黒沢清「ルノワール」は“人が死んで悲しくない映画”、早川千絵&河合優実とトーク

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映画監督の黒沢清が、3月22日に審査委員長を務める第7回大島渚賞の記念上映会に出席。東京・丸ビルホールで映画「ルノワール」が上映され、受賞者で監督の早川千絵、キャストの河合優実とトークを繰り広げた。黒沢は「よくぞ人が死んで悲しくないという映画を作ってくれた」とユニークな語り口で本作をたたえた。

「第7回大島渚賞 記念上映会」の様子。左から審査委員長の黒沢清、「ルノワール」を監督した早川千絵、出演者の河合優実

「第7回大島渚賞 記念上映会」の様子。左から審査委員長の黒沢清、「ルノワール」を監督した早川千絵、出演者の河合優実

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2019年に創設された大島渚賞は、映画の未来を開き、世界へ羽ばたこうとする、新しい才能に対して贈られるもの。早川は長編2作目となった「ルノワール」で、1980年代の日本を舞台に、11歳の少女が大人の世界をのぞく中で生きることの機微に触れていく姿を描き出した。オーディションで見出された当時11歳の鈴木唯が主人公・フキを演じたほか、石田ひかり、リリー・フランキー、中島歩、河合、坂東龍汰らが出演している。

映画「ルノワール」で鈴木唯が演じた主人公・フキ ©2025「RENOIR」製作委員会 / International Partner

映画「ルノワール」で鈴木唯が演じた主人公・フキ ©2025「RENOIR」製作委員会 / International Partner [高画質で見る]

黒沢は「ルノワール」について「この映画を昨年、映画館で観て、本当に驚きました」と切り出すと、世界中の子供たちが涙を流す映像や、少女が殺される映像などが流れる冒頭に触れて、「こんなふうに始まる映画を観たことないと思ってびっくり仰天でした」と語る。

第7回大島渚賞の審査委員長を務めた黒沢清

第7回大島渚賞の審査委員長を務めた黒沢清 [高画質で見る]

さらに「相米慎二が得意としていたひと夏の冒険といった構造から始まるのかなと思っていたんですが、そこから相米慎二とはかけ離れていきます。主人公が経験するひと夏というのは、人間が一生で味わうであろう、多くの悪意と残酷さと嫌悪、それから死ですね。それらが連続的に立ち現れてくるわけですが、そのうちのいくつかは彼女自身が積極的に引き起こしているというのが本当に恐ろしくて。しかし、それこそが魅惑的なひと夏の経験ものになっていたということで大変感動し、衝撃を受けました」と続けた。

映画「ルノワール」で第7回大島渚賞を受賞した早川千絵

映画「ルノワール」で第7回大島渚賞を受賞した早川千絵 [高画質で見る]

黒沢から物語の発想について問われた早川だが、脚本は自分がどういった映画を作りたいのか、わからないまま書き始めたそう。子供のときに感じた胸の痛みや寂しさについて触れ、「そういう欠落しているものを埋め合わせるものとして、当時、映画というものがあったような気がしていて。その時の感覚を思い出して作りたかった」と述懐。「ルノワール」には映画を撮りたいと思っていた子供の頃に考えていたシーンもあり、「それはバラバラなエピソードだったんですけど、それを書き連ねる、というところから始めました」と振り返った。

黒沢が特に感銘を受けたのが、主人公フキの「死」に対する向き合い方。「フキはいろいろな人の死に接するわけですが、決して悲しまないですよね。映画の冒頭からして『人は死ぬとなぜ悲しむのか』という疑問から始まっていて。さまざまな経験を経て最終的には『人が死んでも必ずしも悲しむ必要はないのだ』という、非常に強烈なメッセージを獲得する」と述べ、「世の中には、人が死んで悲しいという物語が山のようにあふれていて、うんざりしていたんですけど、その中でよくぞ人が死んで悲しくないという映画を作ってくれた。本当にそこは痛快で、拍手したい」と称賛する。

映画「ルノワール」で河合優実が演じた北久里子 ©2025「RENOIR」製作委員会 / International Partner

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黒沢は河合が演じた、フキと同じマンションに暮らす女性にも言及。劇中で彼女はフキに誰にも話せずにいた秘密を打ち明けることとなるが、黒沢は「よくあるお芝居ですと、ここは最後に泣き崩れるんですけど、彼女は一切泣かないんですね。非常に辛い苦しみであったことはわかるんですけど、フキが疑問に思ったように、別に悲しいわけじゃない。わかりやすく悲しい感情とは少し違うように見えたんです。あれは監督の指示ですか? 俳優さんって隙あらば泣こうとするじゃないですか?」と冗談めかして、会場の笑いを誘う。

