小さなライブハウスの挑戦 第1回 [バックナンバー]

地下からライブハウス、音楽業界、街を変える

下北沢THREE店長が目論む革命

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東京・下北沢THREEは、茶沢通り沿いの地下にある定員170人のライブハウス / クラブだ。東京の小箱でプレイしているバンドやDJを中心にアーティストからの支持が高く、音楽関係者の口から「今、THREEが面白い」という声を耳にすることも多い。エントランスを同じくして下北沢BASEMENT BARというライブハウスが隣接しており、両店が軒を連ねるテナントの周辺は連日音楽好きで賑わいを見せる。2016年から下北沢THREEの店長を務めるスガナミユウは、アーティストへのチケットノルマを廃止したり、入場無料のイベントを定期的に開催したりと、独自の価値観に従った店の運営を行っている。音楽ナタリーでは彼の連載を設け、下北沢THREEの人気の秘密や個性的な方針についてを探っていくことにした。この連載のイントロダクションとして、今回はそのスガナミにインタビューを実施。下北沢THREEがいかなる箱であるのか説明してもらった。2回に分けて掲載する。

取材・文・構成 / 加藤一陽(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 小原啓樹

下北沢駅から茶沢通り沿いに5分ほど歩いたビルの地下に下北沢THREEは位置する。

下北沢駅から茶沢通り沿いに5分ほど歩いたビルの地下に下北沢THREEは位置する。

地下のフロアへと続く階段。

地下のフロアへと続く階段。

売り上げよりも面白いものを

18歳のときに福島県から上京し、ロックバンドGORO GOLOのフロントマンとしても活動を続けるスガナミは現在37歳。店のスタッフや出演者からは“ユウさん”と呼ばれ慕われている。前代の店長の誘いを受けて下北沢THREEに着任すると、ほどなくして店長に就任。「やりたいことや変えたいことがあった」というのが店長という大役を引き受けた理由だ。店で働くスタッフの平均年齢は約30歳。これは一般的なライブハウスに比べると決して若くないとのことで、そのスタッフの多くがバンドやDJなど音楽活動を行っているのもこの店の特徴だろう。

「以前ある先輩が『ハコの主役は出演者でもお客さんでもなく、スタッフだ』って言っていたことがありました。例えばクラブって、バーのスタッフに会いに飲みに行くみたいなところがあるんです。だから僕は、多少個性があっても求心力のあるヤツを雇っているところがあります。その人に人が集まる、みたいなそんなヤツです。あとこの店は、ライブハウスとクラブの両方の顔があるので、バンドシーン、クラブシーンに精通しているスタッフをそろえています」

フロア入り口のドア。

フロア入り口のドア。

下北沢THREEが人気を集める理由として、個性的なスタッフたちのキャラクターはもちろんのこと、彼らが手がける独自性の強いブッキングが魅力のイベントの数々も上げられる。毎晩さまざまなジャンルのアーティストたちが一堂に会し、熱量の高いイベントを行っている。

「ブッキングへのこだわりは強いです。音楽的な色と言うよりも、“自分たちの好きなもの”という点にこだわっています。常に刺激的なものを提案したいし、そこに関してはストイックでいたい。逆に好きではないものはやらないようにしていて、もしスタッフの誰かがそういうイベントをやっていたら『ダサいことすんな!』ってみんなでイジる(笑)。自分もほかのスタッフにイジられることもあります。売り上げはもちろん大事だけど、僕らの中では面白いイベントを作ったヤツが偉いんです。さらに言えば、例えお客さんが入らなかったとしても、いいイベントだったら、そこにどう人を呼ぶかを考えることが重要なんですよね」

フロアから臨むバーカウンター。

フロアから臨むバーカウンター。

チケットノルマの廃止

スガナミは店長に就任した際、自身の“やりたいこと・変えたいこと”に従い実行したことがある。その一部が、チケットノルマ制の廃止と入場無料のイベントの定期開催だ。店の方針やスタイルによって違いはあるが、一般的にライブハウスは客から取るチケット代とドリンク代、そして出演者へ課すチケットノルマが主な収入源となることが多い。しかしスガナミは店長に就任して早々に、出演者からチケットノルマを取る制度を廃止した。チケットノルマ制は、イベントの主催者や店が出演者からチケットのノルマ枚数に応じた金額を徴収する仕組み。例えば2000円のチケットでノルマが20枚だとすると、出演者は店に4万円を支払うことになる。ノルマを達成した場合、主催者はノルマを上回ったぶんをアーティストに還元する。「20人超えたら50%バック」「100人呼んだら100%バック」など、ノルマやバック率はまちまちだ。

