「わが友ヒットラー」は、長いナイフの夜(レーム事件)を題材にした三島由紀夫の戯曲。CEDAR Produceによる
演出を手がける松森は、開幕に際し、「三島の【壮大なラブレター】を私たちは真摯に舞台上に立ち上げたいと思います」と意気込みを語った。公演は3月27日まで。
松森望宏コメント
2022年、ロシアがウクライナに侵攻し、国際情勢は日に日に緊張感を増してきています。この時期に「わが友ヒットラー」という作品のタイトルを見ますと、否が応でも現国際情勢との関連性を見出してしまいます。
しかし、本作は政治的な側面を描いた作品ではなく三島由紀夫の晩年の私戯曲であり、三島が魂からつながりを得たかった「信頼」ということを強く語っている作品です。
1968年【政治の季節】、三島由紀夫が自ら結成した私設自衛隊「楯の会」結成の年、本作「わが友ヒットラー」は執筆されました。三島由紀夫の作品は常に彼の実生活との関連性を帯び、深い息遣いが伺えます。
国を憂い祖国のため立ち上がった三島由紀夫の軍隊「楯の会」はまさに男の楽園、思想で繋がる団結はユートピアだったのでしょう。兵隊ごっこと揶揄されながらも、ただひたむきに過酷な訓練を若い男たちと耐え抜く。男らしくあれと思うその自意識の裏側には、孤独に震え弱々しい精神が常に訴えかけてくるように思えます。
本作に登場するアドルフ・ヒットラーは、まさに三島由紀夫自身です。友情と芸術に引き裂かれ狂気に向かうヒットラーは、晩年の三島自身が感じていた芸術の限界と破滅への予感がそのまま当てはまるように感じます。三島由紀夫は本作執筆の2年後、1970年に割腹自殺を遂げました。
ヒットラーの友人エルンスト・レームはまさに「楯の会」そのもの。三島由紀夫は希望のありったけをレームに託し、叶うはずもない究極の「永遠の愛」を夢想していたのでしょう。ナチ党「突撃隊」と「楯の会」はまさに瓜二つ。戦場の最前線で死を目前にするからこそ、兵士の連結は深くなります。それは精神的な愛、魂で繋がる真の愛、「信頼」という言葉では生ぬるい、恍惚にあふれる本当の融合を夢見ていたのかもしれません。この三島の【壮大なラブレター】を私たちは真摯に舞台上に立ち上げたいと思います。
苦悩に震え狂気に変貌していくヒットラーは私たちの中にも潜んでいるのかもしれません。同じ過ちを繰り返さぬために、私たちは歴史に学び、歴史を見つめ、断固たる決意をもって前に進んでいかなければならないのでしょう。
CEDAR Produce vol.9「わが友ヒットラー」
2022年3月19日(土)~27日(日)
東京都 すみだパークシアター倉
作:三島由紀夫
演出:
出演:
関連記事
梅田香子 🇺🇸マイケル・ジョーダンの真実 (講談社+α文庫) kindle版7月21日発売! @yokoumeda
こんなのやっていたとは。見たかったなぁ~
三島由紀夫の“壮大なラブレター”を届ける、CEDAR「わが友ヒットラー」開幕(舞台写真 / コメントあり) https://t.co/Xdli0tmMLH