坂本龍一の“最後の3年半”から内田也哉子が受け取ったものとは

10

824

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 22 59
  • 743 シェア

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」のトーク付き試写会が本日11月7日に東京・ユーロライブで行われ、坂本と親交のあった文筆家の内田也哉子、本作プロデューサーの佐渡岳利が出席した。

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会の様子。左から佐渡岳利、内田也哉子

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会の様子。左から佐渡岳利、内田也哉子

大きなサイズで見る

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」は、2023年にこの世を去った坂本の最後の3年半をたどるドキュメンタリー。坂本が目にしたもの、耳にした音を多様な形式で記録し続けた「日記」を軸に、遺族の全面協力のもと提供された貴重なプライベート映像やポートレートを1つに束ね、その軌跡をたどっている。Yellow Magic Orchestra(YMO)などでともに活動した盟友・高橋幸宏との知られざる交流や、最後の作品となった未発表曲の制作過程など、「理想の音」を最後まで生み出そうと情熱を貫いた坂本の姿がスクリーンに刻まれた。生前坂本と親交のあった田中泯が日記の朗読を担当している。

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」ポスタービジュアル

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」ポスタービジュアル [拡大]

本作を鑑賞した内田は「1人の人間が生きて生きて、やがて枯れていく姿、厳かな自然を眺め、見守るような親密な映画でした。この機会に出会えて幸せです。なかなか言葉でまとめるのは難しいんですが、反芻しながら余韻に浸っています」と語る。坂本と出会ったのは19歳の頃だそうで「新婚旅行でニューヨークに行きまして、知人を介してレストランでお会いしたんです。まだ教授は40代。仏様のような感じで座ってらしたんですが、ちょっとギラギラしたバッドボーイの危うさみたいなものも感じて。すごくかっこいい大人だと衝撃を受けました」と言い、「その後ご自宅までお邪魔して、明け方までお話ししたんです。途中、当時6歳ぐらいだったお子様が『怖い夢を見た』とやって来た。そしたら坂本さんは『どんな夢だった?』『こういうふうにしてみたらどう?』って真剣にお話しされていて。息子さんは『戦ってみる』って納得して眠りに戻ったんです。その姿を見て、いつか自分も親になったとき、こうやってフラットに子供と語り合えたらと、憧れを抱きました」と口にした。

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会に登壇した内田也哉子

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会に登壇した内田也哉子 [拡大]

一方の佐渡が坂本と出会ったのは2000年のこと。「細野晴臣さんの特番で、通称『どてらYMO』という番組が初めてのお仕事でした」「坂本さんは興味を持たれたことにストレートな方という印象で、お仕事をする中で自分の意識を変えてくれた大きな存在なんです」と伝える。また本作が、2024年にNHKで放送された「Last Days 坂本龍一 最期の日々」をベースに制作されたことに触れつつ、「テレビで音楽を描き切ることは難しいだろうと思っていたので、放送する前から映画化の話は出ていました。映画になって、しっかり音楽の部分が描かれていると思います」と紹介。さらに、本作の制作のため坂本の日記を初めて読んだときのことを思い返し「こんなに筆まめだったんだとびっくりしました。食べ物、映画、音楽の話など書いていらっしゃることと、ご本人にブレがない。わりと等身大の姿を見せていただけていたんだなと思いました」と言及する。内田は「映画でピックアップされている言葉を読んでいると、坂本さんはご自身の感覚そのものを面白がっているというか。生粋の表現者で、自分自身をも俯瞰して見ている。表現されていることに嘘がなくて、本当にすごいなと思いました」と言い、「ご家族から提供された映像で作品ができあがる。稀有な作り方をされた映画だと思います」と語る。これを聞いて佐渡は「我々はなんにもしてないんです。それだけにこの映画には、坂本さんご自身が凝縮されています」と説明した。

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会に登壇した佐渡岳利

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会に登壇した佐渡岳利 [拡大]

トークイベントでは内田が、母である樹木希林とのエピソードを回想しつつ言葉を紡いでいく場面も。「幼い頃から、母は親戚や知人が亡くなると真っ先に私をお通夜に連れて行って『顔をしっかり見なさい!』と言っていたんです。それが子供ながらに怖かったんですが、母は動いていたおじちゃんやおばちゃんもこうして死ぬんだよということを伝えようとしていたんだと思います。その後、母は自分が病を患ったとき『自分の家で、日常の中で、娘や孫に自分が老いて亡くなる姿を見せたい』とはっきり言っていて。どうして死に様を見せるんだろう、死にこだわるんだろうと疑問だったんです。でも母が亡くなってから、死を見つめるからこそ生がより輝く、1分1秒無駄にできないんだという思いからだったんだとわかりました。坂本さんもどこかで、表現者として、必死に生きて、命を閉じていく姿を世界中のファンに受け取ってもらいたかったのではないだろうか?と感じました。他人ではなく、ご家族が日常を映してはいますが、つらい状況でカメラを向けられるというのは相当な覚悟だったのではないかと思いました」と述べる。そして坂本が東北ユースオーケストラの演奏を見る場面に触れ、「子供たちと坂本さんの心がシンクロして、本当に坂本さんの人間性を表しているなと思いました」「以前坂本さんに『なぜ若い頃から、日陰になっている人やものに目をかけてきたんですか?』と聞いたら、『自分は見て見ぬふりができないんだ』と照れながらおっしゃっていたんです。本当に稀有な方だったなと。今はいないけれど、彼のレガシーは皆さんの心の中に蓄積されていると感じます」と言葉に力を込めた。

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」場面写真

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」場面写真 [拡大]

最後に佐渡は「坂本龍一さんという、稀有な方が最後の3年半をどう生きたのか? それがこの映画には凝縮されています。どういうふうに最後のときを生きて、何を生み出し、残せるのか? 坂本さんのような芸術家でなく僕らにとっても、この映画は糧になる作品だと思っています。1人でも多くの方に観ていただきたいです」と力説。内田は「テーマがテーマなだけに、言葉にして映画に対する思いを伝えるのは本当に至難の業です。坂本さんは“体としては”いらっしゃらない。それは悲しいことなんですが、音楽、思いは確実に残されています。それをどう私たちが生かしていくのか? 膨らませていきながら、この世の中を豊かにしていける。この映画は老若男女が何かを受け取れる作品です。どうか皆さん、お友達、ご家族を誘って何度でも観てください」と呼びかけた。

大森健生が監督を務めた「Ryuichi Sakamoto: Diaries」は、11月28日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」本予告

映画作品情報

この記事の画像・動画(全15件)

© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」本予告

読者の反応

ryuichi sakamoto @ryuichisakamoto

坂本龍一のドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」トーク付き試写会より:
https://t.co/sqpzX63U67

「Ryuichi Sakamoto: Diaries」は、11月28日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開!

"Ryuichi Sakamoto: Diaries" will be released nationwide starting November 28th at

コメントを読む(10件)

関連記事

リンク

関連商品

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャの映画ナタリー編集部が作成・配信しています。 Ryuichi Sakamoto: Diaries / 内田也哉子 / 坂本龍一 / 大森健生 の最新情報はリンク先をご覧ください。

映画ナタリーでは映画やドラマに関する最新ニュースを毎日配信!舞台挨拶レポートや動員ランキング、特集上映、海外の話題など幅広い情報をお届けします。