第37回東京国際映画祭のアジア映画学生交流プログラム 2024が、本日11月2日に東京・LEXUS MEETS...で開催。ゲストとして、映画監督の
昨年度に始まった本プログラムは、映画を学ぶ学生を招いてアジア映画の未来を担う次世代の人材育成につなげるもの。黒沢によるマスタークラスや、学生同士の交流が行われる。
黒沢は学生たちを前に「僕の映画が好きな人たちから質問を受けるという機会は多いんですが、今日みたいに映画を作ろうとしている、もしくは作っている方に向けて話すことはあまりなかったかもしれません。きっと映画祭がなければお会いできなかったと思うので、出会いの場として非常に価値のあること」と挨拶する。
映画祭の思い出を聞かれた黒沢は、海外の映画祭として初参加した第27回ロッテルダム国際映画祭を述懐。当時「CURE/キュア」を出品した彼は「そのときは妻と2人で行きましたが、何をやるのかわからず、英語でいきなり『上映前の挨拶をするかどうか?』と聞かれたんです。今は上映前に挨拶、上映後にQ&Aが自動的に組み込まれていますが、当時はやる・やらないが監督の自由でした。ただ映画祭側は『監督はやりたいに違いない』というスタンス。映画祭ってめんどくさいシステムだなと思いましたね(笑)」と懐かしむ。
そして黒沢は、初めてコンペティション部門に出品した海外映画祭が第56回カンヌ国際映画祭だと明かし、「『アカルイミライ』を上映しましたね。カンヌでは監督が映画の代表者となるので、とてもチヤホヤされるんです。日本で映画を公開するときは主演俳優のほうが華やかで、宣伝のメインになりますよね。監督はおまけのようなもの。でも国際映画祭だと監督のスケジュールは取材の山で、主演俳優はそうでもないんです。『監督のほうが注目されているんだ』と実感しますね」と言及した。
続けてトークテーマは「企画の発端」に。黒沢は「企画は重要だけど難しい概念ですよね。自主映画でも商業映画でも、最初は2つの要素が組み合わさって動き出すと思います。1つは『撮りたい』という欲望で、もう1つはその欲望を多くのスタッフと共有すること」と説明。「この2つの要素のどちらが先に生まれるかは場合によりますが、“欲望”が先に来る場合は健全かもしれません。そのあとに企画書やプロットを書いてお金を集めたりします。“共有”が先に来るのは『この原作を映画化してくれないか』というパターンですね。商業映画に多いですが、打診を受けた監督がやりたいと思うか、“欲望”を作り出すことができるかが重要です。“欲望”と”共有”の2つが立ち上がることで企画は動き出しますが、食い違うことももちろんありますし、映画の難しいところ」と補足する。
さらに黒沢は「俳優も自分たちのプランがありますし、監督のやりたいことをすべて実現してくれるわけではない。事前に考えていたものと違うけれど、人気俳優だから企画が動き出したというケースもあります。また原作がある場合は『この部分を面白くしたい』と言っても原作者側がNGを出すこともありますよね。そういったときには、受け入れられる部分の調整が必要。今までどれだけ映画的教養を身につけてきたかが大事だと思います。スティーヴン・スピルバーグのように撮りたいと思っても、特撮は予算的に難しいのでホームドラマにしてほしいと言われたとき『じゃあ小津安二郎のように撮ろう』と思えるかどうか。“欲望”を都度合わせていくことが大切で、それにはたくさん映画を観ることが必要。また映画だけでなくあらゆるものに興味を持つことで、“欲望”が変形しても『じゃあこっちにしよう』と楽しむことができるんです」と語りかけた。
国際共同製作も多く経験している黒沢は「日本で撮る映画でも海外の会社からお金が出ている場合がけっこうありますので、どこまでが共同製作かという線引きは難しいところ」と述べる。そして「何作かフランス映画を撮りましたが、俳優もスタッフも監督のやりたいことを実現するのが仕事という意識で、日本と一緒。なので、実にやりやすかったですね」とほほえみ、「その国のシステムを受け入れれば監督することは難しいことではないんですが、厄介なのはスタッフや俳優が2カ国で半々の人数がいる場合。どちらのシステムを優先するかでもめたりしますから」と回想する。そして「ダゲレオタイプの女」「蛇の道」に出演したマチュー・アマルリックとの仕事について聞かれると「ちょっとした友人のようですね。基本は監督さんですから、なかなか俳優としては出てくれないんです。僕は気軽に声をかけてしまうんですが(笑)」と打ち明けた。
「どこまでが監督の仕事か?」という質問には「明確な決まりがないし、興味の度合いによって変わってきますよね」と返答する黒沢。「俳優の演技にすごくこだわる監督がいますが、演技指導をすることが監督の仕事と決まっているわけではない。ただ『好きだから』という思いでやっていらっしゃるわけです。僕は衣装を決めるのが苦手だし、芝居もある程度俳優に任せます。でも、ロケーションやカメラの位置はすごく気になるんです」と言葉を紡ぐ。加えて黒澤明を例に挙げ、「有名な話ですが、『雲が気になるから』という理由でカットに全然OKを出さないことがありました。彼の最大の関心事は天候で、俳優の芝居はあまり気にしなかった」と発言。そして「自分がこだわる部分は徹底的にこだわり、関心がない部分は思い切って誰かに任せてしまう。それが監督の仕事ですし、個性が出るポイントです」と明かした。
Nicolai Brunon @BrunonNicolai
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