苗場スキー場入口ゲートの裏側。

フジロック(が開催されなかった)会場レポート

初年度から皆勤賞のフジロッカーによる、この夏の“おれなりのフジロック”の記録

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1997年にスタートして以来、毎年7月下旬頃に行われてきた国内最大規模のロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」。今年は東京オリンピック開催の影響もあって8月21~23日に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により残念ながらそれも見送られることになった。

15歳で初年度のフジロックに参加して以来、毎年欠かさず会場に足を運んでいたという“本人”氏は、今年の夏も例年通り会場である新潟・苗場スキー場を訪問。あるはずだったステージのない苗場の風景を目に焼き付けてきた。この記事ではそんな本人氏による“おれなりのフジロック”の記録をお届けする。

取材・文・撮影 / 本人(@biftech)

コロナ禍による苗プリ長期休業の直前に宿泊

「新型コロナウイルス感染症の影響による需要動向を鑑み、2020年8月16日(日)~12月24日(木)まで臨時休業させていただきます」――そんな苗場プリンスホテルの発表に私が気付いたのは休業数日前のこと。「FUJI ROCK FESTIVAL'20」の延期はどう考えても仕方なく、その一方どれだけ自らに言い聞かせても未練が尽きなかったので、今年は苗場プリンスホテルの最終営業日を見届ける形で現地入りすることを自分なりのフジロックとすることにした。

相変わらず酷暑の8月15日当日、都内から関越道に乗って群馬・月夜野インターチェンジで降り、国道17号線で苗場へと向かう。三国トンネルを抜けてすぐ目に入る新潟県の電光掲示板の気温表示を見て「都会よりひと回り涼しいね」などとはしゃぐが、この日は「新潟県からコロナ対策のお願い:新しい生活様式の徹底を」というシリアスな注意喚起が出ており、緊張感を覚える。

三国トンネル付近の電光掲示板。

三国トンネル付近の電光掲示板。

そして木々の密集するエリアを抜けて苗場入りすると、そこは無人と言っても過言ではない状態の“フジロックの街”があった。例年道路脇の街灯などいたるところに掲げられるフジロックのフラッグは一切なく、歩道を歩く人は日中ながら皆無。改めてシビアな状況を目の当たりにした。

“フジロックらしさ”はいたるところに

苗プリにチェックインする前に軽く聖地にご挨拶を、と思ってまずはフジロック会場方面へ。リストバンド交換所やオフィシャルグッズブースのある場外エリアには当然何もなかったが、通路脇にフジロックのマスコットとして知られるゴンチャンがペイントされた岩が並んでいるところに懐かしさを覚える。

ゴンチャンがペイントされた岩。

ゴンチャンがペイントされた岩。

その先で連日深夜の盛り上がりを見せていたTHE PALACE OF WONDERにもデコレーションパーツと思われる金属片が片隅に置かれ、フェスの名残を感じた。しかしフォトスポットであり、最終日の夜には来年の開催日程が掲示されるフジロック入場ゲートは一切の痕跡がなかった。

例年であれば入場ゲートが設置されている場所。

例年であれば入場ゲートが設置されている場所。

“エントランス”を抜けて、メイン会場のGREEN STAGEに到着。ステージの設営地やモッシュピットとなるアスファルトで舗装された場所に車を停めてドアを開けると、普段はまるで聞こえない川のせせらぎや虫の鳴き声が耳に入る。

2020年夏のGREEN STAGE。

2020年夏のGREEN STAGE。

BGMこそ違えど、なだらかな傾斜の一帯を一面の緑が囲うロケーションはやはりあのグリーンだ。しばらくすると苗プリのほうからやってきた雨雲が木々にかかり、突然の雨が降り出す。そんな気まぐれな天候もやはり通常運転だ。天候が持ち直さないため、一旦ホテルへと戻った。

苗場プリンスホテル外観

苗場プリンスホテル外観

三密対策済みの苗プリ

ひとまずの“聖地巡礼”に満足し苗場プリンスに入る。自動ドアが開いた先でまず我々を迎えたのはプッシュ式のアルコール消毒液だった。

プリンスホテルはグループ全体で「Prince Safety Commitment」というコロナ対策ポリシーを定めており、それは苗プリにも適応されている。我々はスタッフによる検温を受けたのちにアクリル板越しのチェックインを済ませ、清掃・消毒済を示す「Safetyシール」が貼られたドアを開けて客室へ。荷物を下ろしたあとは事前予約制に変更された館内レストランでの朝食時間を内線で伝えた。

都内を歩くよりもよっぽど安全そうな、コロナ対策が徹底したホテル内。館内の雰囲気は穏やかで、確かにフェスのときと比較すれば人こそ少ないが、親子連れを中心にそこかしこに宿泊客の姿が見える。「最終営業日ということもあっていつもより若干は多いですね」と話すのはホテル従業員。週明けからスタッフの一部はグループ内の他ホテルなどに転属するなど、決して容易ではない状況ながら、適度な距離感を保ちながらの親切な接客に好感が持てた。

