「スパイの妻」「アルプススタンドのはしの方」「事故物件 恐い間取り」

文 / 金子恭未子

「スパイの妻（劇場版）」藤森朋果（宣伝プロデューサー）

1. 作品を初めて観たときの率直な感想

初めて観たのはドラマ版の仮編集だったこともあり、「テレビドラマっぽい……？」が第一印象でした。

それが、スクリーンで初号を観たら全然違う！ 音の聴こえ方も違って、「ああ、映画を観た！」という多幸感に包まれました。加えて、蒼井優さん、高橋一生さんの力量を思い知りました。いろんな作品で観ている俳優さんたちなのに、「スパイの妻」の世界に生きている実在の人物にしか見えなかった。

2. 力を入れた施策 / ボツになった施策

力を入れた施策

コロナ禍でしたので、とてつもなく変わったことはできなかったように感じます。「スパイ」「太平洋戦争」「ミステリー」という内容なので、劇場から足が離れていたご年配の方を呼び戻すために、派手な施策というより、「紙で文字を読む文化の人たち」に届けることを最重要課題とし、先に出版されていたノヴェライズと併せた書店展開などは功を奏したと思います。

また、黒沢清監督のファンは必ず来てくださると信じて、あえて黒沢ファンへのアピールよりも、それ以外の人が如何にして興味を持つか、の言葉選びに尽力しました。

ボツになった施策

ボツというのか分かりませんが、通常だと行うプレミア上映ができなかった。
ボツになりかかったけど、実現したのはLINEスタンプです。あまりの使い道の狭さにツイッターで少し話題になって嬉しかったです。

3. コロナ禍で影響を受けた点

宣伝展開すべて。
ターゲットも修正しました。

4. 作品がヒットしたと手応えを感じた瞬間

クイズ番組で「スパイの妻」が扱われたとき。

5. 作品がヒットした理由はどこにあると考えているか？

ヴェネツィア国際映画祭での銀獅子賞受賞が大坂なおみさんの全米オープン優勝と同じタイミングだったこともあり、「日本人が成し遂げた偉業」として、多くのニュースメディアに報じられたことで、普段から映画に興味を持っている方以外にも届いたこと。

6. 世に出てからの反応で予想外だったもの

あまりありませんが、繰り返しご覧くださる方が驚くほど多かったことでしょうか。
ツイッター上での確認のみですが、24回ご覧になった方もいらっしゃいました。

藤森朋果

「スパイの妻（劇場版）」宣伝プロデューサー。2020年の一押し作品は「パラサイト 半地下の家族」。

「スパイの妻（劇場版）」Blu-ray / DVD販売中

税込価格：Blu-ray豪華版 6380円 / DVD通常版 4180円
発売元・販売元：アミューズソフト

「アルプススタンドのはしの方」久保和明（プロデューサー）

1. 作品を初めて観たときの率直な感想

まず原作である東播磨高校の演劇を観て涙しました。その次に商業演劇を観て涙しました。
その素晴らしい原作を映画にする時は力も入りましたし、城定（秀夫）監督を中心に自分たちの手で完成させた時は「もしかしたら自分はこういう映画を作りたかったのかもしれない」と涙しました。

2. 力を入れた施策

甲子園球場での撮影に向けて精一杯の努力をしましたが私の力不足で叶いませんでした。
時代に合わせてYouTubeチャンネルを開設し作品の魅了が少しでも伝わる様な動画も作りました。ぜひご覧いただきたいです。

KP 映画チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC9Gx4Eckb69u5uCo1UeLV8A

3. コロナ禍で影響を受けた点

公開を延期しました。映画館へ行く事を控えた方も多いと思います。
本音としましては、こんな時勢でなければもっと多くの方に観て頂けたかもしれない、と考えてしまう事はあります。

4. 作品がヒットしたと手応えを感じた瞬間

公開初日のお客さんの声で手応えを感じ、劇場が上映の延長を重ねて頂いている様子でヒットの手応えを感じました。

5. 作品がヒットした理由はどこにあると考えているか？

とてもピュアな作品である事。登場人物と自分を重ねてしまう映画である事。誰もが送って来た青春に誰もが後悔している事があり、応援する映画のはずがいつの間にか自分を応援してくれているかの様に感じる事。

6. 世に出てからの反応で予想外だったもの

元は高校演劇だったので若者に観て頂ける映画だと思っていたら、30代以上の大人の男性に支持して頂けたこと。

7. 当初の目標値と結果

目標観客動員数：1万5000人 / 結果：4万人
目標興行収入：2000万円 / 結果：5000万円

久保和明

「アルプススタンドのはしの方」プロデューサー、株式会社レオーネ代表取締役。1975年8月生まれ、千葉県出身。1998年日本映画学校（現日本映画大学）俳優科10期卒業後、俳優として数多くの作品に出演。所属事務所の営業ならびにマネージメントも開始する。2004年8月に株式会社レオーネを設立。2020年までに500タイトルを超える映画やドラマ、ミュージックビデオ、CM、企業VTRなどの映像作品を手がけた。2020年の一押し作品は「のぼる小寺さん」「佐々木、イン、マイマイン」「悪人伝」。

