前川が2005年に発表した同名戯曲を原作とする本作は、宇宙からやってきた“侵略者”たちによって、日常が非日常へと変化していくさまを描いたSF。長澤まさみが主演、黒沢が監督を務めている。
イキウメのファンだという黒沢は、その魅力を「ごく当たり前のような日常があって、そこに『それ本当?』っていうありえないようなことが起こる。映画とは確実に違うスリリングさがあります」と解説。演劇の世界に足を踏み入れる前は映画のシナリオを書いていたという前川は、その頃に黒沢の「CURE/キュア」「回路」「降霊」「カリスマ」などの作品を観ていたという。そして「昔から影響を受けた人の名前に黒沢さんの名前を挙げるくらいファンでした。先ほどおっしゃっていただいたイキウメの作風、それを語る言葉はそのまま黒沢さんの作品にも言える要素だと思います。僕の創作のベースには黒沢映画があるので」と続け、映画で描かれるようなSF、ホラー、オカルトをいかに演劇に落とし込むかがキャリアのスタート地点であったことを明かす。
続いて映画と演劇における“日常”について、2人が意見を交わす。「映画は日常を撮るのがえらく簡単なんです。そこら辺を撮っていたらゴロゴロと映るので。でも舞台で日常を描くのは大変じゃないですか」と話す黒沢は、前川に「演劇は日常と非日常の区別をどうつけているのか」と問う。前川は「1つは会話の雰囲気です。演劇では、しゃべっているときに『やっ、えっ、ああ』と言いよどんだり、思考する間があったり、そういった“ノイズ”が日常として機能する。黒沢さんから稿を重ねるたびに送っていただいていた映画の脚本は、演劇に比べて言葉がシンプルでストレートだと感じました」と述べ、「でも実際に完成した映画を観ると、ある程度言葉が日常とかけ離れていても、すでに画面に日常が映っているせいか情報としてストンと入ってくるんです」と続けた。
その説明に黒沢は「ものすごく納得してしまいました」と一言。そして「映画で前川さんが言ったような生々しい会話をやってしまうと、日常ではなく、変な雰囲気になってしまうんです。すでに画として映っている日常を俳優が壊してしまう。だから映画では俳優にシンプルにしゃべらせたほうが成立するんです」と返答する。一方で、実力のある俳優が生々しいセリフを発するからこそ成立してしまう場面もあるという黒沢は「散歩する侵略者」の長澤の出演シーンに言及。「『絶対に言わないだろうけど、言ってください』とお願いして。そこを実にうまくやってくれて。ああ、これが俳優の力だなと思った」と語った。
映画「散歩する侵略者」は、全国で公開中。なお、イキウメによる舞台版が10月から12月にかけて東京、大阪、福岡にて上演される。
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- 映画「散歩する侵略者」公式サイト
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