西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲選び、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説する連載「西寺郷太のPOP FOCUS」。
第8回では2000年代を代表する歌姫・
文
21世紀のシンデレラガール
「STARS」は、2001年にリリースされた中島美嘉さんのデビューシングルで、60万枚の大ヒットを記録しました。自分はこのとき、プロになってすでに5年が経っていました。オーバーグラウンドで、同世代の作曲家・川口大輔くんと、1999年の段階でNONA REEVESもプロデュースしてもらったことがあった編曲家、プロデューサーの冨田恵一さんが作り上げた歴史的な傑作が浸透したことに喜びとうらやましさの入り混じった、大きなショックを受けたことを覚えています。
「STARS」は、中島さん自身もヒロイン役で出演したドラマ「傷だらけのラブソング」の主題歌。完全に日本音楽界が総力を結集して生み出した、“21世紀のシンデレラガール登場!”というイメージでした。ただ、やはりそれも中島美嘉さん個人のミステリアスなパワーがあってこそ。特に誰にも媚びない凛とした歌心は
中島さんは自身でも数多くの作詞をされていて。同じくミリオンセラーとなった2003年の2ndアルバム「LOVE」に収録されている「You send me love」では、中島さんが歌詞を担当し、僕が作曲家として参加することになったこともあり、個人的にも思い入れは深いシンガーです。僕の周りの今30代の女性に、初めて買ったCDが中島さんの作品っていう女性が多いんですよね。「『You send me love』は好きだったけど、あの曲、郷太さんの曲なんですね!! クレジットなんて見てないくらい幼かったんで」と驚かれることが本当に多くて。
“クレジット泥棒”したくなるDK楽曲
改めて記すと「STARS」は秋元康さんが作詞、僕の友人でもある川口大輔くんが作曲、冨田恵一さんが編曲。歌詞、曲、アレンジ、すべてにおいてJ-POPバラードの最高峰じゃないかと。6分を超える大曲で、今ならブリッジの展開も含めてここまでドラマチックに仕上げはしないかも、という気もしますが、この曲が示した世界観が、J-POPの歴史をど真ん中から書き換えたのは間違いありません。
「STARS」のリリース当時、秋元さんは42歳。1980年代は
川口大輔くんは同じ大学の後輩で僕の2個下。いつもは「DK」って呼んでます(笑)。後輩と言いつつ、大学時代は彼とは直接の接点はなかったんですが。川口くんが
この連載を執筆するにあたって、川口くんに電話でインタビューしてみました。彼はもともとソニーの新人オーディション、SDで育成されている新進気鋭のシンガーソングライターで、最初は、2001年3月に
川口くんは2002年に中島さんの大傑作「WILL」も担当。その後、CHEMISTRYもボーカルで参加した2002年の「FIFAワールドカップ」の公式テーマソング「Let's Get Together Now」も手がけて時代の寵児になりました。今に至るまで、
トップスピードに入った冨田恵一
冨田恵一さんは1990年代後半、キリンジのプロデューサーとして頭角を現し、2000年の
ボーカリスト、作詞家として訴えかけるもの
中島さん歌唱の最大の魅力は、低音から高音にかけて急速に駆け上がり、ファルセットも混ぜるときのスリリングさだと思っていて。「STARS」で言えば「無力な言葉よりも」でFからDまで駆け上がるメロディ。そこでゾクっとするんですよね。実は「重ねた唇」(NONA REEVES「THE SPHYNX」収録)ってもともと中島さんに作った曲で。彼女が化粧品のCMを担当されていて、シングルを、とコンペティション依頼を受けて提出したんですが返ってきたので自分で歌いました。化粧品のCM用だから「唇」というキーワードを入れてはいたんです。結果、自分の代表曲になって感謝しているんですが、誰かに歌ってもらおうとして作ると自分のそれまでの領域を広げることができるんですよね。「重ねた唇」の低音から急に上がるようなメロディ、サビ最後の「思い知る」あたりは「STARS」における「無力な」と同じ音程の駆け上がりで、中島さんを想定して考えたものなんですよね。残念ながら返されはしましたが、彼女に歌ってもらえたら絶対にハマるだろうな、と今でも思っています。
「STARS」は、2005年のベスト盤に収録されたとき、ボーカルが録り直されています。確かに、そちらのほうが安定した“中島美嘉感”が出ていると感じます。ライブやテレビなどで何度も歌われて、シンガーとしての個性が確立されたあとのスタイル。聴き比べても面白いと思いますね。個人的には、デビュー版のキャラクターを探りさぐり歌っている純粋な感じも好きです。
西寺郷太(ニシデラゴウタ)
1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。文筆家としても活躍し、代表作は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「
バックナンバー
NONA REEVESのほかの記事
タグ
リンク
- 西寺郷太 ソロ・アルバム『Funkvision』7.22発売。 (@Gota_NonaReeves) | Twitter
- NONA REEVES Official Website
- NONA REEVES Official (@NonaReeves_News) | Twitter
- mahomahowar -しまおまほオフィシャルウェブサイト-
- しまおまほ (@mahomahowar) | Twitter
- shimao maho (@mahomahowar) | Instagram
- Mika Nakashima official website
- 西寺郷太のPOP FOCUS #8 中島美嘉編
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
西寺郷太 @Gota_NonaReeves
中島美嘉「STARS」 | 西寺郷太のPOP FOCUS 第8回 https://t.co/oZxcYqifLp