三宅唱とリティ・パンが東京で再会、映画・仕事・死に方を語り合う

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第38回東京国際映画祭が開催されている本日11月1日、映画監督の三宅唱リティ・パンが東京・LEXUS MEETS…で対談を行った。このイベントは、映画人同士が国や世代を超えて語り合う場「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」の一環として実施された。

左からリティ・パン、三宅唱。「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」で対談を行った

左からリティ・パン、三宅唱。「国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ」で対談を行った

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三宅の新作「旅と日々」は、第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門で最高賞にあたる金豹賞とヤング審査員特別賞を受賞。同映画祭で審査委員長を務めたのがカンボジア出身のリティ・パンだった。一方、リティ・パンの新作「私たちは森の果実」は第38回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されている。同作はカンボジア北東部の山岳地帯で暮らす先住民ブノン族の人々を数年にわたり撮影したドキュメンタリーだ。ロカルノを経て東京で再会した2人が、互いの作品をめぐって語り合った。

左からリティ・パン、三宅唱

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「旅と日々」に圧倒された、リティ・パンが絶賛

冒頭、三宅が「今日は審査員としてではなく、オフィシャルではない言葉を聞きたい」と切り出すと、リティ・パンは「それは機密事項です」と冗談めかしながらも、「『旅と日々』の金豹賞は満場一致でした。人間の孤独や、互いに求め合う姿、そして自己探究を描き、平凡な中にある人生の大切な時間を見つめている。観客が自分を重ねて考える機会を与えるような作品が、私は好きです」と振り返る。

三宅唱監督作「旅と日々」場面写真。左から堤真一演じるべん造、シム・ウンギョン演じる李 ©2025『旅と日々』製作委員会

三宅唱監督作「旅と日々」場面写真。左から堤真一演じるべん造、シム・ウンギョン演じる李 ©2025『旅と日々』製作委員会 [拡大]

さらに「“職業”について語られる映画に惹かれます。今回も作中でインテリジェントなアプローチをしていました」と続け、「監督としてあらゆるレベルでいい仕事をしていらっしゃる。演技も、照明も、ショットの間も……素晴らしいものが凝縮された作品です」と絶賛。また過去の撮影経験を重ねて「昔アフリカで撮影していたとき、ドゴン族の言葉に“ダム”というものがありました。フランス語で“神の恩寵”を意味します。『旅と日々』を観て、その言葉を思い出しました。それぞれの人物が光を宿している。監督とは、その恩寵の瞬間をカメラで捉える仕事なのです」と語った。

リティ・パン

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三宅唱が明かす、よみがえった祖父の記憶

三宅は「僕だけ幸せな時間になってしまっていますね(笑)。特に“職業を描いている”という点は、自分が映画を観るポイントと共通しているのでうれしいです」と笑みをこぼし、続いてリティ・パンの「私たちは森の果実」の感想へと話を移す。「個人的な思い入れになりますが、この映画に映るさまざまな“手”を見ながら、亡くなった祖父の手を思い出しました。祖父は北海道でメロンを作り、時には炭鉱でも働いていた。土を触り、木を触り、大きなゴツゴツとした手でした。撮らなければと思いながら撮り逃してしまった。その記憶がこの映画でよみがえりました」という三宅の言葉に、リティ・パンは「手にはその人の歴史が刻まれています」とうなずく。

三宅唱

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そして「私の映画には多くの“手”が登場します。働く手、作る手、あるいは戦う手。クメール・ルージュの時代、私は繊細な手をしていたために命を落としかけました。彼らが標的にしたのはブルジョワ層だったから、そのような華奢な手をしていると狙われる。手を見れば、その人の人生がわかるのです」と続け、「私の作品では、資本主義や環境破壊の中で少数民族がどう生きるかという問題を描いています。彼らの手や仕草は、文化を守るための戦いでもある。だからこそ、その動きをクロースアップで捉えることが重要なのです」と説明した。

リティ・パン監督作「私たちは森の果実」場面写真 ©CDP / Anupheap / Arte

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次回作は…スーパー8で撮るという“反抗”

リティ・パンが「あなたの作品は人間のリアリティをよく観察している。アイデアはどのように生まれるのですか?」と問いかけると、三宅は「『旅と日々』に関しては、つげ義春さんのマンガが原作です」と答えつつ、「俳優と一緒に仕事をしていると、『今しか撮れない』という感覚があります。彼らも人間なので10年後には違う姿になっている。だからこそ『今この瞬間にしか撮れないものに立ち会っている』という感覚が、自分の映画作りの根底にあります」と答えた。

また観客から次回作について質問が飛ぶと、三宅は「脚本を執筆中です。おそらく2027年に発表できると思います」と明かす。リティ・パンは「三宅監督は“現在”を生きていますが、私は時間の外に生きていますから。人に頼まれて書くことはできない」とはぐらかしながら、「次はスーパー8(8mmフィルムカメラ)で撮りたい。今の観客は常にスマートフォンの小さい画面に目が釘付けで、シリーズものの1話分の長さは“地下鉄の2駅分”が基準だと言われている。そうしたフォーマットを批判するつもりはないけれど、私たちは1本の映画としてきちんとした尺で撮ろうと努力している。スーパー8で撮ることは反抗でもあります。もし誰も観てくれなかったら、監督を辞めてファストフード店でも開こうかな」とユーモアを交えて語る。「笑うところじゃないですよ。私、料理がうまいですから」と重ねると、三宅は「じゃあ両方やるのはいかがでしょう」と応じ、会場を和ませた。そして「監督の作品にはいつも新しいチャレンジがある。次回は8mmで撮るとお聞きして、すごく楽しみです」と期待を込めた。

握手を交わす三宅唱(右)とリティ・パン(左)

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リティ・パンが説く“素晴らしい死”に至るには

終盤では、「働くこと」というテーマにも話題が及んだ。三宅は「父や祖父が働く姿を見るのが好きでした。いろんな仕事がありますが、僕自身はオフィスで働いた経験はないので、街で働く人たちを見るのは興味深い」と語る。一方、リティ・パンは「私はそろそろ仕事を辞めたい」と冗談を交えつつ、「つらい仕事、簡単ではない仕事もありましたが、どんな仕事からも学べた実感がある。仕事ではなく“経験”と呼べるかもしれません」と強調。また「今、世界は複雑で、私自身もイライラしてしまうことが多い。だからこそ、落ち着いて1日1ついいことをするのです」と語り、「私が死ぬときは急死だと思う。目の前に素晴らしいものがパッと現れて『天国に行けるんだ!』って。嫌なことばかり抱えて死ぬより、いいことを抱えて死にたい。一日一善。そうすれば最後には素晴らしい死に至る。それが私の仕事の定義です」と自論を華麗に展開。三宅の「完璧ですね!」という感嘆で、1時間にわたる対話は幕を閉じた。

指ハートをカメラに向けるリティ・パン(左)と、笑顔を見せる三宅唱(右)

指ハートをカメラに向けるリティ・パン(左)と、笑顔を見せる三宅唱(右) [拡大]

東京国際映画祭は11月5日まで開催。「旅と日々」は11月7日に東京・TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国で公開される。

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映画「旅と日々」本予告

映画「私たちは森の果実」クリップ | 第38回東京国際映画祭コンペティション部門

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三宅唱氏とリティ・パン氏が東京で再会し、映画や仕事、死に方について深い対話を交わしました。この貴重な機会は、彼らの創作や人生観をより深く知る場となりました。今後の彼らの活動に期待が高まります。🌟
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