「例えば2000円のチケットを20枚売らなければならないとして、若いバンドマンにとって4万円ってめっちゃ大変です。しかもチケットを売ったところで、お客さんは目当てのバンドしか見ないことが多い。それとライブハウスって、ノルマを払っている出演者に対して『出してやるから』みたいな……権威的な態度を取るところも少なくないんですよね。同世代のミュージシャンたちの中には、『あの時代があるから今がある』みたいなことを言う人もいる。それもわかるんですけど、個人的にはそんな苦労はなくていいし、するなら別の苦労をすればいいと思っていて。もともと下北沢THREEって、僕が店長になる前から出演者からチケットノルマを取るイベントの数が少なかったんです。だから自分が店長になったときに、『だったら全部やめよう』って。ほかの店に、『よそのことも考えてくれなきゃ困る』って言われたこともありました。でも知らない(笑)。悪いことをやっているわけではないし、僕らも企業努力をしていますから」

下北沢THREE店長のスガナミユウ。

下北沢THREE店長のスガナミユウ。

入場無料イベント

毎週金曜の夜、下北沢THREEは入場無料のライブイベント「Block Party」を開催している。このイベントは現在では名物企画となり、店の特長として知られるまでに成長した。

「この店に来る前に新宿LOFTで『歌舞伎町Forever Free!!!』っていう無料イベントをやっていて、それが原型です。そもそもは単純に自分たちが遊びやすくしたかったと言うか、無料だと友達も招きやすいし、いいじゃんって。一方で自分たちのいる音楽業界の状況について考えているうちに、それに対するカウンターになるものをやってみたいという気持ちもあった。無料イベントをやることで、いわゆるライブハウスの従来の仕組みに対して問題提起ができるんじゃないか。そう思ってやっているところもあります。ライブハウスって、昔からずっとお客さんはチケット代とドリンク代を払って入場しますよね。だからライブハウスにふらっと立ち寄ることができないんです。でも無料だったらジョギングのついでに来ることだってできる。それってパイを増やすにはいい。それと、仮にチケットが100枚売れるバンドでも、7割くらいのお客さんはいつもと同じ人なんです。それはそれでいいことだけど、“知らない音楽に偶然に出会う”みたいな可能性にアプローチできていないなって。偶然音楽と出会うきっかけを作りたいって気持ちがあるんですよね」

下北沢THREEの店内。

下北沢THREEの店内。

実際「Block Party」がきっかけとなって、出演者、客、業界関係者たちが出会い、つながっていくことは多い。レーベルからのリリースの機会を得た出演者もいたそうだ。しかし気になるのは店の経営状況。チケットノルマ制を廃止したうえに、定期的に無料イベントまで行っている同店は、ただでさえ満員でも170人の小箱だ。

「今は不定期にしていますけど、一時期は月曜も毎週無料だったんですよ。そうすると月10日くらいが入場無料(笑)。それで運営ができているって本当に奇跡だと思います。だからこそ、出演者とお客さんにこの店のやり方を理解してもらうことが重要でした。『例え1人しかお客さんが来なくても、ウチは出演者からお金を取ることはない。その代わり気合いを入れてお客さんを呼んでくれ』って。つまり宣伝をがんばってくれってことなんですけど。出演者にもなるべく店のドリンクを飲んでもらう。バンドって自分で持ち込んだ缶チューハイとかを飲んでいることがあるんですよ。でもウチは持ち込みを禁止しています。出演者が控え室にこもっているより、フロアやバーで一緒に盛り上がっていたほうがイベントも絶対盛り上がります。あとは打ち上げもなるべくしっかりやってもらいたい。そこを口を酸っぱく言うようにしています。もう一蓮托生ですよね。そうやって“この自由な空間がいかにして成り立っているのか”をしっかり説明しています」

下北沢THREEの店内。

下北沢THREEの店内。

店内の壁には“持ち込み禁止”の張り紙が。

店内の壁には“持ち込み禁止”の張り紙が。

次回は下北沢THREEの運営が成り立つ仕組みと、スガナミの今後の展望について聞いていく。

<つづく>

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スガナミユウ

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読者の反応

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ゆうやけしはす @yuuyakeshihasu

運営の仕方を変えようとしているのは下北発の文化で中央線沿いのムーブではないのが原因だ。
中央線沿いのハコは今もだいたいこんな感じ。

まずは諸悪の根源ノルマ制の廃止から始めよう!

https://t.co/Phi3lGLUw9 https://t.co/CFN0DU2hUO

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