本作は、2023年にこの世を去った坂本の最後の3年半をたどったドキュメンタリー。坂本が目にしたもの、耳にした音を多様な形式で記録し続けた「日記」を軸に、遺族の全面協力のもと提供された貴重なプライベート映像やポートレートを1つに束ね、その軌跡をたどっている。Yellow Magic Orchestra(YMO)などでともに活動した盟友・高橋幸宏との知られざる交流や、最後の作品となった未発表曲の制作過程など、「理想の音」を最後まで生み出そうと情熱を貫いた坂本の姿がスクリーンに刻まれた。
本作のベースになったのは、2024年にNHKで放送され反響を呼んだ「Last Days 坂本龍一 最期の日々」。同番組が、世界の優れたテレビ番組を表彰する国際エミー賞のアート番組部門で最優秀賞を受賞したことから、イベントではまず田中と大森に花束が贈られた。日本時間の11月25日に米ニューヨークで行われた授賞に出席した大森は「坂本さんは、“世界の坂本龍一”という語られ方をしますが、本当にその通りなんだと、実感する授賞式でした。生き方が、その音楽以上に、人々の心を震わせていたんだと感じました」と伝えた。
大森と、坂本と深い関係にあった人間が議論を重ね、日記の朗読ができるのは田中しかいないとオファーすることになったそう。田中は「文学者や詩人が死に向かう心境を書いたものを、これまでもかなり読んできましたが、坂本さんの日記はどうも、日記を読む人や世界に対して鉛筆を走らせていた気がしてしょうがないんです。今生きている私が、その文字を私の感覚で読む、観客に上手に聞かせよう考えるのは違うなと思いました」と振り返り、「一生懸命に出てくる言葉は、センテンスになっていない部分がすごく多くて、準備された言葉やセリフとはまったく違うもの。映画を観ている人たちにとっては、段取りがわからない言葉が連続していたと思います。要するに体で受け取らないと感じ取れないものばかりなんです。私はダンサーなので、自分の体を通して、それを口に出していく、映画を観る人に伝えていくというのは猛烈なプレッシャーを感じました」と明かす。そして「ナレーションは大好きなので、随分やってきましたが、今回はそういったものとは違いました。なぜこの瞬間にこれを日記に書いているんだろう? 自分の経験を総動員してもわからないことがありました。坂本さんが捉えるみかんと、自分が捉えるみかんはどれぐらい違うのか? いろんな環境を想像しながら、自分の口から何百回とみかんという言葉を口から出してみました。自分の踊りを総動員して、坂本さんの言葉を捉えていったような気がしています。大変勉強になりました」と口にした。
また「坂本さんの日記は、死んでいくことだけにとらわれて書かれたものではないです。1つの単語を選ぶとき、何千人、何億人の人が向こう側にいたはずです。まったくの孤独で書かれていません。それは間違いないです。絶望も書いていません。絶望や悔しいと(文字では)書いています。でもそれそのものを書いているわけでは決してないんです。だから皆さんは暗くなる必要はないんです」と語りかけ、「僕たちは死にます。そして間違いなくたった一度の人生を送っている。これが1番大切なこと。皆さんそれぞれ違う状況の中で、この映画を観ている。そのことが素晴らしいんです」と言葉に力を込める。大森も初めて坂本の日記を読んだ際のことを振り返り「日記に出会ったときは非常に大きなショックを受けました。一方で、亡くなられて2年半が経って、だんだんとそこに書かれている言葉の見え方も変わっていると思います。日記を読んで、そうだ!前を向かなきゃと思えたり。人間はいつか亡くなることが決まっている中で、ばっと輝く瞬間がちりばめられている日記だと感じています」と言及した。
生前の坂本との交流に話が及ぶと、田中は「自分たちが今、この世に生きているというところから話が始まって、人間っていったい何をしていくんだろうか。生き物としての人間の未来や、人間のやってきたことなど、そんな話ばかりでした。宇宙的世間話と考えればいいのかもしれない。そんな会話をだーっと何時間もしていた。たいした回数ではなかったですが、彼とした会話は、僕が死ぬまで残っていくものです。亡くなってしまった大好きな人たちとは、会話を続けているつもりで生きています。恥ずかしい思いをしたくないという気持ちと、見ていてほしいという気持ちがある。そして坂本さん対しては、一緒に戦わなければいけないという思いもあります。坂本さんが嫌いだったもの、それに対して、自分もそう思うと伝えていました。そういうものを僕なりに引き受けていくつもりです」と口にした。
イベント終盤には、「坂本の魅力とは?」という質問が飛ぶ場面も。これに田中は「言葉で言わなきゃいけないですか?」と笑ってから、「さっきも言ったように、僕は(坂本と)付き合い続けようと思っているんです。坂本さんは、ガキンチョ坂本龍一というか。大人なんだから、長いものに巻かれていいじゃないかといったものに、絶対に『うん』と言わないで生きた人。皆さんもたぶん彼に共感するのは、そういうところなんだと思うんです。社会的バランスとか、人間はこうしなきゃとか、そういうものとは無縁のものを、彼がやってきた表現の中からキャッチしている。分類したいという人もいるかもしれないですが、坂本さんはそういうものに応えられるような人じゃなかった。そういう人に会いたくて、僕は生きています。たぶん皆さんもそれに近い感覚をお持ちだから、今日足を運んでいるんじゃないでしょうか? そんな皆さんに共感するから、僕もこんなに一生懸命しゃべってます」とほほえむ。これに会場からは大きな拍手が贈られた。
最後に田中は「人間は死んだ人のことを忘れるようにできている。だから墓参りとかお盆とかがあると思うんです。でもそんなことも忘れましょう。坂本龍一という名前も忘れてもいいのかもしれない。彼がくれる刺激を忘れないようにすればいいんじゃないでしょうか。この映画のことを誰かに伝えてあげてください。それが坂本さんへの一番の供養かもしれません。お願いします」と呼びかける。そして大森は「大手を振って『観てね』となかなか言い難い面があるタイプの映画ではありますが、深く、静かに、じんわりと浸透していくといいなと思っています。できれば近しい人、あわよくばその隣の人まで、シェアしてくださるとありがたいです」と語った。
「Ryuichi Sakamoto: Diaries」は、全国で上映中。
映画「Ryuichi Sakamoto: Diaries」本予告
関連記事
坂本龍一の映画作品
関連商品



tonia @tonia_ysmgo
【「Ryuichi Sakamoto: Diaries」舞台挨拶レポート】
田中泯、坂本龍一との“宇宙的世間話”を回想「これからも会話を続ける」 https://t.co/P5OLch81fP