なぜ撮るのか?観るのか?ドキュメンタリーを盛り上げるためのシンポジウムで意見交換

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東京ドキュメンタリー映画祭2022のプレイベントとなるシンポジウム「もっともっとドキュメンタリーを盛りあげたい!作戦会議」が、本日12月3日に東京・多摩美術大学 TUBで開催された。

シンポジウム「もっともっとドキュメンタリーを盛りあげたい!作戦会議」の様子。

シンポジウム「もっともっとドキュメンタリーを盛りあげたい!作戦会議」の様子。

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矢田部吉彦

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今回のシンポジウムは、矢田部吉彦、舩橋淳、藤岡朝子がゲスト参加し、MCを金子遊が担当した。2022年のアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)で審査員を務めた矢田部は、同映画祭のレポートを始める。まずは「3月末にウクライナを支援する特別上映会を行って、集めたお金をウクライナの映画人に送りました。どこを通してお金を送ろうかと探していたときに、危機下にあるフィルムメーカーを支援する組織ICFR(International Coalition for Filmmakers at Risk)を見つけて。組織のメンバーのオルワ・ニーラビーアがIDFAのヘッドもしていたので、ご縁ができて審査員にならないかと声を掛けられた形です」と就任経緯を説明。そして「そのときのディレクターにもよりますが、IDFAは世界でもっとも規模の大きいドキュメンタリー映画祭と言えます。現在のディレクターのオルワはシリアで映画プロデューサーをやっていたんですが、逮捕・拘束されて、死ぬ直前ぐらいまでの経験をした人。難民としてヨーロッパに移ったんですが、その経験から、映画祭は人権を強く意識したものになっている印象です」と語る。

また矢田部は「オープニングでは、イランの反スカーフデモに参加して亡くなった少女の写真が大きくスクリーンに映し出されました。オープニング作品のテーマというわけではなかったのに、メッセージとして表したんです。響きますよね」と話し、上映作の説明をしていく。トークセッションが多く設けられていることも伝え「映画祭と連動して、言論の自由を奪われている人や、投獄されている人を支援する動きがありました。連帯の広がりを感じられる貴重な場でしたね。日本でもこういう連帯を広げられたらと思っています」と思いを口にした。また上映作300本のうち日本の作品は短編1本だったことを明かし、「映画祭のディスカッションでも話したんですが、ジェンダーにしてもヒューマンライツにしても、日本で扱っている作品は周回遅れをしているように感じました。応募している人もどれだけいるのか、日本の映画祭とIDFAにパイプがあるのかもわからないです。ただ、もし推薦者になれるなら、来年は僕が映画を送り込みたいです」と意気込んだ。

舩橋淳

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舩橋は映画作家からの目線でトークを展開していく。「なぜドキュメンタリーを撮るのか、観るのか。ドキュメンタリーは報道とはまったく違うものです。報道は言語化してヘッドラインにできるもの、ドキュメンタリーは要約できない、映像でしか伝えられないものだと感じています。言語で要約しようとしてもあふれ出てしまうんです。」と述懐。「フタバから遠く離れて」での撮影風景を回想して「(震災によって)福島県の双葉町の人たちが(埼玉県の)加須市に避難しました。廃校の職員室が町役場になって、教室を畳敷きにして避難部屋を作っていた。最初は100人ぐらいメディアがいたんですが、時間とともにだんだん数が減っていって、“月命日”にあたる11日のように、ヘッドラインが書けそうなときだけメディアが来るんです。ほかの日は僕1人だったんですが、毎日撮影していると、ヘッドラインにならないこの毎日の方が重要なんじゃないかと思ってきたんです。これが日常だというのがおかしいんじゃないかと」と言い、「ヘッドラインとヘッドラインの合間になる部分を撮っていくことがドキュメンタリーの使命なんじゃないかと考えて、撮影を続けていました」と真摯に思いを述べる。

フレデリック・ワイズマンとロバート・クレイマーが対談した際の写真を使用したカードを手にする舩橋淳。

フレデリック・ワイズマンとロバート・クレイマーが対談した際の写真を使用したカードを手にする舩橋淳。[拡大]

“ドキュメンタリー制作における当事者性”という議題が飛び出すと、舩橋は「当事者本人だから撮れるもの、撮れないものがあると思っています。僕はこれを“ドキュメンタリーの南北問題”と勝手に名付けています(笑)。以前に山形国際ドキュメンタリー映画祭でフレデリック・ワイズマンとロバート・クレイマーが『ドキュメンタリーにとってカメラは何か、(撮影の中で)存在を消せるのか』と話し合いました。ワイズマンはカメラを存在を消せる、ロバートはカメラは意識するものだと。“南北問題”で言うと、作り手の温かみが見えない北がワイズマン、その逆の南がロバート。でも南と北の間で撮っているものが多いと思います。カメラは冷ややかに被写体を見ているけどナレーションが入っていたり、作り手の声が入ったインタビューで温かみがある一方でカメラは観察的で冷たかったり。そのグラデーションを左右するのは恣意性で、ナレーションや音楽などで味付けがされると南に寄るわけです」「当事者だから深く関わって南から撮る、当事者じゃないから思いっきり距離を取って北から撮る、で撮れるものが違う」と解釈を披露した。それを聞いた藤岡が「対談でワイズマンが『僕のやり方は古いと言っているんだね!』と茶化していましたね。今流行しているドキュメンタリーには被写体との交流やコラボレーションがあります。時代に応じて映画祭が求めるものが変わってくるとは思いますが、どちらがいいと言っているわけでないんです」と補足すると、舩橋も深くうなずいた。

藤岡朝子

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金子遊

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山形国際ドキュメンタリー映画祭の理事を務める藤岡は、自身とドキュメンタリー映画シーンが歩んだ歴史を振り返り、同映画祭で実施しているアーティスト・イン・レジデンス企画「山形ドキュメンタリー道場」の様子を語った。参加者たちがラフカットを上映して意見を交わす映像を観た舩橋は「マーティン・スコセッシも内々で試写を10回も20回もやって、アンケート取って参考にしているそうです。僕も近年3作は内々での意見交換会を半年くらいやったりするんです。人の意見を聞いたほうがよっぽどいいことがあります」とコメント。藤岡は「道場では『私だったらこうする』は禁句」「他者と出会うことで、自分のユニークさに気付くことがあります。批判合戦になってつぶされるような場所ではなく、安全な場所にしたいと思っています」と指針を明確に述べた。

東京ドキュメンタリー映画祭2022は、12月10日から23日まで東京・K's cinemaで開催。

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「なぜ撮るのか?観るのか?ドキュメンタリーを盛り上げるためのシンポジウムで意見交換」(映画ナタリー)
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本日、多摩美術大学TUBでおこなわれた、東京ドキュメンタリー映画祭のプレイベントが記事になり、映画ナタリーとYahoo!ニュースに掲載されました
ありがとうございます

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