サメ映画ではない作品を「サメ映画的である」とこじつけて語る、サメ映画ルーキーの新連載がスタート! 初回は彼が愛してやまない「KING OF PRISM」シリーズと、なぜかハリケーンが海から大量のサメを巻き上げることで知られる「
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サメ映画ルーキーとは?
サメ映画専門のバイヤー兼翻訳家。「(ほぼ)月刊サメ映画」編集長。日本サメ映画学会会長。サメ映画の魅力を日々伝え続けている。2022年に「KING OF PRISM」シリーズにハマり、2024年7月には神奈川・イオンシネマ海老名で20時から翌6時40分頃まで行われたオールナイト上映にも参加した。
サメが出なくてもサメ映画になり得る可能性が出てきた
2025年は「ジョーズ」劇場公開から50周年だ。サメ映画の起源については諸説あるが、多くの人は「ジョーズ」を祖とみなしている。私がサメ映画の世界に足を踏み入れたのは2018年。それ以来、買付、翻訳、プロデュース、日本サメ映画学会の設立、東京国際サメ映画祭の開催など、あらゆる活動に手を染めてきた。だがサメ映画史の長さで見れば、まだまだ新人(ルーキー)である。サメ映画は年々盛り上がりを見せているものの、依然としてニッチだ。そこで本連載では、他の人気作品とサメ映画をあえて結びつけ、そのファンをサメ映画に呼び込む。サメ映画の世界は奥深くはないが、バリエーションだけは豊富だ。だから、たいていの作品に言いがかりをつけることが可能だ。
世間一般の感覚で言えば、「サメ映画」とは「サメが出て人を襲う映画作品」である。だが「サメが出ないサメ映画」こと「ノー・シャーク」の登場で、サメ映画の意味世界は完全に荒廃してしまった。サメが出るのがサメ映画であったはずが、サメが出なくてもサメ映画になり得る可能性が出てきたのである。サメ映画になじみのない方には意味が分からないかもしれない。だが正直、私もよく分かっていないので安心してほしい。ともあれ、この連載ではサメ映画以外の作品に対して「サメ映画的である」と言いがかりをつけていこうと思う。別ジャンル一作とサメ映画を無理やりでも接続していく。頑張ってついてきてほしい。
過剰演出がもたらす脳の弛緩
初回である今回は、一見してサメ映画からほど遠いものを取り上げてみたいと思う。今年6月に新作「
キンプリは、「プリズムスタァ」と呼ばれる少年たちが歌・ダンス・プリズムジャンプを融合させた〈プリズムショー〉で「煌めき」を爆発させる物語。キンプリで最も耳目を引く要素は、プリズムショーで披露されるプリズムジャンプだ。ギリシャ神話になって銀河鉄道でハリウッドに行って星座になるシーン、鋼の腹筋から放たれた光球で会場が空爆されるシーン、地球が黄色かったことを人類が知り、惑星でビリヤードをして太陽系に新たな秩序をもたらすシーンが有名である。キンプリはそうした派手な演出を乱発する一方で、根幹のストーリーはシンプルで直球だ。傑作「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフの名に恥じない、悩める少年たちが壁にぶつかりながら成長していくという熱いドラマが展開される。そして「プリズムショーは心の煌めき、プリズムジャンプは心の飛躍」という合言葉のとおり、彼らの内面的な成長と、パチンコの大当たり演出のようなド派手なプリズムショーは強く結びついている。
キンプリエリートである諸兄姉におかれては、いまさらこれ以上の説明は不要だろう。なので、ここからは「俺の地元の祭り」を紹介させてほしい。突然だが、サメ映画におけるスタァとは誰か? 当然サメである。では、その「キング」とも呼べる作品は何か? それはサメを飛ばすことで人々の心にときめきと煌めきを与え、それまで「ジョーズ」が支配的だったサメ映画に革命を起こし、「サメ映画界の絶対王者」として今なお君臨している「シャークネード」である。
世界をシャークネードが覆い、人類は滅亡
「シャークネード」シリーズは2013年に始まったTV映画である。カリフォルニア沖でサメが大量発生し、運悪く巨大ハリケーン・デヴィッドも発生。なぜかハリケーンは海から大量のサメを巻き上げてカリフォルニアに上陸し、都合よく人々の頭上に降り注ぐという大災害が描かれる。一作目でカリフォルニアを破壊し尽くしたシャークネードは二作目でニューヨークを襲い、マンハッタンと自由の女神を粉砕。三作目ではワシントンD.C.を瓦礫の山にして宇宙にまで進出し、四作目ではアメリカ全土を同時に襲う規模になる。ちなみにその余波でカウネード(牛を伴う竜巻)やニュークリアネード(核ネード)なども発生している。そして極めつきとなる五作目では世界をシャークネードが覆い、人類は滅亡してしまうのである。サメによる人間のキルカウント70億は、いまだに破られていない最高記録だ。
そんなシャークネードに立ち向かうのは、元サーファーのフィン・シェパード。本シリーズのもう一人のスタァである。サーファー要素があまり回収されないまま、彼はチェーンソー使いとしての技術をメキメキと上達させ、後に教皇からホーリーチェーンソーを賜ることになる。フィンがどんどん人間離れしていく一方で、妻のエイプリルも文字どおり人間をやめていく。大気圏に突入するサメの腹の中で息子の出産を終えたエイプリルは、不幸にも落下してきたスペースシャトルの下敷きとなり死亡してしまう。しかし、父の力でサイボーグとして核兵器並みの武力をもって、彼女はよみがえる。フィンやエイプリルの活躍を通じて、「シャークネード」ではピュアな「家族の愛」が描かれる。彼らは家族を守るために世界を守るのだ。不用意にシェパード家に近づくとサメの犠牲になる確率が跳ね上がるという問題はあるが、大味なハリウッド映画よろしく、毎回なんだかんだでいい感じに話が終わるのもこのシリーズの特徴だ。
異常な映像の奔流を前にすればもう泣くしかない
キンプリと「シャークネード」はジャンルが違う、ファンが違う、違うだろすべてがと言われたらそれまでだが、作品の構造には共通する部分がある。どちらも現実にはあり得ない映像を叩きつけて観客の思考のブレーキを弱めつつ、ストレートなドラマで観る者のハートを揺さぶる。衝撃のビジュアルと展開でこちらをボコボコにしておきながら、「怖い思いをさせてしまったね…」とでも言うように、最後は優しく手を差し伸べてくる。だからこそ、札束が舞い散る中で野生動物たちと踊り狂い、天然ガスが噴出するシーンでも、頭だけになってサメに食われたサイボーグの妻とキスをして、核爆発に至るシーンでも、なぜか涙が出てしまうのだ。「シャークネード」にはキンプリほどの格はないかもしれないが、異常な映像の奔流を前にすればもう泣くしかないという点では近いところがあるはずだ。
ところで、前述したように五作目でサメにより人類が滅亡してしまうのだが、それで終わらないのが「シャークネード」である。「
「KING OF PRISM-Your Endless Call-み~んなきらめけ!プリズム☆ツアーズ」
大ヒット上映中
Blu-ray&DVD 2026年2月25日(水)発売
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