時代を映す気鋭の劇作家たちを、これまで64回にわたり輩出してきた岸田國士戯曲賞。今年は8作品がノミネートされ、3月12日に選考会が行われる。オンライン演劇など新しい戯曲の形が模索される今、改めて岸田戯曲賞のこれまでをデータとインタビューで振り返り、さらに次代の劇作家たちへ思いをはせてみよう。
構成
岸田國士戯曲賞ってどんな賞?
岸田國士戯曲賞とは、劇作家・
データで見る岸田戯曲賞
ここでは、過去64回の岸田國士戯曲賞にまつわるデータから、受賞者・受賞作品の傾向を“勝手に”分析する。(参考資料「日本戯曲大事典」)
▼1位はやっぱり…出身地ランキング TOP5
第64回までの受賞者たちの出身地を集計し、輩出した受賞者の数が多い都道府県を調べた。
1位 東京都(17名)
大橋喜一(第2回)、小幡欣治(第2回)、早坂久子(第6回)、広田雅之(第12回)、唐十郎(第15回)、佐藤信(第16回)、山元清多(第27回)、川村毅(第30回)、横内謙介(第36回)、平田オリザ(第39回)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(第43回)、永井愛(第44回)、三谷幸喜(第45回)、前田司郎(第52回)、松井周(第55回)、岩井秀人(第57回)、山内ケンジ(第59回)
※第10回の受賞を辞退した福田善之も東京都出身。
※第30回の川村毅は東京都生まれ、神奈川・横浜育ち。
2位 神奈川県(6名)
八木柊一郎(第8回)、大橋泰彦(第32回)、柳美里(第37回)、倉持裕(第48回)、岡田利規(第49回)、福原充則(第62回)
※第58回の飴屋法水は山梨県生まれ、神奈川県育ち。
3位 長崎県(4名)
岡部耕大(第23回)、野田秀樹(第27回)、岩松了(第33回)、松田正隆(第40回)
4位 福岡県(3名)
つかこうへい(第18回)、松尾スズキ(第41回)、中島かずき(第47回)
※第64回の市原佐都子は大阪府生まれ、福岡県出身。
4位 愛知県(3名)
竹内銃一郎(第25回)、佃典彦(第50回)、柴幸男(第54回)
4位 兵庫県(3名)
鄭義信(第38回)、深津篤史(第42回)、蓬莱竜太(第53回)
1位は東京で、17名だった。初の受賞者である大橋喜一と小幡欣治(共に第2回)に始まり、現在に至るまで東京出身者が数年おきに登場している。次点は神奈川の6名。ランキングには含まれていないものの、川村毅(第30回)は東京都生まれの神奈川・横浜育ち、飴屋法水(第58回)は山梨県生まれの神奈川県育ちと、やはり首都圏は強かった。しかし3位は4名の長崎、4位は3名の福岡と九州勢の存在感も大きく、同率4位には愛知、兵庫が並ぶ。また中華民国出身の太田省吾(第22回)やペルー出身の神里雄大(第62回)など、国外出身の作家たちも受賞している。
▼三十代多し!受賞時年齢 TOP5
受賞決定時の年齢をまとめ、人数が多い順にランキングを作成した。
1位 36歳(8名)
堀田清美(第4回)、ちねんせいしん(第22回)、岩松了(第33回)、宮沢章夫(第37回)、鄭義信(第38回)、鴻上尚史(第39回)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(第43回)、ノゾエ征爾(第56回)
1位 30歳(8名)
菅竜一(第10回)、別役実(第13回)、唐十郎(第15回)、横内謙介(第36回)、深津篤史(第42回)、三浦大輔(第50回)、前田司郎(第52回)、松原俊太郎(第63回)
2位 37歳(5名)
人見嘉久彦(第10回)、井上ひさし(第17回)、清水邦夫(第18回)、上田誠(第61回)、谷賢一(第64回)
2位 33歳(5名)
八木柊一郎(第8回)、岡部耕大(第23回)、竹内銃一郎(第25回)、松田正隆(第40回)、蓬莱竜太(第53回)
2位 31歳(5名)
北村想(第28回)、大橋泰彦(第32回)、倉持裕(第48回)、岡田利規(第49回)、市原佐都子(第64回)
歴代受賞者の受賞時年齢は、下は柳美里(第37回)の24歳、上は山内ケンジ(第59回)の56歳と幅広い。人数が多い順にまとめてみると、36歳と30歳の8名をトップに、三十代がトップ5を占めた。同率2位には37歳、33歳、31歳が並び、人数はいずれも5名。三十代とは劇作家にとって、積み上げてきたものが花開き、外部からの評価につながる時期……なのかもしれない。
▼タイトルも作品の一部!受賞タイトル長さランキング TOP5
罫線、括弧、感嘆符、読点などの記号も1文字とカウント。ふりがなとスペースは文字数に含めず計算した。
1位 45文字
谷賢一「福島三部作 1961年:夜に昇る太陽 1986年:メビウスの輪 2011年:語られたがる言葉たち」(第64回)
