左から村山章、西森路代、ビニールタッキー

「ラストマイル」大ヒット、A24「シビル・ウォー」の動員1位、イーストウッド新作は配信のみ、中年女性が活躍「密輸 1970」…2024年はどんな年だった?

村山章×西森路代×ビニールタッキー鼎談

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2024年は映画業界においてどんな年だったのか? 映画ナタリーでは、ハル・ハートリー作品の広報や配給業務に携わる映画ライターの村山章、書籍「韓国ノワール その激情と成熟」などで知られるライターの西森路代、“映画宣伝ウォッチャー”のビニールタッキーによる鼎談を実施。年の瀬に1年間を振り返った。

※取材は2024年12月に実施

取材・/ 小澤康平

「ラストマイル」のヒット、その理由は?

西森路代 2023年末の鼎談で、ドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の世界線と交差する映画「ラストマイル」が楽しみという話をしたんですが、約60億円のヒットを記録しているそうです。

映画「ラストマイル」通常版Blu-rayのジャケット(2025年4月25日発売 / リミテッドエディションBlu-ray:1万5400円、リミテッドエディションDVD:1万4300円、豪華版Blu-ray:9680円、豪華版DVD:8580円、通常版Blu-ray:5280円、通常版DVD:4180円 / 発売元:TBSスパークル、発売協力:TBSグロウディア、販売元:TCエンタテインメント)© 2024 映画『ラストマイル』製作委員会

映画「ラストマイル」通常版Blu-rayのジャケット(2025年4月25日発売 / リミテッドエディションBlu-ray:1万5400円、リミテッドエディションDVD:1万4300円、豪華版Blu-ray:9680円、豪華版DVD:8580円、通常版Blu-ray:5280円、通常版DVD:4180円 / 発売元:TBSスパークル、発売協力:TBSグロウディア、販売元:TCエンタテインメント)© 2024 映画『ラストマイル』製作委員会

ビニールタッキー 海外にはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)や、2014年の「GODZILLA ゴジラ」から始動した“モンスター・ヴァース”などがある中で、日本でのユニバースものはどうなるのか?という文脈でお話ししましたね。

村山章 先日観に行きまして、公開からもう4カ月経っているのにかなりお客さんが入っていました。映画は楽しめたんですが、実は先行するドラマ2作は観ていなくて。無知な質問で申し訳ないんですが、やっぱりドラマの人気が高いことがヒットの要因なんでしょうか?

西森 それが大きいとは思いますが、「アンナチュラル」「MIU404」のSNSアカウントが映画と連動してまだ更新されていて、放送から数年経ってもファンがドラマの話をしているような根強い人気があります。「MIU404」にはメロンパン号という車が出てくるんですが、現実世界で全国を巡行したりしていて。

ビニールタッキー 僕は映画を観ていないんですが、妻が大好きなのでよく話は聞いていました。SNSアカウントが頻繁に動いていて楽しいみたいなことを言っていたので、確かにヒットの一因のような気がします。

西森 脚本を書いている野木亜紀子さんの作品って、韓国映画に近い感じがするんですよね。みんなが楽しめるエンタメ作品ではあるんだけど、労働問題などの現実社会とリンクする事柄を取り上げている。「ベテラン」の頃のリュ・スンワン監督に似てると思います。

ビニールタッキー ああ、なるほど。一級の俳優さんたちが出演している大作で社会問題を描くところが。

村山 そのへんのさじ加減は、野木さんやプロデューサーがクレバーなんですかね?

西森 自然にそうなってるんだと思います。現実の問題をしっかり描きつつ、多くの人が楽しめるエンタテインメント性のある作品を作ろうと。

村山 演出面としては、シーンのつなぎ方や音楽をかけるタイミングに、さかのぼると「踊る大捜査線」や「王様のレストラン」とかかなと思うんですが、日本のドラマが長年かけて培ってきた1つのパターンを感じました。そういったわかりやすい演出は好みが分かれるとは思いますが、ハリウッドの影響を受けながらテレビドラマが主導して発展させてきたやり方の延長線上に映画のヒット作が生まれるというのは、日本独自で面白いですよね。

西森 日本で多くの人に届けたい場合、やっぱりそういう演出は適してるんだと思います。でも、だからって必ずヒットするわけじゃないので、「ラストマイル」は本当にすごいですね。

