STUDIO sauce|スマホ×鉄道×街が連動するハイクオリティなショートドラマで新たな体験価値を 仕掛け人たちにインタビュー

2025年の夏から秋にかけて、各種SNSと東急線沿線の車内液晶モニタ・TOQビジョンで配信されていたショートドラマ「#たぬきのデンゴン」。鈴木仁と恒松祐里を主演に迎え、田園調布駅をロケ地に、期間限定の伝言板を通じて心を通わせる男女の物語がつづられた。

同作は、アスミック・エースとKDDIによるショートドラマ共同制作プロジェクト・STUDIO sauceの第3弾となる作品だ。初の試みとして東急(株)グループとタッグを組み、スマホ・OOH・街が連動したハイクオリティな作品で新たな体験価値を生み出した。本特集では、仕掛け人であるアスミック・エース、KDDI、東急、東急エージェンシーの担当者4名にインタビューを実施。2つの視点で交差するストーリーを紡ぐための工夫や狙い、実際の駅や車内で行われた撮影の裏話に加え、ショートドラマの可能性、今後挑戦したいことについても語ってもらった。

取材・文 / 脇菜々香撮影 / 間庭裕基

ショートドラマ「#たぬきのデンゴン」
全話公開中

座談会参加者

木内悠介

アスミック・エース プロダクション本部事業企画部

小林由佳

KDDI DXデザイン本部 R&Aセンター ARPU企画グループ

源河光大

東急 文化・エンターテインメント事業部 事業推進グループ メディア・広告担当

山田桃華

東急エージェンシー 事業共創本部 東急OOHメディア事業局 事業戦略部 兼 第2メディア

まだ世にないハイクオリティなショートドラマを作りたい

──今回は、STUDIO sauceによるショートドラマ第3弾「#たぬきのデンゴン」に携わった皆さんにお集まりいただきました。まずは、アスミック・エースとKDDIによるショートドラマ共同制作プロジェクト・STUDIO sauceについて簡単に教えていただけますか?

小林由佳 STUDIO sauceは、アスミック・エースとKDDIがタッグを組んで2024年度から行っているプロジェクトです。近年、TikTokやYouTubeショートなどでショートドラマの人気が高まっている中、新しい取り組みとして、テレビや映画で活躍されている俳優や芸人、アイドルなど第一線の方々にご出演いただく縦型ショートドラマを作ろうということで始まりました。

STUDIO sauceとは

スマホ視聴に特化したショートドラマ作品を制作することで、人々のスマートフォンライフを豊かにしていきたいという思いから立ち上げられたプロジェクト。2024年8月に配信された第1弾のオムニバスドラマ「てのひらラブストーリー ~婚活五重奏~」には柄本時生、堀田茜、竹財輝之助、北野日奈子、夏菜、大水洋介(ラバーガール)、森カンナ、松野晃士、浦井のりひろ(男性ブランコ)、野間口徹、工藤美桜、野村麻純、髙松アロハ(超特急)、大和田伸也らが出演した。第2弾は同年12月から配信された沢村一樹主演の「Toshio-free-Wi-Fi」。あばら骨を折ったことにより身体からWi-Fiが出るようになった“Wi-Fi人間”トシオの物語が紡がれ、池田彪馬(SUPER★DRAGON)、本多力、田村健太郎、影山優佳、堀内敬子が共演に名を連ねた。両作ともに、STUDIO sauceのTikTokやYouTubeにて全話配信中。

木内悠介 プロジェクトの話自体は2023年の秋から上がっていました。KDDIさんから「ショートドラマはライトなものが多い中、ハイクオリティなものをやったらどうだろうか」という相談があり、そこからディスカッションを重ねて、2024年の3月から正式に企画をスタートさせていった感じです。

左から木内悠介(アスミック・エース)、小林由佳(KDDI)

左から木内悠介(アスミック・エース)、小林由佳(KDDI)

小林 実際に第1弾を世に出せたのはその年の8月です。

木内 映画と比べると考えられないハイスピードですよね(笑)。

──普段は劇場映画の製作・配給をされているアスミック・エースさん的には、最初に話が来たとき「ショートドラマをうちでやるの!?」と驚かれなかったんでしょうか?

木内 驚きました。ただ、ショートドラマの中でも「まだ世の中にないハイクオリティなものを作りたい」というKDDIさんの提案を面白いと感じ、映画会社として“映画レベルの体験を縦型短尺に落とし込む”という前例がない挑戦をしてみようと思いました。

スマホと伝言板、本質は共通しているのでは?

