森崎東のお薦め映画6本
「喜劇 女は度胸」(1969年)
松竹の脚本家としてキャリアを積んでいた森崎が、40歳を過ぎてから発表した監督デビュー作。「
「喜劇 女は男のふるさとヨ」(1971年)
小説「わが国おんな三割安」を原作に、ストリップの踊り子たちが共同生活する新宿芸能社を舞台にした喜劇「女」シリーズ第1弾。貧しいけれどたくましいダンサーたちが、人情に厚い経営者夫婦の“家族”としてパワフルに生きる姿を描く。血のつながらない擬似家族の形成と連帯は、森崎がこだわり続けた主題の1つ。中村メイコ演じる肝っ玉母さんがヤクザにさらわれた“娘”のため、肥溜のドラム缶を敵陣のバーに放り込む序盤からして笑いと怒りのテンションが尋常ではない。倍賞美津子の元気と緑魔子の健気な魅力が光る1本。シリーズはその後、森崎監督で「
「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」(1985年)
旅回りのヌードダンサー、全国の原発を渡り歩く下請け労働者“原発ジプシー”、原発ジプシー相手の娼婦、フィリピンからの出稼ぎ女性、修学旅行積立金の強奪未遂を起こした少年少女たち、教職を追われた落ちこぼれの中学教師──庶民という言葉ではくくれない社会のはみ出し者たちのバイタリティあふれる姿を描いた森崎映画の真骨頂にして代表作。沖縄や原発、“ジャパゆきさん”など社会的・政治的な主題をラディカルに捉えつつ、コメディあり、アクションあり、メロドラマありと一言では説明できない筋書きが魅力。倍賞美津子と原田芳雄を中心とした”ごった煮”の人間賛歌は、のちの「
「女咲かせます」(1987年)
結城昌治の小説「白昼堂々」を原作としたコメディメロドラマ。松坂慶子演じる女泥棒・豊代のデパート売上げ金強奪計画と恋の転末を描く。同じ下宿に住むチェロ弾きの貧乏青年・三枝(役所広司)に恋した豊代は、泥棒稼業から足を洗うことを決意。一世一代、最後の大勝負に出る。デパートを縦横無尽に駆け巡るはちゃめちゃな強奪計画がひたすら楽しい。片や新幹線のホームで貧しかった幼少期の身の上を語る豊代の姿は一見の価値あり。「アタシ、泥棒しようと思ってしたんじゃないんです」──松坂慶子の泣きの演技が胸にズシンと響く1本。冒頭からラストに至るまで、時折響くチェロの音色も美しい。
「美味しんぼ」(1996年)
原作は言わずと知れたグルメマンガの金字塔。三國連太郎と佐藤浩市の父子が、確執のある親子役で共演し注目を集めた。ライバル同士の新聞社が文化遺産となるべき食を決める「究極のメニューVS至高のメニュー」と題した企画で社のメンツを賭けた勝負に。一介の新聞記者とは思えない料理の腕前を披露する息子・山岡士郎(佐藤)と、食で人々に感動をもたらす稀代の美食家である父・海原雄山(三國)が火花を散らす。料理バトルの醍醐味をこれでもかと堪能できる娯楽作である一方、確執の原因となった母の死と映画オリジナルの煮豆にまつわるエピソードが深く胸を打つ。終盤、2人が並んで歩く長回しは必見。
「ペコロスの母に会いに行く」(2013年)
岡野雄一のエッセイマンガをもとに、中年サラリーマンの認知症を患った母の介護体験をユーモラスに描いた遺作。当時85歳の森崎は自身も認知症を発症していることを知りながら、故郷・長崎での撮影に臨んだ。「ボケるとも、悪かことばかりじゃなかかもしれん」──介護や認知症の問題をネガティブな側面だけでなく前向きに見つめた視点が光る。母みつえ役の赤木春恵は89歳にして映画初主演。みつえが薄れゆく記憶の中で、ある歌を自力で呼び起こすシーンは得も言われぬ感動を呼ぶ。息子役は岩松了。第87回キネマ旬報ベスト・テンでは日本映画1位を獲得している。
追悼特集 森崎東党宣言!
2020年11月21日(土) ~12月11日(金) 東京都 シネマヴェーラ渋谷
<上映作品>
「
「ニワトリはハダシだ」
「
「
「
「
「
「
「
「
「
「
「女生きてます 盛り場渡り鳥」
「
「喜劇 女生きてます」
「
「
「
特別上映「喜劇 女売り出します」(国立映画アーカイブより)
ドラマ「田舎刑事」第3話「まぼろしの特攻隊」
ドラマ「天皇の料理番」第1話「カツレツと二百三高地」
ドラマ「帝銀事件 大量殺人 獄中三十二年の死刑囚」
※記事初出時、特集上映作品のリストに不足がありました。お詫びして訂正します。
森崎東 略歴
1927年11月19日生まれ、長崎県島原市出身。日本が敗戦を迎えた翌日、割腹自殺した海軍少尉候補生の兄・湊の死に衝撃を受ける。京都大学在学中は学内新聞に所属しながら政治活動に傾倒。この頃から進路として映画業界を意識し、1956年に松竹京都撮影所に入社する。助監督を務めていたが、1965年の京都撮影所閉鎖に伴い、松竹大船撮影所の脚本部に移籍。山田洋次監督作「吹けば飛ぶよな男だが」「男はつらいよ」などの脚本に参加した。1969年には「喜劇 女は度胸」で監督デビュー。1974年以降は松竹を離れ、フリーの監督として映画のほか多くのテレビドラマを手がける。1980年代は渡瀬恒彦と夏目雅子を主演に迎えた「時代屋の女房」をはじめ、西田敏行主演「ロケーション」、倍賞美津子主演「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」などを発表。2004年公開作「ニワトリはハダシだ」は第54回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待され、第17回東京国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞。遺作となった2013年公開の「ペコロスの母に会いに行く」は、キネマ旬報ベスト・テンの日本映画1位に選ばれた。キャリアを通して計25本の劇場公開映画を監督している。
※
バックナンバー
関連記事
森崎東のほかの記事
リンク
@thizchan @Chiz5010
森崎東が捉えたもの 寄稿・真魚八重子 | レジェンドの横顔 第2回 https://t.co/6q7AAJfKEf