左から村山章、西森路代、ビニールタッキー

「ラストマイル」大ヒット、A24「シビル・ウォー」の動員1位、イーストウッド新作は配信のみ、中年女性が活躍「密輸 1970」…2024年はどんな年だった?

村山章×西森路代×ビニールタッキー鼎談

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おばさん映画の「密輸 1970」「市民捜査官ドッキ」、おじさん映画の「ドリーム・シナリオ」

西森 配信ではなく劇場公開作ですが、「侍タイムスリッパー」も話題になりました。世の中には素晴らしい役者がたくさんいて、そういう方々がこうやって脚光を浴びるのは見ていてうれしいです。興行成績のために広く知られた方を起用するのは理にかなっていると思いますが、それにしても同じ俳優たちのローテーションになっている感じがあって、キャスティングのときに候補に挙がるのって毎回同じような人たちなんだろうなと。「侍タイムスリッパー」みたいな映画のヒットが、そういうところを変えるきっかけになればいいなと思います。

村山 個人的には、主演の山口馬木也さんに感動しました。殺陣はもちろん、セリフの1つひとつがこんなに自然でうまい人がいるのかと。いろんな映画人から注目されてるでしょうし、今後の活躍が楽しみです。今回の「侍タイムスリッパー」のヒットで引き合いに出されている「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督が「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」を発表されていて、お二人はご覧になっていると聞いたんですがどうでしたか?

ビニールタッキー 面白かったです。

西森 私も楽しく観ました。原作は「Squad 38」(邦題:元カレは天才詐欺師~38師機動隊~)っていう韓国ドラマで。

ビニールタッキー 韓国ドラマが原作だなと感じるくらい、悪役がちゃんと悪いのがよかったです。あとは型にはめたような女性キャラクターが1人もいないところも好きでした。

西森 ちゃんと女性の中高年の俳優さんもいるんですよね。「アングリースクワッド」というタイトルもうまい解釈の仕方だなと思いました。

ビニールタッキー 不正を知って、怒りを感じて、というストーリーに合ってますよね。怒りが起点にはなってるんですが、怒りだけではダメということがちゃんと示されるのも見事でした。

西森 私の周りでは中年女性が活躍する映画が観たいと言っている人が多くて、個人的には韓国映画の「密輸 1970」と「市民捜査官ドッキ」が面白かったです。困っている人を放っておけないおばさんが出てくるんですが、そういうのをストレートに描くという韓国のいいところが出ていると思いました。クライム作品としても堂々たる出来栄えで、「市民捜査官ドッキ」で主演を務めるラ・ミランなんて、もうファン・ジョンミンみたいなんです(笑)。

「密輸 1970」ビジュアル(U-NEXTにて配信中)©2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved.

「密輸 1970」ビジュアル(U-NEXTにて配信中)©2023 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K. All Rights Reserved.

「市民捜査官ドッキ」ポスタービジュアル © 2023 SHOWBOX, PAGE ONE FILM AND C-JES STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

「市民捜査官ドッキ」ポスタービジュアル © 2023 SHOWBOX, PAGE ONE FILM AND C-JES STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

村山 「密輸 1970」は評判もすごくよかったですよね。おばさんではなくおじさんで言うと、ニコラス・ケイジ主演の「ドリーム・シナリオ」は全おじさんが観るべき映画だと思いました。主人公は自分が何も悪いことをしてないと思っているんですが、何もしてない俺は関係ないと思っていることの害悪も描いていて、おじさんへの風当たりが強い昨今だからこそ、全人類で話し合いたいトピックが詰まってました。

ビニールタッキー 終わりの異様なきれいさが印象に残ってます。

西森 おおー気になる。

村山 本当に美しいラストシーンですよね。いろんなレイヤーがあってすごくいい映画ですし、社会がおじさんっていうものをどう考えていくのかについてのサンプルとしても価値があると思います。

ビニールタッキー 最近は「ロボット・ドリームズ」が話題になっていますが、皆さんいかがでした?