「アルプススタンドのはしの方」Blu-ray販売中、DVDレンタル中、デジタル配信中

税込価格：Blu-ray初回限定生産版 6380円
発売元・販売元（セルBlu-ray）：ポニーキャニオン

「事故物件 恐い間取り」西田雅之（宣伝プロデューサー）

1. 作品を初めて観たときの率直な感想

怖いけど、これは面白い！と思いました。

「事故物件に住んだ芸人の実話」といういかにも現代ならではのテーマとエンターテイメント性が見事に表現されていて、これまでのJホラーにはなかった魅力があり、これは絶対若い人たちに受ける！と確信しました。

また私自身は撮影現場も拝見していたので「怖さ」はそれほど感じませんでしたが、周りのスタッフ、関係者の感想も聞いていると「怖い」という人と「面白かった」という人がいて、ホラーなのに意外な感想が多くて驚きました。

ただ宣伝では決して「面白さ」が先に出ないように、本作の持つ実話ならではの恐怖を最大限伝えられるように意識しました。

2. 力を入れた施策 / ボツになった施策

力を入れた施策

SNS、YouTube

映画のヒットのためには、作品の内容ももちろんですが「事故物件」というワード、存在自体を世の中に浸透させる事が重要だと考え、特にTwitterやYouTubeでは様々な施策を行いました。「事故物件恐い間取りメーカー」というのを作ったところTwitterのトレンドに入ったり、クロちゃんを起用した「事故物件 恐いカレシ」というミニドラマを制作しました。YouTubeでは予告の他にもWEB限定のトレーラーやバンパー広告などをたくさん作って、とにかく多くの人に興味を持ってもらい、公開に向けてピークを作れるようにと思っていました。またこれまでお付き合いの無かったYouTuberの方とも多数コラボさせて頂き、原作の松原タニシさんが住む本当の事故物件からの配信など、様々な事にもチャレンジさせて頂きました。

ボツになった施策

「宣伝担当が事故物件に住んでみた」企画

一度案として出ましたが、さすがに住むのはマズイだろうという事になってボツになりました……。ただ「事故物件」を扱う不動産会社さんとのタイアップで実際の事故物件を訪れる企画などもあり、体を張ってくれた宣伝担当には感謝しています（笑）。

3. コロナ禍で影響を受けた点

映画公開時は劇場の客席の売り出しは50％が上限となっていました。
100％であればもっと多くのお客様に観て頂けたかもしれませんし、逆にそのような状況であったからこそヒットした一面もあるかもしれません。

4. 作品がヒットしたと手応えを感じた瞬間

初日の金曜日、夕方以降に一気にお客様が増え、レイトショーの上映でも満席近い劇場が多くあるのを確認し、これは！と手応えを感じました。金土日の3日間で興収4億6000万円、34万人のお客様にご鑑賞頂き、チームで喜びを噛みしめたのを覚えています。

5. 作品がヒットした理由はどこにあると考えているか？

「ある芸人が事故物件に住んでみた実話」という映画が持つ魅力を最初から最後まで丁寧に、かつインパクト強く打ち出すことを宣伝方針としていたので、予告やポスターといったクリエイティブから宣伝施策まで、コンセプトにしっかり合った展開を行えたことに尽きると思います。あとは公開時期の8月末に「事故物件」という映画が一つのレジャーとして広がったという一面もあるのかなと感じています。ホラー作品は一人よりも友人同士やカップルなど、複数人で肝試し感覚で観に行くお客様が多いので、コロナ禍で夏休みに旅行や遊園地などのレジャーに出かける機会が減っていたからこそ、映画の客層が広がったのはヒットの要因として考えています。鑑賞した方の中には、10年ぶりに映画館に来たという方もいたので、よりライトなお客様に受け入れて頂けたのだと思います。

6. 世に出てからの反応で予想外だったもの

公開直後から「とあるシーンで『助けて』という声が聞こえた」というツイートが話題になり、YouTuberの水溜りボンドさんにそれを映画館に検証に行く動画をアップして頂くなど、SNSでのふとした感想がこんなに広がっていくことがあるというのに驚きました。その他にも話題になった結末のシーンなど、公開日までは隠されていた本編の要素が、映画公開後はお客様によってそれぞれの解釈で広がっていったのは新鮮な体験でした。

7. 当初の目標値と結果

目標観客動員数：100万人 / 結果：175万人
目標興行収入：10億円 / 結果：23億円

西田雅之

松竹株式会社 映画宣伝部宣伝企画室 プロデューサー。2020年の一押し作品は映画「ミッドサマー」とドラマ「野ブタ。をプロデュース」。

「事故物件 恐い間取り」Blu-ray / DVD販売中

税込価格：Blu-ray豪華版 初回限定生産・3枚組 7370円 / Blu-ray通常版 5170円 / DVD豪華版 初回限定生産・3枚組 6380円 / DVD通常盤 4180円
発売・販売元：松竹