第3回新潟国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門にノミネートされているストップモーションアニメ「
本作は1970年代のオーストラリアを舞台に、カタツムリを集める孤独な女性グレースを描いた物語。グレースは、頼もしい双子の弟ギルバートと愛情深くひょうきんな父親と幸せに暮らしていた。しかし突然、父が睡眠時無呼吸症候群で亡くなり、グレースとギルバートは別々の里親のもとで暮らすことに。2人は手紙で励まし合い、再会を約束するが、グレースは寂しさのあまりカタツムリを集めることだけが心のよりどころの孤独な日々を送る。そんなある日、彼女はピンキーという陽気なおばあさんと出会い、やがてかけがえのない友達になっていく。
エリオットは「私の作品はすべて、自分の家族や友達からヒントを得て作っています」と話し始め、「この物語は、私の両親が“ため込み症”であることを参考にしているんです。そして、知り合いに唇が割れて生まれてきた女の子がいるのですが、すごく楽天的かつ外交的に育ったことに魅力を感じて取り入れました」と、登場人物たちのキャラクター設定に言及する。製作期間は8年にわたり、セットの数は200、小道具の数は7000、カットの数は13万5000。グレースの口元のパーツだけで100種類以上あると言い、エリオットは「ハンドメイドで16週間掛けて作りました。デジタル技術にも頼りましたが、それは不要なものを“消す”のに使っただけで、皆さんが見えているものはすべて手作りです」と明かした。なお使用した主な素材は紙、粘土、ワイヤー、絵の具の4つで、布は一切使われていないという。
観客から「ストップモーションアニメを制作する技術はどこで身に付けたのか」という質問が飛ぶと、エリオットは「29年前にオーストラリアでアニメーションを学びました。最初は2Dのアニメを作ろうと思っていたけど、1日中コンピューターの前に座っているのはつまらないなと思い、手を動かすことも絵を描くことも好きだったので、コマ撮りに魅力を感じました」と答える。当時の友達には「(コマ撮りアニメは)廃れていくのに」と笑われたと言うが、「今でもギレルモ・デル・トロやティム・バートン、ウェス・アンダーソンが作っていて、このジャンルはまったく廃れていませんよね」とほほえんだ。
「かたつむりのメモワール」の撮影においてもっとも苦労した点を問われたエリオットは、「グレースが(家に)ため込んだものを映していく最初のシーンです。2週間掛けてすべてのパーツをくっつけていき、アームの先端にカメラを取り付けたもので2週間撮り続けました」と制作秘話を披露する。7人のアニメーターが1日5~10秒ずつ撮影したと言い、エリオットは「33週間で仕上がりました。速いほうだよね!」とおちゃめに伝えた。
本作のプロモーションのため、10カ月前からスイス、フランス、アメリカなどさまざまな国を訪れているというエリオット。彼は「作品への反応の違いを学んでいます。ただどの国においても、グレースやピンキーやギルバートは共感を得られるキャラクターだと感じています」と述べる。続けて「特にグレースは寂しさや孤独を抱え、自分が社会になじめないと感じているキャラクターですが、“自分の居場所がない”という状況はすべての人が感じたことがあると思うんです。私は、観客が共感できる作品でなければ監督として失格だと思っているので、皆さんに笑ってほしいのと同時に、泣いてもほしい。心の栄養になったと感じてもらえるとうれしいです」と伝えた。
「かたつむりのメモワール」は6月27日より東京・TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国で順次公開。声のキャストには、サラ・スヌーク、ジャッキー・ウィーバー、コディ・スミット=マクフィー、ドミニク・ピノン、エリック・バナ、ニック・ケイヴが名を連ねた。
第3回新潟国際アニメーション映画祭は、3月20日まで新潟市民プラザほかで開催される。
すぎまる @sugimarco
【イベントレポート】コマ撮りアニメは廃れない、アダム・エリオットが新作「かたつむりのメモワール」語る https://t.co/Ub9EswdlE5