──ここからは「#たぬきのデンゴン」についてもお聞きしていきます。東急さんと組むことや、実際にある駅で撮影すること、鉄道・街とスマホを活用する「フィジタル(フィジカル×デジタル)」を軸にしたことなど、いろんな要素があると思いますが、企画自体はどこを起点に始まったのでしょうか?

ショートドラマ「#たぬきのデンゴン」ビジュアル

ショートドラマ「#たぬきのデンゴン」ビジュアル

木内 企画の起点は、東急さんが近年、駅でのドラマ撮影などロケ協力の機会を広げていると知ったことでした。それは単なる場所提供というより、物語の世界観を広げ、結果としてより上質な映像作品につながっていくのではないかと感じ、とても素敵だなと思っていました。これまでKDDIさんとハイクオリティなショートドラマ制作に取り組んできた中で、「私たちの目指す映像作りと、東急さんの考え方には共通点があるのでは」と思い、まずはざっくばらんにご相談させていただきました。お話をする中で、東急さんも「電車や街を通して、生活者の暮らしを豊かにしたい」という思いを持たれていることがわかり、そこから実際の街や駅を舞台に、電車の中でもスマホでも楽しめるショートドラマを一緒に作ろう、という構想が具体化していきました。

源河光大 最初に相談を受けたときは、「面白そう」という気持ちが8割くらいで、残り2割は「これ……調整大変そうだな」っていうのが率直な印象でした。

左から源河光大(東急)、山田桃華(東急エージェンシー)

左から源河光大(東急)、山田桃華(東急エージェンシー)

一同 (笑)

源河 ただ東急(株)グループとしては、電車や街、駅を活用して情報を発信する、ひいてはそこを通じて沿線の豊かさや楽しさに寄与するというミッションがある中で、東急線の車内ドア上に設置された「TOQ(トーク)ビジョン」の注目度をどう高めていくかが課題でもありました。目に留まるようなコンテンツをどう流すかを考えているタイミングで、木内さんからスマートフォンと電車内のビジョンを行ったり来たりするコンテンツを作りたいとご相談いただいた感じです。

──もともと電車内ビジョンには、ニュースやCMが流れているイメージでした。

源河 そうですね。放映枠を購入いただいている企業の広告や天気予報やニュースを流すのがメインではあるのですが、コロナ禍を経て今まで通りの売り方だけではなく新しい価値を作らなきゃという意識が芽生え、“観てもらうコンテンツ”にもチャレンジしている中でこの企画が始まりました。

──物語の中身についても伺いたいです。最近は伝言板ってあまりなじみがないというか、「知っているけど見たことはないな」と思ったのですが、そんなアイテムを使ったストーリーにした経緯は?

木内 今では多くの人がスマホでメッセージのやり取りをしていますが、実は時代によって方法が変わるだけで、駅の伝言板でメッセージを伝えていたときと「思いを誰かに届ける」という本質は共通しているのではないかと考えました。そのうえで、今回は電車とスマホでそれぞれ楽しめるように物語自体をA面・B面の異なる視点で作りたかった。一番わかりやすいのはラブストーリーだと思い、そういった要素を軸に物語を構成していきました。

ショートドラマ「#たぬきのデンゴン」場面写真

ショートドラマ「#たぬきのデンゴン」場面写真

──ちなみに、皆さんは伝言板を使ったことはあったのですか?

木内 自分はドラマや映画の世界でしか見たことはなかったです。ただ、手書きのメッセージ……待ち合わせの時間になっても相手が現れない……そういったひと手間かかる恋模様のシーンが印象に残っていて、伝言板を使って何かやりたいなとずっと思っていたので、ここだ!と。

山田桃華 私は言葉すらも聞いたことがなかったです(笑)。映像の中でも見たことがなかったので、会議中に調べて「こういうのがあったんだ!」というところから始まりました。

山田桃華(東急エージェンシー)

山田桃華(東急エージェンシー)

木内 伝言板ってまさに今の話みたいに、「自分は知らなかった」「実は昔こういうものがあってね」という世代を超えて会話の種を生むもの。普段映画やドラマで活躍しているクリエイターが関わって全世代に楽しんでもらえるものを作るにあたり、世代によって捉え方が全然違うアイテムだったのも理想的だと思いました。

SNSと車内ビジョンの“どちらも本編”がこだわり

──「#たぬきのデンゴン」では、<怜央の物語>と<琴音の物語>の配信期間を、SNSとTOQビジョン(車内液晶モニタ)で分けていました。これはどういう意図で設定されたのでしょうか?

