アニメスタジオクロニクル No.2 WIT STUDIO 中武哲也

アニメスタジオクロニクル No.2 [バックナンバー]

WIT STUDIO 中武哲也(共同創設者 / 取締役)

「進撃の巨人」で定まったスタジオの路線、「SPY×FAMILY」で広がった仕事の幅

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アニメ制作会社の社長やスタッフに、自社の歴史やこれまで手がけてきた作品について語ってもらう連載「アニメスタジオクロニクル」。多くの制作会社がひしめく現在のアニメ業界で、各社がどんな意図のもとで誕生し、いかにして独自性を磨いてきたのか。会社を代表する人物に、自身の経験とともに社の歴史を振り返ってもらうことで、各社の個性や強み、特色などに迫る。第2回には、昨年創立10周年を迎えた、WIT STUDIOの中武哲也氏が登場。2012年にProduction I.Gから独立した中武氏らによって設立され、デビュー作となる「進撃の巨人」で瞬く間にその名を広めたWIT STUDIOが、わずか10年で急成長した経緯に迫った。

取材・/ はるのおと 撮影 / 武田和真

Production I.Gからの独立、そして鎌倉パスタ事件

目下放送中の「王様ランキング-勇気の宝箱-」「絆のアリル」を手がけるWIT STUDIOは、2022年6月に創立10周年を迎えた。これを記念し、同社は10周年までの1年間に展覧会やリアルイベント、毎月の配信イベントなどの催しを実施。2010年代以降に誕生した中では有数の実績と知名度を誇るアニメスタジオらしい、充実のアニバーサリーを迎えていた。

「今は11年目に入っていますけど、10周年に向けてはいろいろやりましたね。YouTubeで毎月配信した番組はリクルートにもつながったし、観た人が『楽しそう』『仲がよさそう』と言ってくれて。つらそうに見えてなくてよかったです(笑)。僕や社長の和田丈嗣、アニメーターの浅野恭司といったスタジオの初期メンバーが割と仲がよく、けっこう密に会話ができていて。それが会社全体の雰囲気につながっている気がします」

そんなWIT STUDIOの創立は2012年6月1日のこと。中武氏がプロデューサーとして率い、「君に届け」や「戦国BASARA」などのアニメーションを制作していたProduction I.Gの6課で芽生えたある思いが、独立につながる。

「今も仕事をご一緒している荒木哲郎さんとの最初の作品『ギルティクラウン』を作っているときに、チーム内で『この作品で今の我々が出せるクオリティの1つのピークがくるだろう』という直感があったんです。そこで新しい環境で新しい作品を作るため、自分たちで会社を立ち上げようと考え、我々が勤めていたProduction I.Gの石川光久社長に思いを打ち明けました。

「ギルティクラウン」キービジュアル (c)ギルティクラウン製作委員会

「ギルティクラウン」キービジュアル (c)ギルティクラウン製作委員会

そして我々の記憶に強く残った『鎌倉パスタ事件』とのちに呼ばれる出来事が起こります。ある日、石川さんから『和田・中武、今時間ある? じゃあ、鎌倉に行くか』と言われて『うわあ、いきなり鎌倉に行くなんて粋だな』と喜んでおしゃれな外車に乗せていただき辿り着いたのが鎌倉パスタだったのでした(笑)。そこで、石川さんに『会社を作りたいのか、作品を作りたいのか。どっちだ?』と問われ『作品です』と答えたところ、石川さんからの提案で『もう(親子の)血のようなものだと思って出資させてくれ』と言われて、I.Gのグループ会社としてWIT STUDIOを作ることになりました。設立当初の経理、総務、システム関連といったバックオフィス回りの大きな意味でのカバーをI.Gチームが担ってくれることになり、大きく救われました。そのフォローがなければアニメ作りどころではなかったなと思います。この事件以来、僕らにとっての鎌倉といえば、鎌倉パスタのことです(笑)。