「ロボット・ドリームズ」キービジュアル ©2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

「ロボット・ドリームズ」キービジュアル ©2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

西森 すごくよかったです。どんな内容か知らずに観に行ったんですが、すれ違いの切ない話だとは思っていなかったので、どんどん引き込まれていって。ピーター・チャン監督の「ラヴソング」(1996年製作)という大人のすれ違いや再会を描いた香港映画があるんですが、そういう古い名作を思い出しながら観ていました。キャラクターもかわいくて、グッズも欲しくなりましたね。

ビニールタッキー 僕もすごく好きで。試写で観て、Xに面白かったという投稿をしたんですが、最初は公開館数が20館と少なかったので「観たいのに観に行けない」と言っている人たちがけっこういたんです。話題になって広がったらいいなと思っていたら、今は60館以上で拡大公開されているみたいでうれしいです。

村山 僕は正直あまりピンと来なくて……。でも映画を観たあとに原作のグラフィックノベルを読んでみたらすごくよかった。映画はエモい感じになっていますが、原作にはそこはかとない情感のようなものがあって、表現のベクトルが全然違うんです。両方好きな方も数多くいると思うんで、そっちもたくさん読まれてほしいです。

2025年アツいのはホラーと香港映画?

ビニールタッキー 僕は特別ホラー映画が好きというわけではないんですが、2025年以降は楽しみなホラーがたくさんあります。3月14日に公開が決まっているニコラス・ケイジの出演作「ロングレッグス」をはじめ、スティーヴン・ソダーバーグの「Presence(原題)」、ロバート・エガースの「Nosferatu(原題)」、けっこうグロいと言われているカナダのスラッシャー「In a Violent Nature(原題)」も早く観たいです。

村山 「Presence」は僕も気になってました。あとは自分が裏方的に関わっているハル・ハートリーの新作がほぼ完成していて、まだ脚本を読んだだけなんでどこまで傑作になっているかはわからないんですが、楽しみです。ハートリーの新作は11年ぶりなので日本でも劇場公開できるようにがんばります。西森さんは期待している作品はありますか?

西森 すでに試写で観てはいるんですが、1月17日公開の香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が面白かったです。アクションもセットもすごくて、舞台となる九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)は多様な人を受け入れる場所でもあるから、団地映画っぽさもある。何度も映画館で観ないといけないなという気持ちです。

「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」ポスタービジュアル ©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」ポスタービジュアル ©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

ビニールタッキー 泣けるみたいな話も聞いたので楽しみです。

西森 香港映画は盛り上がっている感じがあって、香港というと皆さんアンディ・ラウトニー・レオンが浮かぶと思うんですが、今はダヨ・ウォンっていう俳優の活躍が目覚ましいです。2023年に出演作の「毒舌弁護人~正義への戦い~」が香港で歴代興行収入ナンバーワンヒットをして、2024年も「The Last Dance(英題)」という映画がそれを塗り替えて歴代興行収入ナンバーワンになりました。そのうち日本でも劇場公開されたらいいなと期待しています。

村山 そういえば2023年に香港映画特集で観た「縁路はるばる」という作品が、軽いラブコメでありつつ香港の今を描いていてすごくよかったです。

西森 そういう特集でやっているミニシアター系の香港映画も、最近すごくいい作品が多いんですよね。今までイメージしていた香港映画とはちょっと違う面白さのものも出てきているので、今後が楽しみです!

参加者プロフィール

村山章(ムラヤマアキラ)

映画ライター。2009年より続く「しりあがり寿 presents 新春!(有)さるハゲロックフェスティバル」では、初回から運営スタッフを務める。配信系映画やドラマのレビューサイト・ShortCutsの代表。2017年からハル・ハートリー作品の広報や配給業務にも携わっている。

村山章 (@j_man_za) | X

西森路代(ニシモリミチヨ)

愛媛県生まれのフリーライター。主な仕事分野は韓国映画、日本のテレビ・映画についてのインタビュー、コラム、批評など。著書に「K-POPがアジアを制覇する」「韓国ノワール その激情と成熟」、共著に「韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」などがある。

西森路代 (@mijiyooon) | X

ビニールタッキー

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集しており、映画ナタリーではコラム「月刊おもしろ映画宣伝」を連載中。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催している。

ビニールタッキー (@vinyl_tackey) | X

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