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片渕須直、「スノーマン」作者の両親描いた“ごく普通”の物語に感嘆

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カミーラ・ディーキン(左)、片渕須直(右)。

カミーラ・ディーキン(左)、片渕須直(右)。

「スノーマン」で知られる作家レイモンド・ブリッグズの同名絵本をアニメ化した映画「エセルとアーネスト ふたりの物語」が東京・シネマサンシャイン池袋で3月8日に日本初上映され、プロデューサーのカミーラ・ディーキンと、ゲストとして「この世界の片隅に」を手がけたアニメーション監督・片渕須直が登壇した。

3月8日から11日にかけて開催される「東京アニメアワードフェスティバル2019」のオープニング作品として披露された本作。ブリッグズ自身の両親がモデルとなっており、激動の20世紀を生きた平凡な英国人夫婦の40年間が描かれる。監督を務めたロジャー・メインウッドは2018年9月に惜しまれながらこの世を去った。

物語は夫婦の出会いから始まる。片渕は「35歳の女性をヒロインにする企画は日本ではなかなかできない。ある種、新しい道を開拓している気がしました」と指摘。ディーキンは「大人向けのアニメーションは商業的にうまくいくか懸念されるので資金調達は確かに大変でした。リアルなエピソードにもとづいた語り口であるため『どうなんだろうなあ』と言う人もいましたが、私たちはそれを強みだと考えて作りました」と確固たる思いを持って制作したことを明かす。

「この世界の片隅に」で市井の人々の生活を綿密に表現した片渕は、夫婦の暮らしを淡々と描く本作について「日常の動作って一番難しい。アニメーターにとって集中力が必要となります。自分の想像で1から動きを作るのではなく、本当のその人がこんな動作をするんだろうなとイメージできたうえで描かなければならない。そこに力を注いでいると思いました」と絶賛。これにはディーキンも笑顔を見せ、「車など乗り物のシーンはCGを使っていますが、人物や動物などほとんどが手描きです。才能あふれるアニメーター集団のおかげで素晴らしい絵ができました。(原作の)レイモンドの絵は人の表情がドットで描かれたりもしているので、アニメーションとして描くのが難しいところがありましたが、それをうまくやってくれたと思います」とスタッフ陣の仕事に胸を張った。

さらに片渕は「キャラクターデザインだけでなく背景にも注目してほしい」と本作の細部にわたるこだわりに感服し、「僕は日本の“片隅”を描くうえで、そこが“片隅”であると意識するために、世界のほかの“片隅”はどうなっていたのか意識しながら作りました。だからイギリスも興味の対象だったので、空襲では日本よりガラス被害が多かったとか、アンダーソンシェルターを庭に作っていたことを知っていました。1つの世界を構成するものとして、こういうものもあったんだとリアリティを持って感じられました」と、戦争の時代を描く側面も持つ本作への感想を述べる。しかし本作ではあくまでも夫婦が寄り添って生きる様子が丹念に描かれており、片渕は「2人が交わす政治の話も、言ってみれば庶民の床屋談義と同じ。特別な正義も帯びてないし、ごく普通の人たちの日常会話。愛おしいし愚かでもあり、レイモンドさんは愚かさを笑い飛ばすのではなく慈愛の目でもって見つめていると思います」と分析した。

最後に司会者から「この作品をどんな人に観てもらいたいですか?」と尋ねられると、ディーキンは「レイモンドはすべての読者に向けて描いた本だと言っていました」と作者の思いを代弁。片渕は「これも自分たちの住んでる世界なんだなと思ってもらえるように、どうかこの映画を応援してください」と呼びかけた。

「エセルとアーネスト ふたりの物語」は今秋より東京・岩波ホールほか全国で順次ロードショー。

(c)Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A., The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016

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