北米興行収入ランキング、上位はほとんど続編

村山 ユニバースものではないんですが、「スマホを落としただけなのに」シリーズの3作目である「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」の予告編をちょっと前に映画館で観たんです。前2作は観てなくて、ずっとスマホを拾った人にストーキングされる物語だと思ってたんですが、国境を越えた戦いみたいな話で「なんだこりゃ!」ってなって、やけに面白そうに見えたんですよ。

「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」通常版Blu-rayのジャケット(2025年3月26日発売 / 価格 5500円 / 発売元:TBS、発売協力:株式会社TBSグロウディア、販売元:東宝株式会社)© 2024「スマホを落としただけなのに最終章」製作委員会

「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」通常版Blu-rayのジャケット(2025年3月26日発売 / 価格 5500円 / 発売元:TBS、発売協力:株式会社TBSグロウディア、販売元:東宝株式会社)© 2024「スマホを落としただけなのに最終章」製作委員会

西森 韓国でリメイクされたので、企画に強度があるのかなと感じていました。

村山 「スマホを落としただけなのに」は原作があるのでそれに沿っているのかもしれませんが、続編が作られて思ってもみなかったような展開になるのって、シリーズ作品の醍醐味じゃないですか。ワイスピ(「ワイルド・スピード」)もそうですし、古い例えですけど「エイリアン2」も前作よりめちゃめちゃ派手になって「何が起こってるんだ?」感が楽しかった。「リーサル・ウェポン」は2から急にコメディ色が強くなったりしましたよね。「スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム」の興行収入は高いわけではないですが、自分の知らないところで面白い展開をしている日本映画があるかもしれないと、勉強不足を反省しました。

ビニールタッキー 2024年の北米の興行収入ランキングを見てみると、続編がすごく多いんです。「インサイド・ヘッド2」「デッドプール&ウルヴァリン」「怪盗グルーのミニオン超変身」「モアナと伝説の海2」など、上位20位までを占めているのはほとんどが続編。作品を観てみると面白いですし、だからこそ大ヒットしているんだと思いますが、「そういう現状でいいのか?」と問題提起しているような海外の記事を読んだことがあって。

村山 ここ10年くらいを振り返ってみても、世界的にヒットしている作品の多くが続編やシリーズものだったりしますよね。

ビニールタッキー そうなんですよね。その記事では「これは文化の衰退だ」みたいなことが書かれていたんですが、今に始まったことではないという。

西森 逆に韓国ではシリーズものって少ないんです。最近は「イカゲーム」をはじめ、ドラマの続編も作られ始めていますが、映画で長く続いているのはマ・ドンソクの「犯罪都市」シリーズくらい。

韓国で社会派映画が人気の背景

村山 ちょっと前に「破墓/パミョ」を観てきたんですが、すごいなと思ったのが、冒頭からまるで3作目みたいに始まること。シリーズではないけどシリーズっぽいというか、最初から「皆さんわかってますよね?」みたいに始まるのは面白い手だなと感じました。

西森 チャン・ジェヒョン監督の作品はユニバースっぽさがあるかもしれないですね。

ビニールタッキー 確かに前作の「サバハ」とつながっている感じがありますね。

西森 韓国はとにかく興行成績にシビアで、「流行ればやる、流行らなければやらない」という風潮が強いです。「ソウルの春」が作られたのも、過去に同様の社会派の作品がヒットしていたからで。でも、今回の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の戒厳令のこともあり、さらにヒットしましたね。

村山 ああいう社会派の映画がちゃんとヒットして世の中にも影響を及ぼすというのは、うらやましいと言うと語弊がありますが、日本にはあまりない現象だなと思ってしまいます。

西森 2014年のセウォル号沈没事故のときにいろんな問題が明るみになって、そのあとで社会派の映画が特に数多く作られるようになったんですよね。朴槿恵(パク・クネ)の政権が終わったことも大きいかもしれない。「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」がヒットしてから、さらにその動きは加速したように思います。

ビニールタッキー 韓国でヒットした映画を日本で観ている身からすると、歴史を学ぶことができて、エンタメとしてもよくできている作品がこんなにたくさんあるってすごいなと思っていましたが、そういう背景があったんですね。

村山 戒厳令のことを含め、韓国は大統領選びが下手すぎるんじゃないかという気もします。弾劾されない大統領をほぼ見たことがないという。

西森 それはもしかしたら、問われるべき事柄が日本では問われていないと言えるかもしれないですね。

村山 なるほど。問われているだけマシだと。

ビニールタッキー 確かに、じゃあ我々はどうなんだと聞かれたら、なんとも言えないですね。

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韓国からの信頼が厚い日本の監督は…

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ATAT @dgslnmp

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