ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」 2024年11月号 [バックナンバー]
冗談みたいな思い付きが本当に実現したような宣伝、その裏側に思いを馳せる
一発ギャグみたいなPRにも敬意を
2024年12月6日 19:30 3
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。
今月は「
文
「月刊おもしろ映画宣伝」11月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう!
「ドリーム・シナリオ」
ニコラス・ケイジが主演を務め、A24とアリ・アスターが製作に参加した映画「ドリーム・シナリオ」と通販会社・夢グループがコラボ。代表取締役の石田重廣と所属歌手の保科有里が登場する特別映像が、YouTubeで解禁された。
今月はいきなり強めのコラボから始まりました。こういう「冗談みたいな思い付きが本当に実現したような宣伝」、大好きです。夢グループとのコラボと聞いてあなたの脳裏に浮かんだ映像をそのままお出ししてくれたような、ハイクオリティの動画となっておりますのでぜひご覧ください。
映画「ドリーム・シナリオ」夢グループ コラボ映像
「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」
庄司は日本の“グラディエーター”として、両サイドに後藤とYOSHI-HASHIを従えて「グラディエーター!!」と叫びながら登場。上半身が露出した衣装にMCが寒さを心配すると、庄司は「全然オールタイムOKですよ!」と答え、持ち前の気合いで寒さをものともしない様子を見せる。映画の感想について聞かれると、後藤は「戦闘シーンが大迫力であっという間でした」、YOSHI-HASHIは「映像美も戦闘シーンもすごかったです!」と大満足の様子。また庄司は「なんで僕、ルシアス(主人公)の衣装を着させてもらえてないんですか?」と疑問を投げ掛けつつ、映画については「ストーリーももちろん面白いですけど、ジムで鍛えたものではなく生きた筋肉が見れます! あと、音がいいです。決闘シーンの剣が交わる音とか息遣いも映画館で観ていただけるとわかると思います」と筋肉をはじめとする見どころを挙げた。
筋肉が特徴的な映画の宣伝と言えばなかやまきんに君か
なお、「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」特製パンチングボールは、本日11月8日から10日にかけてSHIBUYA109 渋谷店の店頭イベントスペースに設置されており、誰でも挑戦できる。挑戦者にはもれなくステッカーをプレゼント。“英雄レベル”のパンチを繰り出した方は本作のムビチケが贈られる。
「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」特製パンチングボールというパワーワードに圧倒されてしまいますが、誰でも挑戦できてステッカーももらえるということでけっこういい宣伝だと思いました。
映画「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」日本語吹替版の声優登壇イベントが、本日11月21日に東京・TOHOシネマズ 日比谷で行われ、武内駿輔、 沢海陽子、 宮野真守、 梶裕貴が参加した。
「グラディエーターII」は日本語吹替版も豪華ということで声優さんたちのイベントも開催されました。しかし宮野真守さんが登壇されたことでおもしろ映画宣伝ムード漂うイベントになったようです。
イベントでは映画のサブタイトル「英雄を呼ぶ声」にちなみ、武内と沢海が「自身を英雄だ」と思ったエピソードを披露し、それに対して劇中のゲタ帝とカラカラ帝よろしく宮野と梶がハンドサインでジャッジするというコーナーも。沢海は舞台「マクベス」に出演した際、白塗りメイクに白のカラコンを入れることになり、「ちょっと眉毛が邪魔だなと。そのうち生えてくるから」と眉毛を全剃りしたことを余裕たっぷりにアピール。これには宮野と梶も「役者魂!」と賛辞を送り、サムズアップのジェスチャーで沢海を英雄に認定する。
一方の武内は、将軍アカシウス役の吹替をした山寺宏一との話を披露。「2人ともモノマネが好きなので、いつも楽屋でお互いのまねをしてキャッキャするんです。あるとき、フラッと現れた林原めぐみさんに『こんなの2人も業界にいらないわよ』って言われました(笑)」と大御所とのエピソードを語るも、宮野と梶はサムズダウンを突き付ける。梶から「山寺さんの存在は大きすぎる。もし文句があるなら直接対決を!」と促されると、武内は「映画の中でね、役を通してですけど(対決しています)。ぜひお楽しみに」と呼びかけた。
お笑い芸人さんのイベントかな?と思ってしまうようなコント的なやり取りに笑ってしまいます。しかしサムズアップ・サムズダウンの使い方や対決の話など、ちゃんと映画の内容と絡めてエピソードトークをするスキルはさすがです。
「ビーキーパー」