中武哲也

中武哲也

そんなこともありながらWIT STUDIOができたんですけど、アニメスタジオって経営と制作のバランスがなかなか難しいんです。序盤は僕が制作現場を担当し、社長の和田のビジネス的な感覚と、武蔵野で1位とのちに呼ばれることになる調整能力の高さをもって会社と作品運営を保ち、そしてアニメーターの浅野が取締役にいることでクリエイターの皆さんが会社の方針に賛同する。クリエイターは能力のある人を認めるところがあるから、社内のクリエイターも凄腕の浅野がいることによって話をスッと聞いてくれるんです(笑)。このバランスが割と安定して10年以上続けてこられたポイントかもしれません」

後半、奇跡的なフィルムが連続で出てきた「進撃の巨人」

WIT STUDIOが当初手がけた作品は、「ギルティクラウン」の遺伝子を受け継いだ2作。1つは同作の演出担当・牧原亮太郎が監督を務めた劇場中編アニメーション「ハル」。そしてもう1つは今もシリーズ作品が続く、荒木哲郎監督による「進撃の巨人 Season 1」だった。設立当初から代表作と言える作品を生み出し外からは順風満帆の船出のように見えるが、制作現場はそうでもなかったようで……。

「作っている最中はみんなとにかく必死で、『進撃の巨人』が人気だとあまりわかっていませんでした。『作画兵団』なんて言葉も『まあ、ネットに書かれているけど、どうせ嘘だろう』みたいな(笑)。最終話の納品が終わったその日の夜にイベント上映があって、そこにみんなでボロボロになりながら登壇して、初めて『あれ、みんな我々のアニメを喜んでくれていたんだ』と実感できました。

『進撃の巨人 Season 1』を振り返ると、第17話以降に急激にフィルムのクオリティがアップしたのが印象的です。それまで一緒に付き合ってくれた仲間たちや、新しく僕らに関わってくれた人たちが集結したタイミングです。例えば第17話『女型の巨人-第57回壁外調査①-』は、のちに『終わりのセラフ』で監督をやっていただく徳土大介さんによる革命的な絵コンテで、攻め気の内容でした(笑)。作っている我々の実感としてもできあがって観た後に『めっちゃ面白かったな』となるような素晴らしさだったんです。

「進撃の巨人 Season 1」キービジュアル  (c)諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

「進撃の巨人 Season 1」キービジュアル (c)諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

第18話は荒木さんがベストコンテとして挙げる回で、作画カロリーを抑えつつすごく面白いという、 非常にコストパフォーマンスがいい内容でした。第21話のミカサがエレンを救出しようとする際の驚異的な作画も、みんなが急場の中で生み出してくれたものすごいアクションシーンで……そんなふうに奇跡的なフィルムが連続で出てきたんですけど、いや、本当にすごいこう……いろんな大変だった記憶が蘇って、ちょっと申し訳ない気持ちになってきました(笑)」

デビュー作「進撃の巨人」で早々に名を挙げたWIT STUDIO。だがその裏では、会社として地道な成長をしていくために人材を増やしていた。

「設立当初からアニメーターのみんなは若くて技術力もあり、すごい集中力で仕事をしてくれていました。でも制作やバックオフィスは急造でチームを編成しなければならず、しばらくはその影響が制作体制に出ていたんです。その問題を解決するべく初年度から積極的な採用をしていましたが、ようやく問題解決の兆しが見えてきたのが『甲鉄城のカバネリ』が放送されていた2016年くらい。

中武哲也

中武哲也

制作面で言うと強いアニメーションプロデューサーが充実してきたのがその頃。近年だと『王様ランキング』や『GREAT PRETENDER』を手がけた岡田麻衣子さんのような強いプロデューサーが入社したり、『SPY×FAMILY』や荒木監督と映画『バブル』を一緒に作った山中一樹くん、ストップモーションスタジオのリーダーをやっている山田健太くんといった世間に名が高まっていない人たちが偶然入社してくれたことで、一定以上のクオリティでアニメを納品し続けられるようになったんです」

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「SPY×FAMILY」で芽生えたCloverWorksという制作会社との仲間意識

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WIT_STUDIO @WIT_STUDIO


#アニメスタジオクロニクル 第2回
コミックナタリー × WIT STUDIO

コミックナタリーさん@comic_natalie にお声がけいただき素敵な企画に参加させて頂きました👏
共同創業者 中武哲也が10年の歩みを赤裸々に語りました!
ぜひ、ご覧くださいませ!
#WIT_STUDIO https://t.co/Sbi5GKwnoR

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