO」を10年間プレイしてきてよかったと思う瞬間はどんなときですか。

好きな歴史上のキャラが実装されるたびに「やったぜ」って思いますね! あとは新しいストーリーが実装されるたびに、プレイしていてよかったと思います。ストーリーがすごく熱くて、泣きながらプレイするときもあるので。僕は30代で、心が震える物語に出会う機会が少なくなってきてる中、しっかりと毎回心を動かしてもらえるのはすごくうれしいです。シリアスな展開に切なくなったと思ったら、コミカルなストーリーで笑わせてもらうこともあって。ずっとずっと楽しませてもらえてるなって感じていますね。

オリバー・エバンス

オリバー・エバンス

──10周年を機にこれからゲームを始める人もいると思いますが、そんな人にどんな言葉をかけたいですか。

ものすごい読みごたえのある作品で、斜め上から殴られるような瞬間もありつつ、王道を捉えているので物語としてすごく受け入れやすいと思います。そして誰もが知っているような歴史上の人物もたくさん出てきますし、季節感のあるお祭りのようなイベントなども定期的に開催されているので、いろんな要素を楽しんでいただければと思います。

──今プレイをお休みされている方にもメッセージをお願いします。

僕も今奏章IIIを進めている途中ですが、奏章では主人公のこれまでの行いの根幹に関わる話が展開されています。これまで一緒に旅をしてきた主人公や相棒のマシュ、そしてカルデアのメンバー。彼らの未来がどうなるか、“今”がすごくすごく熱いときだと思います。僕もここから終章に向けてメインストーリーを進めていこうと思っているので、この物語の結末がどこに行き着くのかを、一緒に見届けられたらと思っています!

──ぜひ追いついていただきたいです。この後はネタバレありで、メインシナリオについて伺っていきたいと思います!