ゆりやんは、国家も手を出せない世界最強の特殊工作員組織“ビーキーパー”の一員・アニセットに声を当てる。クレイの後任を担う凄腕の持ち主で、劇中ではピンク色のメタリックコート、スカート、ブーツ姿で颯爽と動き回る人物だ。
ゆりやんは「オファーが来たときは緊張しました。ジェイソン・ステイサムさんの声かと思ったので」とボケたあと、「おしゃれで可愛くて凶暴です。今回はドスの利いた声で楽しく演じました」と役どころを紹介した。
今月もさまざまなゲスト声優さんのニュースが界隈を賑わせていましたが、「ビーキーパー」の
「モアナと伝説の海2」
にじさんじ所属のVtuber・剣持刀也(ROF-MAO)が本日11月22日21:00から日本テレビ系で放送される映画「モアナと伝説の海」の同時視聴イベントを自身のYouTubeチャンネルで行う。
こちらは新しい形の「おもしろ映画宣伝」だと感じましたので取り上げてみました。「モアナと伝説の海2」の公開を記念して金曜ロードショーで放送される「モアナと伝説の海」に対してVtuberの剣持刀也さんが同時視聴イベントを開催するというもの。一見異色のコラボに見えますが、剣持さんは筋金入りのモアナ好きとして有名とのこと。Xのディズニー・スタジオ(アニメーション)公式アカウントも同時視聴イベントの告知をしていてともに盛り上げていこう!という感じがとてもよかったです。実際にこのニュースは大変話題となりましたし、同時視聴も盛り上がったということで、今後もこういうネットカルチャーとテレビと映画をつなぐようなコラボが増えるんじゃないかと感じました。
「ライオン・キング:ムファサ」
本日11月18日に大阪・難波八阪神社の獅子殿で行われた映画「ライオン・キング:ムファサ」の大ヒット祈願イベントに、“超実写プレミアム吹替版” でヴィラン役の声優を担った渡辺謙が参加した。
巨大な獅子頭をかたどった獅子殿は、その大きな口で勝利を呼び込み、邪気を飲み勝運(商運)を招くと言われている。渡辺は本殿で神主からのご祈祷を受け、本作のヒットを祈願。「こんにちは。すごくいい天気でよかったです」と挨拶した彼は、「先月から『ライオン・キング:ムファサ』のキロス役を何度かにわたって収録をして、ちょうど今朝も最終チェックのセリフ直しを終え、今日大阪へやって来ました」と伝えた。
映画の大ヒット祈願と言えば東京で行われることが多いですが、今回は大阪、しかも「ライオン・キング」にちなんで獅子殿のある難波八阪神社での祈願ということで技アリの宣伝でした。写真を見ると渡辺謙さんもどこか楽しそうな感じがしていいですね。しかし公開まであと1カ月という状態でもセリフ直しがあったという言葉に少し震えました。日本語吹替って大変なお仕事なんですね……。
「テリファー 聖夜の悪夢」
「テリファー 聖夜の悪夢」に登場する最恐の殺人鬼アート・ザ・クラウンが、11月中旬、東京・渋谷の金王八幡宮を訪問。出世の御利益があるという八幡様で、映画のヒットを祈願した。
「テリファー 聖夜の悪夢」のアート・ザ・クラウンも大ヒット祈願! やはり映画のキャラクターが参拝する宣伝は何度見てもいいものですね。
本作はこれまでハロウィンに姿を現していたアートが、今度はクリスマスを祝う街の住民たちを恐怖に陥れる「テリファー」シリーズ第3弾。“純粋悪の化身”ことアートは公開を控える日本で宣伝活動に勤しんでおり、ご祈祷を受けるため八幡様へ。いつもはすぐ血に染まってしまう衣装も、この日は洗濯したてのように真っ白。鳥居の前ではしっかり一礼し、境内に歩を進めた。
ハロウィンに姿を現していたピエロ男がクリスマスに暴れる、そんな映画のヒット祈願に神社を参拝。もはや信仰や国の垣根を越えた摩訶不思議な状況に頭がクラクラしてきます。さすがに神社という神聖な場ではかしこまるアート・ザ・クラウンさんの写真が最高ですのでぜひ記事をご覧ください。
このアドトラックでは、DIR EN GREYが手がけた日本版イメージソング「The Devil In Me」とともに、プロモーション用に作られたTESSEI TOJOによる本日リリースの楽曲「Psycho Parade」が流される。TOJOは「子供の頃から大好きだったDIR EN GREYと、このような形で自分の音楽を一緒に流してもらえるのはとても嬉しいです」とコメントした。
映画のアドトラックはよく見かけますが、R18+指定作品のハードなホラー映画のアドトラックというのはかなり珍しいと思います。しかも日本版イメージソングを流しながら走るというのはイメージソングの上手な使い方だと感心しました。この少しレトロなテイストのキービジュアルがどーんと描かれているのがかっこよくていいですね。
「テリファー 聖夜の悪夢」はグッズも豊富。「全世界が吐いた。」というキャッチコピーにちなんだエチケット袋風ランチバッグという常軌を逸したグッズもあります(でもデザインはめちゃくちゃオシャレ)。ほかのグッズもナイスデザインですのでぜひご覧ください。
映画「テリファー 聖夜の悪夢」グッズ販売中
そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今月はこちらです!
