多田卓也

映像で音楽を奏でる人々 第6回 [バックナンバー]

ついに1億再生突破!「U.S.A.」のMVはいかにして作られたのか

多田卓也監督が語る、企画と撮影の裏側

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音楽系の映像を手がけているクリエイターに焦点を当てるこの連載。今回はYouTubeでの再生回数が1億を突破し、まだまだ勢いが衰える気配を見せないDA PUMP「U.S.A.」のミュージックビデオを監督した、多田卓也によるコメントの後編をお届けする。

前編では彼のMV監督としての経歴、映像や音楽に対するスタンスなどについて語ってもらったが、今回はいよいよ「U.S.A.」のMVについて言及。この映像がいかにして作られたのかや、「U.S.A.」の大ヒットを経た彼の現状などを話してもらった。

取材・文・構成 / 橋本尚平 撮影 / 梅原渉

MAX「Tacata'」のような少しのズレ

「U.S.A.」のMVがこういうものになった遠因として、僕が2013年にMAXの「Tacata'」のMVを手がけたというのがあります。

僕はふざけたことをするときも本気でやるタイプなので、コメディのような「狙って笑わせよう」という映像を作るのは得意じゃない。「笑ってもらうのは勝手ですけど、こっちは真剣にやってるんで」という態度で、そのズレを笑ってもらうタイプなんです。そういう僕のやり方のほうが「Tacata'」にはしっくり来たのかもしれません。で、その少しのズレが「U.S.A.」にもあったほうがいいんだろうなというのを、MVについての打ち合わせでプロデューサーと話していたんです。

そのプロデューサーというのは、株式会社東京No.1の福和敏さんで、もともとSEP時代に僕の先輩だった人なんです。福さんが「DA PUMPがすごく面白い曲を作ったんだけど、こういう曲ならMVは多田くんでしょ?」って言ってくれたから、「U.S.A.」は僕が監督をやらせてもらえることになりました。初めて曲を聴かせてもらったときは、僕も「これは当たる」と確信しましたね。こんなにパンチのある曲は最近なかったですから。しかもそれを歌ってるのが、多くのダンサーたちが憧れていたDA PUMPだなんて、絶対面白くなるに決まってますよね。

多田卓也

多田卓也

ここ最近、ダンサーやダンスはMVと密接に関わってきています。ダンスを見せるMVを作るときって、MV監督とコレオグラファーの関係は、映画監督とアクション監督の関係みたいなものなんですよ。だからコレオグラファーとの打ち合わせではいつもお互い刺激を受け合って楽しいんですけど、DA PUMPの場合はメンバーが振り付けをやっているので、「U.S.A.」の撮影ではメンバーみんなのセンスをたくさん教えてもらえました。

制約の壁を超えてヒットするのがMVのいいところ

MVを撮るうえで、メンバーの中に「ダンスはこういうのにしたい」というしっかりしたイメージがあったので、その意向に合わせつつ、でも制作予算がすごく限られていたから、とにかくシャープに踊りを見せられる映像にすることにしました。当初メンバーからは「K-POPみたいにしたい」という案も挙がったんですよ。でも、K-POPっぽい映像は予算がたっぷりないとどうがんばっても作れないんです。メンバーのイメージはどんどん膨らんでいくんですけど、やりたいことがいろいろある中で、決められた予算内で何を捨てるべきかを話して、けっこう捨てまくった結果がこのMVなんです。

「U.S.A.」や「アメリカ」といったタイポグラフィに関しては、バラバラなテイストを意識して入れ込んでいます。「カタカナがダサい」っていう人もいれば「イケてる!」っていう人もいる。フォントって人によって捉え方が全然違うので、自分の好みは無視して、機械的にチョイスしています。

音楽と本人たちのパフォーマンスが組み合わさったときに大きなパワーが生まれて、制約の壁を超えてヒットするっていうのはMVのいいところだと思います。それに「U.S.A.」には「溜めに溜めた一発!」っていう勢いがありますよね。「ひさびさの新曲だからメンバーのモチベーションがかなり高かった」というのが、すごく映像に出てるのを感じます。やっぱり根本にあるメンバーの熱意や覚悟が観ている人たちに伝わって、あれだけ再生されたんだろうなと思ってます。

映像制作に興味がある人はご連絡ください

「U.S.A.」はものすごくバズりましたけど、MV監督はあくまで裏方で、アーティストの魅力をファンに届ける媒体の1人に過ぎないので、バズってもどこかちょっと他人事だったりします。もちろん、たくさんの人に観てもらえたという安心感はありますけど、MVはまず曲ありきのものなので、「自分が当てた」という感覚はまったくないんです。

多田卓也

多田卓也

撮影の現場はお祭りみたいな感じでとても楽しいです。だけど、MV監督の仕事は撮影だけでなく、撮影前の準備、撮影後に色を調整するカラーグレーディング、編集作業もとても重要です。同じ映像を撮っても、どういう明るさ、色味にするか、どういう順番でつなぐかで映像が伝える印象はまったく変わるので。特にカラーグレーディングは科学実験のようで映像、色彩や光、コントラストの奥深さを感じます。

とても細かい作業が多いので「映像を観るのが好きな人」よりも「集中して作業をするのが楽しい人」のほうがMV監督は適性があるかもしれません。映像クリエイターになりたい人の数って今、あまり多くない気がするんですが、もし映像制作に興味がある人がいれば、僕はプロアマ問わずそういう人ともっとコミュニケーションを取りたいと思っているから、SNSでもなんでもいいのでご連絡ください。僕の持っているノウハウでしたらできるだけ全部教えますので。

多田卓也が影響を受けたMV

The Chemical Brothers「Let Forever Be」(1999年)

高校の頃、The Chemical Brothersはあまり好きじゃなかったんですけど、ミシェル・ゴンドリーが撮ったこのMVに心を持っていかれて、「The Chemical Brothers、めっちゃイケてる!」って、自分の中の評価がガラッと変わりました(笑)。MVってアーティスト本人も演者として出てくることが多くて、その人を主役にしなくちゃいけなかったりするので、「アーティスト本人が演じたときにイメージに合う映像」にどうしてもなってしまうんですけど、歌が主役じゃない曲のMVはそういうしがらみから自由なのがすごく面白いですよね。

ヴァレンティノ・カーン「Deep Down Low」(音源リリースは2015年 / MV公開は2016年)

Skrillexのレーベル・OWSLAに所属しているアーティストのMVで、YouTubeで4000万回以上再生されてます。目からタコが出てきたり、すごいぶっ飛んでるんですよ。ダンスシーンを入れたりエフェクトを使ったり、実写とCGと混ぜてものすごく密度が濃い映像にしてるんですよね。観ている人が飽きないように。全編にこれだけのパワーがある映像って、映画でやろうとするとなかなか難しいと思う。やっぱりこの尺のMVだからこそできることなんですよ。

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音楽ナタリー @natalie_mu

【解説】ついに1億再生突破!「U.S.A.」のMVはいかにして作られたのか|多田卓也監督が語る、企画と撮影の裏側(動画あり)
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#映像で音楽を奏でる人々 #DAPUMP

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