※編集部注:「#たぬきのデンゴン」は、コーヒーショップで出会った男女が、駅に設置された期間限定の伝言板を通じて心を通わせる物語。サラリーマンの渋谷怜央を鈴木仁、コーヒースタンドの店員・日吉琴音を恒松祐里が演じている。2025年7月14日から8月17日までは<怜央の物語>をSNS、<琴音の物語>をTOQビジョンで配信・放映し、9月1日から10月5日にかけてはそれぞれのメディアで逆視点の物語を楽しむことができた。

小林 主人公の男女それぞれの視点でストーリーが構成されていて、それがSNSとTOQビジョンで同時に進んでいく。SNSで怜央編が配信されているときには、TOQビジョンに琴音編が出るので、視聴者の方々にはスマホとビジョンを行き来して楽しんでもらいたいと思ってました。どちらかがメイン、どちらかがプロモーションなのではなく、どちらのメディアも本編にしたかったんです。片面だけ観てももちろん成立していて、両面観たらもう一方の視点がわかってさらに面白い、という構成にかなりこだわったので、配信期間についても工夫しました。

──物語自体も、主人公たちの思いが絶妙にすれ違いますもんね。

木内 すれ違わせました(笑)。

木内悠介(アスミック・エース)

木内悠介(アスミック・エース)

──あとは、縦型・横型の両方を同時に制作されたのも大変そうだなと思いました。

木内 SNSはスマホに合わせて基本縦型で配信しますが、電車の乗客に楽しんでもらうためには電車内のビジョンに合わせた横型だよねと。基本は横型で撮って、(カメラモニタの)真ん中に縦型サイズを示す線を引いて、編集で切り抜くやり方です。ただやっぱりどうしても寄りたい場面もあるので、現場で「今は縦用の寄りカットだよ」「ここは横用だよ」「まだ撮れてないシーンはない?」と確認しながら撮影していました。スタッフも、普段は横型と縦型を同時に撮るなんてやっていないので、「新しい頭を使わなきゃ」と言っていましたね。こうした挑戦をしながら、全30話を約1週間で撮影しました。

──TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE(※)でオリジナルショートドラマを放映することは初の試みかと思いますが、企画から一緒にやった経験はいかがでしたか?

※TOQ IMMERSIVE OOH_MOVIE:東急線内の交通広告(OOH)にデジタル技術とIPコンテンツを融合させ、東急線利用者が能動的に楽しめる没入型(イマーシブ)体験を提供する広告シリーズ「TOQ IMMERSIVE OOH」の1つ。⽣活者に興味と共感を喚起するエンタテインメント性の⾼い動画コンテンツを「TOQビジョン」で放映する企画であり、⽣活動線である電⾞内で魅⼒的な体験を実現する

源河 今回特殊だったのが、東急線沿線の街や電車の中をフル活用して撮影したことです。東急電鉄含めさまざまな部署との調整が発生しましたが、快く協力してもらえました。電車のシーンは電車が止まっている検車区という場所で営業前の電車を時間限定で借りて、その中で撮影しています。

源河光大(東急)

源河光大(東急)

──田園調布駅がロケ地となっていますが、撮影期間特に大変だったことがあればお聞きしたいです。

源河 通常の営業時間内に撮影をしたのですが、駅では絶対に一般の利用者の邪魔になってはいけないけど、きちんとした映像も撮らなきゃいけない。制作の皆さんには限られたタイミングで調整いただいたんですが、人の誘導はすごく大変でしたね。1日ずっと神経を張り詰め続けて、少しでもゆるんだらトラブルになりかねない状況だったので、今でも夢に出てきます(笑)。でも本当にうまく撮影していただいて、大きなトラブルなく完了できて感謝しています。

小林 あと、撮影は6月末だったのですが、雨こそ降らなかったけど暑すぎましたよね。出演されている皆さんは大変だっただろうなと思います。

──そのほか、キャストの方々の様子で印象的なことはありましたか?

源河 駅や車庫の中での撮影を新鮮に感じていただけたのか、楽しそうにSNS用の写真を自分たちで撮ったりしている姿が印象的でした。駅員役の浜野謙太さんには東急の本物の制服を貸し出して着ていただいたんですが、遠目から見たら浜野さんかどうかわからないぐらいの仕上がり具合でした(笑)。

──駅員さんから浜野さんへのレクチャーなんかもあったのでしょうか。

源河 敬礼のやり方を本物の駅員さんから教わっていましたよ。東急電鉄の皆さんにも多大なるご協力をいただいている中で、駅員の方と一緒に写真を撮っていたのを見て、この取り組み自体を楽しんでいただけていたのかなと、うれしく思いました。