その言葉に笑顔を見せた河合も「泣くというゴールではない設計図をもとにシーンを考えてました」と述懐。現場に入る前に早川、鈴木、そして河合の3人でこのシーンについて考える機会が設けられ、リハーサルを重ねてシーンを探っていったという。

河合優実。早川千絵の監督作には「PLAN 75」に続いて出演した

河合優実。早川千絵の監督作には「PLAN 75」に続いて出演した [高画質で見る]

さらに、黒沢は「俳優さんにとって、ワンシーンだけのゲスト出演というのは楽なんですか? それとも辛いものですか?」と質問。河合は「難しいですね。やっぱり自分の目が届く場所がそのワンシーンしかないので。あまり見渡せない。結局自分の役と、自分が関わるシーンをよりよくするということに一番重きを置くことになるので、それが難しいですね」と答える。

「逆に言えば、そこさえやればあとはお任せ、といった自由もあるのでは?」という黒沢の指摘に、「そうですね。お邪魔する感覚でした。1日、よろしくお願いしますっていう感じ」と返した河合。黒沢は「なんでも来いみたいな感じがあのシーンからも感じられて、すごくすがすがしかった」と河合に称賛の言葉を贈った。

黒沢は、劇中にちりばめられたエピソードの恐ろしさについても言及する。「友達の家で父親の浮気の証拠を遊びを装ってわざと当ててみせて反応を見たり、父親の病室で、隣のベッドで寝ているおじいさんの手を握って孫のふりをしたり。友達の家に行ったら、そのお母さんがフキの靴下を汚そうにビニール袋に入れたり。入院したリリー(演じる圭司)さんが久しぶりに家に帰って、明かりをつけたら喪服がかかっているとか。どれもほとんどホラー映画のネタですよ。1つとして心温まるいい話がない。それをあえて『これって普通ですよね』と提示しているところがすごい」と指摘する。

映画「ルノワール」で鈴木唯が演じた主人公・フキ ©2025「RENOIR」製作委員会 / International Partner

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それに対し早川監督は「怖がらせようと思って書いたわけではなく、単に自分が好きなんでしょうね」と返答しつつも、「そう言われると、ちょっと自分が心配になってきますね」と苦笑い。「この映画も、なんの事前情報も知らずに来ると、心温まる子供の家族の話だと思うかもしれない。でも自分としてはこれが割と普通の感覚で。みんな多かれ少なかれこういう感じを持ってるんじゃないかなと思って入れたんですけどね」と振り返ると、「普通の感動的な物語に素直に感動できない自分がいて。ひねくれているなと常に思っていました」と述懐。黒沢は「少数派同士、がんばりましょう!」と笑ってみせた。

そしてフキと自分自身を重ね合わせて見ていたという河合も「私もたぶん早川さんと同じ感覚を共有している部分があるなと思いながら観ていました。やはりやってはいけないことをやりたくなったり、いい結果にならないと思っても手を出してしまう気持ちはすごくわかります。その結果悪いことが起きても、言葉にはできない。それは子供だからだし、私は大人になっても全然言葉にできない。自分の中でも言葉にできないことが、そのまま映像に残っていたのが好きでした」と深く共鳴している様子だった。

左から黒沢清、早川千絵

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「映画を撮りたいと思うことと、映画監督になるということは違うのではないか」という黒沢からの問いかけに、「まさに今すごく不思議に感じているところです」と深く同意した早川。映画監督になった現在の実感をこう語った。

「子供の頃、映画監督と言えば、黒沢監督のようになんでもわかっていて、スタッフがその監督のために動くような、人間的な魅力があって、ブレない存在だと思っていましたが、それと自分自身がだいぶ乖離しているなと思っていたので、自分が映画を撮ろうと一歩を踏み出すのにすごく時間がかかりました。でも、いろんな監督がいるんだということがわかってきて、自分の思い描いていた“いわゆる映画監督”じゃなくても映画は作れるんだとわかってきたんです」

これに黒沢も「僕でもできているんですから大丈夫ですよ。誰でもやれるみたいですよ、監督って」と付け加え、会場の笑いを誘った。

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おおとも ひさし @tekuriha

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