古典大好き・栞葉るりは「神作家・紫式部のありえない日々」を文学が苦手な人にも読んでほしい!昔と今をつなぐ平安コメディ

D・キッサンの「神作家・紫式部のありえない日々」は、アラフォーで人付き合いの苦手な“神作家”紫式部を主人公に、宮中の人間模様などを生き生きと描いた平安コメディマンガ。月刊コミックZERO-SUM(一迅社)で、2021年12月号から連載されており、現在は単行本6巻までが刊行されている。

コミックナタリーでは、古典に詳しいにじさんじのバーチャルライバー・栞葉るりにインタビューを実施。配信やショート動画で古典文学の魅力をわかりやすく発信し、7月25日には初の著書「ゆるゆる古典教室 オタクは実質、平安貴族」を発表した古典大好きVTuberの視点から、「神作家・紫式部のありえない日々」の魅力を語ってもらった。

取材・文 / 丸本大輔

「神作家・紫式部のありえない日々」あらすじ

「神作家・紫式部のありえない日々」1巻

自宅にこもって“同人活動”に打ち込むことで、愛する夫を喪った悲しみを紛らわしていた紫式部。しかし、式部の書いた同人誌「源氏物語」は宮中で評判となり、帝の妃である中宮彰子の家庭教師としてスカウトされる。家族のため、気の進まない宮仕えを始めた式部は、複雑極まりない宮中の人間関係に翻弄されながらも「源氏物語」の執筆を続けるのだった。

昔の人と、現代に生きる私たちの感じることは変わらない

──栞葉さんが古典を好きになったきっかけを教えてください。

小学校の先生が百人一首を教えてくださったことがあって。そのとき、最初に教えてくれた歌が小倉百人一首31番「朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪」で、「夜が明けてきた時、なんか明るいなと思って外を見たら、月の光かと思うくらいきれいに白雪が降り積もっているよ」という意味の歌だったんです。1000年以上前のすごく偉いおじさんが雪を見て感じることと、現代に生きている普通の小学生の自分が雪を見て感じることが、そんなに変わらない、同じなんだってことに衝撃を受けて。古典を読むたびに、1000年前の人と自分がつながっているんじゃないかって感じられるようになり、どんどん好きになっていきました。

──素敵ですね。私は子供のとき、古典の文法が苦手で嫌厭してしまい、内容を楽しいと感じることができませんでした……。

その後、授業で古典の文法を習ったときは、難しくて「もう私に古典は無理」ってなった時期もあったんですけど(笑)。そのときに「枕草子」を読んで、「これを書いた清少納言さんって、定子様(※)のことが好きなんだ。これって、ほぼ推し活じゃないか!」と気がついて。文法は少し苦手だけれど、古典で書かれている内容自体はすごく好きで面白いと思い、少しがんばって文法も勉強するようになって、今に至る感じです。

※藤原定子。清少納言が仕えていた皇后で、「枕草子」は定子のために書かれたとも言われている。

栞葉るり。「神作家・紫式部のありえない日々」の雰囲気に合わせ、和装で登場してくれた。

栞葉るり。「神作家・紫式部のありえない日々」の雰囲気に合わせ、和装で登場してくれた。

──栞葉さんは2023年11月に、にじさんじでバーチャルライバーとしてデビューされ、ゲーム実況配信だけでなく、古典をテーマにした配信やショート動画も投稿されています。ライバー活動の中で古典も扱おうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

にじさんじに入るときにオーディションを受けたのですが、その際に送った動画でも一応、古典の話はしていて。その時点から自分の好きなものの1つとして、古典の魅力を伝えられたらいいなとは考えていました。ただ、今みたいに古典を解説する企画をしたり、本を出せたりするとは、正直思っていなくて。最初は、いわゆる授業みたいなコンテンツが受け入れられるのかもわからなかったし「好きな話をしたいな」くらいの感覚で始めました。明確に今みたいな活動方針に舵を切ったきっかけは、.LIVE(どっとライブ)のカルロ・ピノさんの企画に呼んでいただいたことなんです。

──虫などの生き物についてすごく詳しくて、本も出されているVTuberさんですね。

はい。ピノさんの「ぴのらぼ」という企画に特別講師として呼んでいただいて、「和歌の世界で見る虫さん」というテーマでお話させていただいたことがあって。もともとピノさんのことがすごく好きだったので、ピノさんに「面白かった。またやってほしい」と言っていただけたことがすごくうれしかったです。自分のファンの人だけじゃなくて、栞葉るりを知らないピノさんのファンの方にも「面白かった」とか、「こういう配信をほかにもやっているなら、観に行きたい」と言っていただけたことが自信になったというか。もしかしたら、自分の“好き”を1つのコンテンツにすることができるかもしれないと思うようになりました。

──ちなみに、オーディションの応募動画では、どんな作品について語ったのですか?

勢いで応募したので細かいことは覚えていないんですけど、「玉水物語」という作品のことを話しました。今の大学入学共通テストがセンター試験だった頃に出題された古典で、内容がニッチというか変わった内容だったので、それがすごく面白いみたいな話をオーディションの規定時間を越えて話した記憶があります(笑)。

栞葉るり

栞葉るり

──ニッチな古典に対する熱量が評価されたのかもしれませんね(笑)。古典に関する配信をしたときのリスナーの反応で、特にうれしかったり、印象深かったりしたことはありますか?

基本的にどんな感想もすごくうれしいんですけど、やっぱり特に印象に残っているのは学生さんの感想です。「受験生で古典がすごく苦手だったけど、るりちゃんの話を聞いてから面白いのかもしれないと思ってがんばれた」とか、「何を勉強するか悩んでたけど、るりちゃんの配信で古典に興味を持って、専攻を決めることができました」とか言っていただけたことがあって。私は古典がすごく好きですけど、現状勉強してくださる学生さんが減ってしまっている状況は否めないので。自分の活動が自分の好きなものに役に立てたうえに、リスナーさんの人生もちょっと明るくできたのかなと思うと、恩返しができた気持ちになれて、すごくうれしかったです。

──自分が大好きな古典の魅力をもっと多くの人に知ってほしいという気持ちも当然ありますか?

古典という素晴らしい学問が、この世の中から消えてしまうのは惜しいと思っているので、少しでも多くの方に触れていただいて、気軽に楽しんでいただけるようになったら喜ばしいですね。いつかは私のリスナーさんから「栞葉るりって、みんなが知っている当たり前のことしか言ってないよね」と言われちゃうくらい、多くの人が古典に広く親しんでくれたらいいなと思っています。