本作は“純粋悪の化身”ことアート・ザ・クラウンがクリスマスを祝う街の住民たちを恐怖に陥れる「テリファー」シリーズ第3弾。安村はいつものパンツ姿で「変態です! 変態がやってまいりました! フウーー!」と意気揚々と姿を現し、「安心してください、はいてますよ」と挨拶する。MCからゲストとして呼ばれた理由を聞かれると、安村は「全世界が吐いた。」という映画のキャッチコピーを紹介し、「僕も(パンツを)はいてるので。穿いてるのと、吐いてるので。全世界が吐いた、全世界が穿いてる。こういうことです」と明かす。
やはり今月は「テリファー 聖夜の悪夢」が強かった! 「安心してください、“吐いて”ますよ」というフレーズを思い付いた才能に嫉妬しかありません。まさに前述した「冗談みたいな思い付きが本当に実現したような宣伝」という感じです。最高すぎます。
しゅんPは「医者って人を救う仕事。だから『テリファー』を観たときに、腹が立って腹が立って(笑)。こんなに殺戮するのか、と。でも、めっちゃ面白かった」「臓器をけっこう見ちゃいましたね。これは小腸っぽいな、大腸っぽいな。みたいな」と医者ならではの感想をトーク。大昔に観た「バタリアン」以来のホラー体験だったという安村は「俺も『これは全裸ポーズになれるかな?』とか、『今のは全裸っぽいな』という見方ですね」と続ける。
この日は現役ドクターとして知られる芸人の“しゅんP”ことしゅんしゅんクリニックPも出席。内臓も飛び出す残酷描写たっぷりの本作にふさわしいゲストとして呼ばれ、「僕は……内臓に詳しいからですよね? 臓器つながりで」と話した。
もう何がなんだか! このあとの現役ドクター芸人しゅんPさんによる「吐き気が収まるツボ」の話や「もし吐いてしまった時の楽な姿勢」など普通にためになる話も面白かったです。この別方向にとがっている芸人2人に加えてアート・ザ・クラウンも登壇していたためかなりカオスなイベントになっていたということがよく伝わりました。
今月はおもしろ映画宣伝がかなり豊富で厳選するのが大変でした。そんな中でも私の目を引いたのが「冗談みたいな思い付きが本当に実現したような宣伝」でした。「ドリーム・シナリオ」と夢グループ、「テリファー 聖夜の悪夢」ととにかく明るい安村さん、さらに言えば「モアナと伝説の海」と剣持刀也さんなど、「それ、本当に実現しちゃうんだ!」「その2つをつなげるのか!」という驚きとともに映画への興味を引き付けてくれる宣伝になっていました。
こういった「冗談みたいな思い付き」はある意味一発ギャグの具現化のようなものなので、実現のためにいろいろ画策している間に冷静になってしまったりしてモチベーションを継続するのが大変だと思います。それでも実現できるのは、宣伝担当の皆さんの努力と、受けた仕事をしっかりこなす芸能人やタレントさんの力量のなせる技だと思います。この手の宣伝は見た目は完全に一発ギャグですが、改めて敬意を払いたいと感じました。
以上、月刊おもしろ映画宣伝2024年11月号でした。次回もお楽しみに!
ビニールタッキー
映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。
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ビニールタッキー @vinyl_tackey
こないだこの記事に「筋肉が特徴的な映画の宣伝と言えばなかやまきんに君か庄司智春さんか野田クリスタルさんという感じの昨今ですが」と冗談混じりに書いたんですが本当にそんな感じで笑っています。
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