3年で北米最大級の電子マンガ書店に成長したMangaPlaza、成功の秘訣を「鬼の花嫁」「悪役令嬢の矜持」出版社関係者とともに紐解く

コミックシーモアを展開するNTTソルマーレが北米で展開するデジタルマンガストア・MangaPlaza。2022年のローンチから2年連続で売り上げ300%成長を続けており、北米最大級のストアへと成長を遂げている。

コミックナタリーはそんなMangaPlazaの成長の秘密を探るべく、NTTソルマーレでMangaPlazaの販売統括担当を務める香月大地氏、MangaPlazaで現在ヒットを飛ばしているという「鬼の花嫁」のスターツ出版、「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」のスクウェア・エニックスのライセンス業務担当者による座談会をセッティング。スターツ出版からは国内海外の出版事業を統括するI氏、スクウェア・エニックスからは北米圏ストア向け営業のO氏が参加した。3人にはMangaPlazaについてはもちろん、北米のマンガ市場についてや、「鬼の花嫁」「悪役令嬢の矜持」の北米でのヒットの要因などを語ってもらっている。

取材・文 / ナカニシキュウ

MangaPlaza

MangaPlazaロゴ

NTTソルマーレが提供する、全米最大級のデジタルマンガストア。120社以上の出版社とパートナーシップを組み、幅広いジャンルのマンガ作品を全米最大級の14万点以上取り扱っている。そのうちMangaPlazaでしか読むことのできない魅力的な作品も数多く配信。また、約3万点が読み放題かつ、ポイント購入時にお得な特典ポイントが付く月額6.99USDのプレミアム会員(1週間の無料トライアルあり)サービスを提供することで、幅広い世代のユーザーと魅力的なマンガ作品との新たな出会いの場を創出している。2025年3月1日にサービス開始から3周年を迎えた。

公式サイトはこちら

「鬼の花嫁」
作画:富樫じゅん 原作:クレハ

「鬼の花嫁」作画:富樫じゅん 原作:クレハ

あらすじ

物語の舞台はあやかしと人間が共存する日本。鬼、妖狐、猫又などさまざまなあやかしたちは、その優れた能力と美貌で日本の中核を担っていた。そんなあやかしに繁栄をもたらす唯一無二の存在である“花嫁”に選ばれた人間の娘は、あやかしからの無償の愛を約束される。

主人公の女子高校生・柚子は、妖狐の花嫁である妹・花梨を中心に回る家庭で虐げられ、両親から愛されぬ日々を送っていた。我慢を重ねてついに心が壊れてしまったある日、柚子は夜の街で見たこともないほど美しい青年に出会う。紅い瞳を持つ彼は、最強のあやかしである鬼の次期当主・鬼龍院玲夜だった。

コミックシーモアによる「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2023」の大賞を受賞し、TVアニメ化も決定している人気作だ。

コミックシーモア

MangaPlaza

「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」
原作:メアリー=ドゥ 原作イラスト:久賀フーナ 漫画:星樹スズカ

「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」原作:メアリー=ドゥ 原作イラスト:久賀フーナ 漫画:星樹スズカ

あらすじ

後妻として迎えられた母とともに伯爵家の一員となった元平民のウェルミィ・エルネスト。そんな彼女は家でも貴族学校でも同い年の義姉を虐げ、後継者の地位も婚約者も奪い取り、最後には冷酷と噂される魔導卿に義姉を売り飛ばす。地味で冴えない義姉に抗う術はない。すべてはウェルミィの思うがままに。

それからしばらくして、魔導卿から夜会の招待状が届く。自身の婚約者として義姉を招待するのだろう。父母とともに夜会に参加するウェルミィだったが、赴いた先では華やかな宴……ではなく、「義姉を虐げた」として伯爵家への断罪が始まった。すべてはウェルミィの策略どおりに──これは自分が憎まれても義姉を大切にしようと企んだ、1人の悪役令嬢の物語。

コミックシーモア

MangaPlaza

MangaPlaza成長の秘密を探る座談会

アメリカの電子コミック市場、女性向けマンガ市場ともに伸びしろがある

──現在、北米市場向けのデジタルコミックストア・MangaPlazaにおいて「鬼の花嫁」(スターツ出版)や「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」(スクウェア・エニックス)といった作品の英語版が大ヒットしているそうですね。

スターツ出版I ありがたいことに……。

スクウェア・エニックスO おかげさまで……!

