「春江水暖」は中国の新鋭が贈る壮大な“絵巻物映画”、台湾ニューシネマの影響語る

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第20回東京フィルメックスのコンペティション部門に出品された「春江水暖」が11月24日に東京・有楽町朝日ホールで上映。監督を務めた中国出身のグー・シャオガンがQ&Aに出席した。

グー・シャオガン

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「第20回東京フィルメックス」メインビジュアル

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景勝地として知られる中国・浙江省杭州市の富陽の美しい自然を背景に、1つの家族の変遷を四季折々とともに1年間にわたって描いた本作。現在31歳のシャオガンは大学で衣装デザインとマーケティングを学んだのち、ドキュメンタリーと劇映画に関心を持ち、本作で長編デビューを果たした。「春江水暖」は2019年の第72回カンヌ国際映画祭で、批評家週間のクロージングを飾っている。

「春江水暖」

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映画は大家族の家長である祖母の誕生日パーティから始まる。彼女は不幸にもパーティの最中に脳卒中で倒れてしまい、退院後も認知症のため家族の介護を必要とする状態に。4人の息子たちとその妻はそれぞれの生活と親の介護、結婚適齢期を迎えた2人の孫は親世代との価値観のズレに向き合う。そして借金を抱えながら障害のある息子を男手1人で育てる3男が、家族の重荷になっていく。

観客からは「登場人物の普遍的な人間の姿に圧倒された。演じる人々がとても個性的で、リアルな存在感があった」とキャスティングに関する意見が飛ぶ。キャストのほとんどが富陽出身であるシャオガンの親戚や知り合いで、4兄弟の長男の夫妻はおじとおば、漁師として船の上で暮らす次男は実家に魚を届けてくれた漁師の知人、三男と四男も叔父が演じているという。シャオガンは、そうした理由に製作費の節約を挙げつつ「この映画では時代の風景を切り取ること、市井の人々の雰囲気を伝えることがとても重要だと思いました。富春江のスズキが最初のレストランで出てくるようにとてもリアルなものを描きたかった」と説明する。

左から映画祭ディレクターの市山尚三、監督のグー・シャオガン、通訳者。

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もともと故郷に「いつも静かで退屈な小さな街」と印象を抱いていたシャオガンだが、2016年夏に脚本のリサーチのため帰郷したとき、社会的、経済的発展により街が常に変化していることに気付いたそう。映画では住宅の取り壊しや巨大マンションの建設などに加え、周囲の環境に影響される人々の生活が切り取られている。シャオガン曰く「いかに映画を通して時代や街の変化を捉えるか」を考え、インスピレーションを受けたのが、黄公望が富春江一帯の山河の風景を描いた山水長巻「富春山居図」だ。「映画を絵巻物のように描けばいいのでは」と思い付き、横移動の長回しをはじめとして流れるようなカメラワークが多用された。

ホウ・シャオシェンとエドワード・ヤンの名前を挙げ、台湾ニューシネマからの影響を公言したシャオガン。「彼らは中国の伝統的な文人の視点に立って世界や物語を組み立てていると思います。自分はそういった文人的な視点と山水画をいかに融合させて映画を作るかを考えていました」と語る。音楽は中国の音楽家ドゥウェイが手がけており、「彼の音楽はとても自然に古典と現代の文化が融合していると思います。撮影でもっとも苦心したのは、中国の伝統的な古典をいかに現代に持ってくるかという部分。それに関してドゥウェイの音楽は、大きな示唆を与えてくれました」と続けた。

グー・シャオガン

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映画は154分だが、脚本段階では5時間を想定していたそう。撮影は丸2年をかけて行われており、1年目は資金難に陥り撮影を終えることができず、2年目に制作会社が付いたことで完成に至った。会社からは上映時の回転率やセールスを理由に「3時間以内に収めてほしい」と要望があり、シャオガンも「努力する」と答え最終的におよそ2時間半の映画になったという。しかし、映画の最後には「第1巻 完」と示されており、シャオガンは「第2巻や第3巻といった続編は必ず撮りたいと思っています。今すぐにでも」とコメント。そして「僕たちはこの映画を『清明上河図』のようなとても長い1枚の絵巻物のように考えています。10年で1つのシリーズと言いますか、1つの作品を実現させる構想も出ています。その10年を通して杭州の街の変化、時代の変化を捉えていきたい。それはもしかしたら未来の人から見たら、とても面白い時代を記録した映画になるではと考えています」とさらなる展望を語った。

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