2位 36文字
山崎哲「漂流家族 ――〈イエスの方舟〉事件 / うお傳説 ――立教大助教授教え子殺人事件」(第26回)
3位 28文字
藤田貴大「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」(第56回)
4位 25文字
八木柊一郎「波止場乞食と六人の息子たち / コンベヤーは止まらない」(第8回)
5位 23文字
秋浜悟史「『幼児たちの後の祭り』に至るまでの諸作品の成果」(第14回)
1位は、昨年第64回で受賞した谷賢一の作品。あまりに長いので、「福島三部作」が通り名となっている。ちなみに1位と3位の藤田貴大の作品はそれぞれ3部作、2位の山崎哲と八木柊一郎の作品はいずれも2本立てとなっており、単体の作品で最長なのは、5位の秋浜悟史「『幼児たちの後の祭り』に至るまでの諸作品の成果」。なお今年の候補作の最長タイトルは横山拓也「The last night recipe」の18文字。もし本作が受賞すれば、初の英語タイトル受賞となる。
▼ノミネート回数(=受賞決定の電話を待った回数)ランキング TOP5
受賞者が、受賞までにノミネートされた回数を調べた。受賞作・候補作のほか、賞の名称が現在の前身となる「新劇」岸田戯曲賞だった時代(~第22回)に、惜しくも受賞は逃したものの、奨励賞や佳作に選出された作品もノミネートのカウント対象に。
1位 7回
鴻上尚史(第39回)
2位 6回
清水邦夫(第18回)、鄭義信(第38回)
3位 5回
横内謙介(第36回)、本谷有希子(第53回)
4位 4回
山元清多(第27回)、鈴江俊郎(第40回)、永井愛(第44回)、前田司郎(第52回)、赤堀雅秋(第57回)、神里雄大(第62回)
5位 3回
堀田清美(第4回)、八木柊一郎(第8回)、山崎正和(第9回)、川俣晃自(第12回)、広田雅之(第12回)、別役実(第13回)、秋浜悟史(第14回)、唐十郎(第15回)、佐藤信(第16回)、井上ひさし(第17回)、竹内銃一郎(第25回)、北村想(第28回)、中島かずき(第47回)、松井周(第55回)、タニノクロウ(第60回)、福原充則(第62回)
鴻上尚史が7回で単独首位。鴻上の初ノミネートは1987年の第31回で、そこから5回連続で最終候補に選ばれた。受賞作は、1995年の第39回「スナフキンの手紙」。8年越しでの受賞となった。2位の清水邦夫と鄭義信は5回ノミネート経験があるが、清水は初めて選出されてから11年後、1974年の第18回「ぼくらが非情の大河をくだるとき」で、鄭は7年後、1994年の第38回「ザ・寺山」で受賞。1970年代は現在のように携帯電話が普及していない時代。毎回、どのような気持ちで編集部からの電話を待っていたのだろうか。
白水社担当者に聞く、受賞作決定発表までに時間がかかったTOP5
1位 第56回(4時間58分)
2位 第57回(4時間46分)
3位 第55回(4時間29分)
4位 第63回(4時間07分)
5位 第62回(3時間43分)
受賞作の決定発表をTwitterで告知し始めた第54回以後、4時間以上かかっている回が4回、あとは約3時間30分平均です。この時間には最終候補作家の方々全員への連絡や授賞式の日程調整なども含まれますので、実際は、30分~60分前には受賞者の方に決定報告をお伝えしています。選考にかかる時間としては、通常2~3時間くらいです。ちなみに第56回は、ポストドラマ演劇とされる作品がトリプル受賞したときです。(白水社・和久田氏)
ちなみに……2時間かからずに決定したTOP2
1位 第49回(約1時間30分)
岡田利規さんの「三月の5日間」と宮藤官九郎さんの「鈍獣」のW受賞。岡田さんにはすぐ電話連絡がつきましたが、宮藤さんはまだ決まらないだろうということで食事中だったらしくなかなか連絡がつかず焦りました。(白水社・和久田氏)
2位 第64回(約1時間40分)
市原佐都子さんの「バッコスの信女─ホルスイタインの雌」と谷賢一さんの「福島三部作」のW受賞。Twitterでの告知までには時間がかかっていますが、授賞式の日程調整に時間がかかったからで、第49回以来となる2時間かからずの決定でした。(白水社・和久田氏)
担当者に聞く岸田戯曲賞
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ステージナタリー @stage_natalie
【コラム】調べた!聞いた!岸田國士戯曲賞64年分のデータ&今年の傾向は? | 歴代受賞者の出身地・年齢……etc.、そして担当者が語る“舞台裏”
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