稽古は作品の冒頭から開始。まず舞台中央に女(
まずは岡田と俳優たちの間で目線や手の動き、セリフのタイミングなどについて細かい確認が交わされた。続けて岡田が、今回初のコラボレーションとなる現代美術家の久門剛史に、音の入り方や床に置かれたさまざまな小道具について意見を述べると、久門は即座に「そうですね、やってみます」と応じる。
再び冒頭から同じ箇所までが繰り返されたところで、岡田がもう一度声を掛けた。「今の音、よかったですね。音は料理の味付けのようなものだから、あまり単純でないほうがよいと思う。ひとつ音のレイヤーを増やすというか……」と岡田が久門に話しかけると、久門も「時計のアラーム音を足したんです。あと少し音量も変えてみました」と頷く。2人の中で何か共通理解が得られたように伺えた。その後もまた数度冒頭から同じシーンが繰り返され、そのたびに岡田と久門、そして俳優たちの密なやり取りが交わされる。
1時間強のリハーサルのあと、岡田と久門が出席し合同取材が行われた。まず岡田が「今回は音楽ではなく、サウンドを使った作品を作りたいなと思って久門さんにお願いしました」と久門とのコラボレーションに至った経緯を説明。そのあと記者から「タイトルにもある“部屋”を、それぞれどう扱おうとしているのか」と質問が出ると、久門は「空間にアプローチする最小単位というイメージ。いろいろなものを部屋に見立てられると思っているんです。例えば冷蔵庫を部屋と見立てることもできる。それと同じで、例えば水の入ったアクリルの筒が、コップにも花瓶にも見えるかもしれない。そんな見立てのスケール感をもっと考えてみたい」と回答。岡田は「この作品で部屋を扱う大きな理由のひとつは、この作品の主要キャラクターの1人が幽霊だから。幽霊は場所に所属するものでしょ?(笑) あと部屋があるということはその“外部”があるわけで、内部を限定することで外部を表現できたらということも考えています。それは、この作品が上演される劇場が、社会からある意味隔絶された不思議な空間だということも意識しています。その目線は今回すごく取り込みたいと思っていて、実際に作品中にそういったシーンもあります」と続けた。
また創作にあたり、岡田と久門の間でどのようなやり取りがあったかという質問については、岡田は「特にこういう音が欲しいとかは言ってないです」、久門は「なんもなかったです、困りました(笑)」と即答。「でも、例えば踏切の音というのは実在する音だけど、リハーサルの中であるとき、359度回って非日常的な音というか、アブストラクトに聞こえてくるようなことがあって」と岡田が発言すると、「終わるはずの音がずっと繰り返されると、実質的な意味やリアリティがなくなってきて、その音が純粋な素材となって舞台上の物理的なレイヤーを行き来してくれる感覚がある」と久門も頷きながら続けた。
さらにセリフの中で「あの地震」という単語が出てきたことについて、幽霊の女性は震災の被害者なのかという質問が出ると、「震災の被害者ではないです。むしろ地震によってポジティブな変化を受けた人ですね」と岡田。「前回のチェルフィッチュの新作(「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」)はチャラチャラした作品だったので(笑)、もう一度震災のことに関わる作品を作りたいと思っていました。この作品では、男は死んでしまった妻から新しい女性へ恋人を切り替えるわけですが、そうやって人間は生きていくために何に対して目を開き、目を開かないか、をごく自然に選択してるわけです。そういったことを描きたいなと思っています」と作品への意気込みを語った。
チェルフィッチュ「部屋に流れる時間の旅」
2016年3月17日(木)~21日(月・祝)
京都府 ロームシアター京都 ノースホール
作・演出:
音・舞台美術:久門剛史
出演:
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リンク
- チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』|プログラム|京都国際舞台芸術祭 2016 SPRING
- チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』 | precog
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チェルフィッチュ/岡田利規 @chelfitsch
【新作】今月オープンしたステージナタリーにて、『部屋に流れる時間の旅』の稽古場レポートが掲載されました!美術家・久門剛史氏と岡田のトークも必読です→ https://t.co/fSP0dDB8wA