MangaPlazaで配信されている「鬼の花嫁」。英題は「The Ogre’s Bride」。

MangaPlazaで配信されている「鬼の花嫁」。英題は「The Ogre’s Bride」。

──まずは、おそらくコミックナタリー読者にはあまりなじみがないであろうMangaPlazaについて、簡単にご説明いただいてよいでしょうか?

香月大地(NTTソルマーレ) 弊社は国内においてコミックシーモアというブランドで電子書籍ストアを展開しておりますが、MangaPlazaは海外向けの別ブランドという位置づけになります。2022年3月にリリースされ、主に日本の出版社さんの作品を英訳して配信しておりまして、特に女性ユーザーをメインターゲットに展開しているのが特徴です。現在、課金会員の9割以上が女性のお客様になっています。

──大ざっぱに言ってしまえば、“アメリカ版コミックシーモア”みたいなものということですね。

香月 コミックシーモアとの大きな違いは、サービスモデルです。1話ずつ購入するアラカルト、つまり都度課金制と、月額制のサブスクリプションをミックスした形を取っています。日本の電子書店はアラカルトが主流ですが、北米のコンテンツビジネスではサブスクが主流。そこで我々は、まず月額6.99ドルのサブスクで気軽に日本のマンガに触れていただき、そこから特に気に入った作品を1話1、2ドル程度の話単位で深く楽しんでもらう、というハイブリッドモデルを採用しました。これにより、コアなマンガファンだけでなくライト層にも日本のマンガを広げていけるのではないかと考えています。

──日本のやり方をそのまま持ち込むのではなく、現地の市場に合わせた新たなモデルを作り出したと。

香月 はい。そもそもアメリカで販売されている日本のマンガの単行本は、デジタルであっても日本と比較して価格が高めです。日本では1冊500円台から700円台程度で売られていますが、アメリカでは日本円換算で約1500円とか、高いものだと3000円近くすることもある。これでは価格のハードルが高く、ライト層にはなかなか手に取ってもらえません。サブスクとチャプター買いを組み合わせたことで、多くの方が気軽に利用していただけるようになったと考えています。

スターツ出版I 北米はまだ紙媒体が非常に強い市場で、主に少年コミックなど男性向けの作品が売れている印象です。ただその一方で、ハーレクインのようなロマンス小説文化がしっかり根づいている土壌もある。そうした特性を持つ地域において「電子コミックで女性層をターゲットにする」というのは非常に面白い戦略だと思いますし、これから伸びてくる可能性は大いにあるのではないかなと感じています。

MangaPlazaで配信されている「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」。英題は「Proud to be the Villainess: I'm Doomed After Stealing my Half-Sister's Fiance and Having Her Banished」。

MangaPlazaで配信されている「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」。英題は「Proud to be the Villainess: I'm Doomed After Stealing my Half-Sister's Fiance and Having Her Banished」。

スクウェア・エニックスO コミック市場における電子の割合は、日本ではすでに紙を上回っていますが、北米ではまだ10%程度と言われています。ただ裏を返せば、それだけ伸びしろがあるということです。MangaPlazaさんのようなサービスや、弊社が運営するManga UP!グローバル版など、各社の取り組みによって北米の電子コミック市場はまだまだ大きく広がっていく可能性があると期待しています。

──出版社さん個々では現在どのような海外展開をしているんでしょう。

スターツ出版I スターツ出版では以前から繁体字圏や韓国などで作品を配信してきましたが、やはりマーケットとして非常に大きい北米市場をしっかり強化していきたい。今後、アニメ化を控えている作品もいくつかありますので、そうした作品をグローバルに届ける際に、電子コミックも一緒に楽しんでいただけるような体制を整えていきたいと考えています。

