ここ数カ月、COVID-19の感染拡大に伴って、人となるべく接触せずに家で過ごすことが世界的に推奨されるようになった。この状況を受け、多くの楽器・ソフトウェアメーカーが自社製品を無料で利用できるキャンペーンを行っている。家で過ごす時間を、何かを作ることに当ててみてはどうか、というわけだ。
もしあなたが現在それなりに健康であり、何かを作ってみたい、と思う程度には心や身体や経済に余裕があるならば、こうしたキャンペーンを利用して音楽制作にチャレンジするのも、1つの選択だろう。
この記事では、先に挙げたキャンペーンのほかにも、無料で利用できるソフトウェアなどを紹介しつつ、実際に曲を作ってみたい。音を鳴らすことのプリミティブな楽しみは癒やしや手慰みにとどまらず(いや、それだって悪いことじゃないのだが)、何かアクションに向かうための支えにもなりうるはずだ。
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ウイルス感染拡大に伴って行われている、楽器・ソフトウェアメーカーの無償提供キャンペーン
前述したように、多くの楽器・ソフトウェアメーカーが自社製品を無料で利用できるキャンペーンを実施している。定番DAWソフトの1つ、Cubaseを主力製品とするSTEINBERGは「#StayHome Elements Collection」と題したパッケージを公開。Cubase Elements(DAWソフト)、Dorico Elements(楽譜作成ソフト)、WaveLab Elements(オーディオ編集 / マスタリングソフト)、Absolute Collection(ソフトシンセ / サンプラーのパック)を60日間にわたって無償で使用できる。いずれも最高グレードのフル機能版ではなく廉価な機能制限版ではあるが、これらをダウンロードすれば音楽制作に必要なものはひと通りそろう。
同じく定番DAWソフトのLiveで知られるABLETONは、Live 10の無償体験版の利用期間を90日間まで延長した。また音源パックなども無料で提供されている。
ABLETONはソフトウェアやハードウェアの開発のみならず、教育やクリエイターコミュニティへの支援にも力を入れている。Webサイトを通じて現代的なDAWを用いた作曲のいろはをインタラクティブに学べるLearning Musicや、シンセサイザーについて学べるLearning Synthsはオススメのコンテンツだ。ひと通りやってみるだけで作曲や音作りの基礎を身に付けられる。
APPLEの提供するMac OS向けDAWソフトLogic Pro Xも90日間の試用期間を特別に設けている。Cubase、Live、Logicという定番DAWたちが(あくまで期間限定ではあるが)無償化されているわけだ。
安価なDAWとして知られ、一部で人気のCOCKOS Reaperも期間限定のライセンスを配布中だ。2020年6月末まで利用することができる。
楽器メーカーのKORGは、iOS / Android向けのシンセアプリ、iKaossilatorを無償で提供している。Android版は残念ながら3月のうちに無償提供が終了してしまったが、iOS版は4月以降もダウンロードして使用することができる。Kaossilatorはいわゆるガジェット系機材の嚆矢として2007年の発売から現在に至るまで愛用者が多いシンセサイザーだ。直観的なインターフェースですぐに演奏を楽しむことができる。
同じく楽器メーカーのROLANDは、スマホ~PCなどさまざまなOSで使えるDAWソフト、ZenbeatsのUnlock(機能制限の解除)を無償で提供している。もともとアプリ自体は無料だったが、そのままでは音色の編集やファイルのエクスポート機能に制限があった。Unlockをアプリ内ストアで追加購入することでひと通りの機能を使えるようになる。
ちなみにここに挙げた以外にも、もともと無料で使えるDAWソフトはいくつかある。iPhoneやMacユーザーであればAPPLEのGarageBandは知っているかもしれない。それ以外では、PRESONUSのStudio Oneには機能を絞ったPrimeという無料版がある。TRACKTIONのWaveform(旧名称はTracktion)も、少し前のバージョンを機能制限一切なしで配布している。BANDLAB TECHNOLOGIESのCakewalk by BandLabは、かつてCAKEWALKブランドからリリースされていたSonarが紆余曲折を経て無料DAWとして再出発を切ったものだ。
私の経験で言えば、Studio Oneは現在のメインDAWの1つとして愛用しているし、その前はWaveform(Tracktion時代を含む)を使用していた。また、初めてきちんと使ったDAWはSonarだった。どれもいい選択だと思う。
無料のZenbeatsでフットワークを作ってみる
さて、ひと通りソフトウェアの紹介を済ませたところで、実際に曲を作ってみよう。できるだけ手軽に手を出せるもの、となればスマートフォンで使えるものがいい。残念ながら私はiPhone / iPadユーザーではないので、iOS専用のアプリは除外。というわけで、Androidでも使用できるZenbeatsを使うことにする。CubaseやLiveなどのDAWソフトと違って、期限が切れたからといって購入を促されることもない。
スマホアプリとはいえ、シーケンスを組んで楽器を鳴らすことも、録音したオーディオファイルを編集することもできる。エフェクトをかけたり音量バランスを調整したりするミキサーも備え、DAWソフトとして必要十分な機能が備わっている。スマホのマイクで録音して素材として使う、なんてことも気軽にできるのが面白い。
生楽器を再現した音源からソフトウェアシンセサイザー、そしてソフトウェアサンプラーまで、搭載されている音源は多種多様。音作りのノウハウがなくとも、豊富なプリセットを試してみるだけで、いろいろなサウンドにふれることができる。TR-909、TR-808、TR-707など、Rolandが送り出してきた名だたるリズムマシンの名機からのサウンドも収録されているから、ダンスミュージックのビートメイクにはうってつけだ。
今回作ってみるジャンルは、フットワークと呼ばれるシカゴ発祥のダンスミュージックだ。BPM160あたりの高速で16ビートと3連符が入り乱れるポリリズム的展開と、家庭向けスピーカーでは聞き取れないようなヘビーな重低音を特徴とする。DJ Rashad、Traxman、RP Boo、DJ Clent、Jlinなどが代表的なプロデューサーだが、その裾野は世界中に大きく広がっている。
※動画は現在非公開です。
インストのダンスミュージックということもあり、「歌モノを作ってみたい!」という人にとっては「なんじゃこりゃ?」と思われるかもしれないが、せっかくの機会なのでお付き合いいただきたい。
また、ダンスミュージックの制作ノウハウは、特定のジャンルに限らず、現在の音楽を考えるうえでも重要な観点を提供してくれる。ビートやベースライン、メロディ、ハーモニーといった反復するパターンをDAW上で組み合わせていく手法は、ヒップホップやEDMがポップミュージックに浸透した今では非常になじみ深いものだ。こうした「そもそも今の音楽ってどういうふうに作られているのか?」をもっと知りたいという方には、先に紹介したABLETONのLearning Musicがとても優れた導入になっている。五線譜ではなくDAWを模したインターフェースで、インタラクティブに音楽制作の基礎を知ることができる。そこで得た知識は、Zenbeatsにもある程度応用可能なはず。また、ZenbeatsのUnlock版には、ひと通りの操作をインタラクティブに操作しながら学べるレッスンも収録されており、これをやってみるだけでも操作できるようになるだろう。
せしも @seshiapple
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