今年もいた“フジロッカー”

最終営業日の8月16日は快晴。フジロック期間中に利用する朝食ビュッフェ会場とは異なる、三密対策済のレストランで定食を摂ってからチェックアウトに向かう。受付にはカメラを構えるテレビ局の取材メンバーの姿があり、苗プリ休館の関心の高さを知る。

ホテルを出たら再びフジ会場を散策。フジロック開催中の一般的なルートでは車でGREEN STAGEより先に進めないため、キャンプサイトの横道から延びる関係者導線を通る。すると最初に目に入ったのは屋根付きステージのRED MARQUEE、の敷地。しっかりした屋根の作りなのでてっきり据え置きかと思いきや、しっかりと解体されてしまっていた。

2020年夏のRED MARQUEE。

2020年夏のRED MARQUEE。

驚きながらステージを背にして、小屋だけが残る苗場食堂や、原っぱと化したOASIS AREAなども歩き回り、記憶を頼りに「ここにあのお店があって」などと回想していると、向かいから若者グループが歩いてきた。お互い「そのままフェスにも行ける装備」に身を包んでおり、ここを訪れた理由は言わずもがなだろう。「やっぱり来ちゃいますよね」「(建物が)ないとびっくりしますけどね(笑)」といった会話をして別れた“フェス参加者”はそのまま森の中でアウトドアチェアを広げ始めた。前日のGREEN STAGEや苗プリ館内でもそうだったが、今回はいたるところで“フジロッカー”の姿を何組も苗場で見ることができた。ZIMAのフジロックコラボ缶を添えて記念写真を撮る家族連れもいて、同類である自分はその様子に延期のやるせなさをいくらか癒やすことができた。

2020年夏の苗場食堂。

2020年夏の苗場食堂。

2020年夏のOASIS AREA。

2020年夏のOASIS AREA。

様変わりした奥地

会場散策を再開。2ndステージとなるWHITE STAGEやオーガニック系アクトの登場するFIELD OF HEAVENは、写真を撮る位置によってはどちらがどのステージかわからない状態になっていた。

2020年夏のWHITE STAGE。

2020年夏のWHITE STAGE。

2020年夏のFIELD OF HEAVEN。

2020年夏のFIELD OF HEAVEN。

毎年メンテナンスをしながら木製のバリアフリー通路を拡大している苗場インディペンデンスボードウォークは、フェスのときのショートカットルートではなく、自然を謳歌できる道という雰囲気に。木道沿いのミニステージ木道亭にはベンチなどの名残があった。

苗場インディペンデンスボードウォーク

苗場インディペンデンスボードウォーク

2020年夏の木道亭。

2020年夏の木道亭。

そしてステージ最奥のエリアはというと、残念ながらロープで区切られ進入禁止に。かつてはORANGE COURTというステージにもなった場所は、もともとのサッカー場として整地されているようだ。

2020年夏のORANGE COURT。

2020年夏のORANGE COURT。

ひと通りの散策を終了し、最後は家族でグリーン&ホワイト間を流れる川で水遊び。フジロックがないからこそ0歳児も連れて来られたのは数少ない延期の恩恵と言えるだろう。風変わりな「フジロック’20」となったが、楽しむことができてよかった。

GREEN STAGE~WHITE STAGE間を流れる川。

GREEN STAGE~WHITE STAGE間を流れる川。

林道

林道

次回開催まで残り364日

冒頭にも書いた通り、苗場プリンスホテルは12月後半まで休業中だ。しかしながら、ホテルの裏に位置する苗場高原オート場(フジロッカーにはPYRAMID GARDENがあるエリアと言ったほうがなじみ深いだろう)は現在も営業中。また、アウトドア向けのアトラクションを楽しめる苗場サマーパークも8月30日まで営業を続ける。もしここに足を運べば、ついでにテントが1つもないフジロックのキャンプサイトを眺めることも可能だ。本日8月21日から3日間のYouTube配信がスタートし、来年のリベンジ開催まで残り1年を切ったフジロック。さまざまな姿勢で開催を待ちたい。

フジロック開催中はPYRAMID GARDENになる苗場高原オート場。

フジロック開催中はPYRAMID GARDENになる苗場高原オート場。

2020年夏のキャンプサイト。

2020年夏のキャンプサイト。

一部取材申請が行き届いていない箇所がありましたので、記事初出時より一部写真と記述を削除しました。関係各位にお詫び申し上げます。

本人

都内在住の30代男性。平日にサラリーマンをしつつ、さまざまなライブやフェスに足を運んでその様子を記録するインターネットユーザーとしても活動している。著書に育児エッセイ本「こうしておれは父になる(のか)」(イースト・プレス)。

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