スクウェア・エニックスO スクウェア・エニックスでは、2007年ごろから北米の出版社へライセンスアウトする形で英語版の出版を進めてきました。さらに2019年にはアメリカの現地法人内に出版事業部を立ち上げ、より主導的に出版を手がけるようになっています。加えて、2022年には海外向けのサービス・Manga UP!グローバル版をスタートさせ、この3つの軸で積極的に海外展開を進めているところです。

圧倒的な“打席数”で培われた広告のノウハウがある

──日本国内のコミック市場と比較して、ヒットする作品の傾向に違いはあるのでしょうか。

香月 MangaPlazaのサービス開始当初、我々は「日本で売れる作品と北米で売れる作品の傾向はきっと違うだろう」という仮説を立てていました。例えば学園ものやオフィスラブものなどは、文化的な背景の違いから受け入れられにくいのではないかと。ところがいざフタを開けてみると、日本でヒットした作品や日本で効果のあった広告クリエイティブは、ほぼそのまま北米でも通用するということが見えてきたんです。

「鬼の花嫁」第1話より。柚子は鬼のあやかし・鬼龍院玲夜と運命の出会いを果たす。

「鬼の花嫁」第1話より。柚子は鬼のあやかし・鬼龍院玲夜と運命の出会いを果たす。

スターツ出版I 国は違えど、人間の本質的な部分に響く作品は同じように喜ばれるということなんでしょうね。

香月 そうだと思います。なので今では、コミックシーモアの広告で手応えがあった作品はMangaPlazaでも同じようなクリエイティブを使って広告展開しています。特に、我々の広告では、どのコマを選んで、どういう順番で見せるかというノウハウが非常に重要になります。コミックシーモアで蓄積してきたその知見を、そのまま海外で生かせているのが我々の強みですね。

スターツ出版I 読者が怒りを感じるコマなど、強く感情を揺さぶられるシーンが的確に選ばれている印象があります。NTTソルマーレさんの宣伝スタッフの皆さんが、読者心理を深く理解されているからこそできる広告だなと。しかも我々作り手側が気づかなかったような、意外なシーンをフックとして提示してくださることもあるんですよ。

「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」第1話より。腹違いの義姉を虐げていたウェルミィだが、そこにはある狙いがあった。

「悪役令嬢の矜持~婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。~」第1話より。腹違いの義姉を虐げていたウェルミィだが、そこにはある狙いがあった。

スクウェア・エニックスO 本当にそうなんです。「作品の流れの中ではサラッと読み飛ばしてしまうようなシーンが、こんなにも強力なフックになるんだ?」という発見がよくあります。選ばれた素材同士の組み合わせ方なども非常に巧みで、それらの工夫によって読者の記憶に強く残る効果的な広告が生まれている。NTTソルマーレさんの広告作りには、いつも学びがありますね。

──なるほど。作品理解度が高く、しかも読者に響くポイントを探し当てる嗅覚にも優れた広告スタッフがそろっているということですね。

香月 プロモーション担当にマンガ好きなメンバーが多いというのもありますが、過去のデータにもとづいて「どうすればクリック率が上がるか」という分析も徹底しています。そして何より、圧倒的な“打席数”をこなしていることが大きいと思いますね。たとえばスターツさんの「鬼の花嫁」でいうと、おそらくこれまでに100種類以上のクリエイティブを制作してきているはずです。

スターツ出版I そうですね(笑)。

香月 そのたびに監修をお願いしているので、「多いな!」と思われているかもしれませんが(笑)。それくらい数をこなすことで、最適なクリエイティブへとどんどんブラッシュアップしていける。それが我々の強みかなと思います。

スターツ出版I そのように、やはりNTTソルマーレさんはコミックシーモアで培ってきた女性向けコミック販売のノウハウを豊富にお持ちです。我々としては、その知見を生かして“女性コミックというジャンル”をアメリカの地に定着させていただくことを何より期待しています。それによって日本のコミックを好きになってくれる女性ユーザーが1人でも増えたら、それが我々にとって一番うれしいことですから。

スクウェア・エニックスO 我々も同じですね。特に女性向けにターゲットを絞ってしっかり狙い撃ちしていくという点では、MangaPlazaさんには先達ならではの強みがあると感じています。そんなMangaPlazaさんと一緒に、作品の特性に合わせたマーケティングを展開していけるのは非常に心強いです。