寅年は寅さんで始めよう！加藤一二三、入江悠、ミキ昴生、二階堂和美が選ぶ「男はつらいよ」ベスト3

取材・構成（加藤一二三） / 黛木綿子

加藤一二三が選ぶベスト3

第41作「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」（1989年）

寅さんと柄本明さん演じるサラリーマンが一緒にウィーン旅行へ行くお話です。旅先で寅さんは淡路恵子さん扮するマダムのお宅にお世話になる。ツアーガイド役の竹下景子さんも登場します。モーツァルトの像、シュテファン寺院、シェーンブルン宮殿といった名所や「第三の男」に登場した観覧車などが美しい映像で堪能できます。「男はつらいよ」は毎作どこを切り取っても絵がきれいなのが魅力ですよね。

ウィーンは音楽の都。私はクラシックの大ファンなもんですから、そういった面でも大変楽しめました。実は音楽担当の山本直純さんとは知り合いでして、彼が亡くなられたときには私が弔辞を読んだんです。それから淡路さんは、私が出演している番組「アウト×デラックス」に出てくださったことがあり、私のトークによく笑ってくださって（笑）。そういった縁もございまして、この作品は何度も繰り返し観ました。

「第41作 男はつらいよ 寅次郎心の旅路 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第16作「男はつらいよ 葛飾立志篇」（1975年）

マドンナ役で樫山文枝さん、その先生である考古学者役で小林桂樹さんが出演されています。印象に残っているのは、小林さんが天才オペラ作曲家ヴェルディが手がけた「リゴレット」の1曲「女心の歌」をイタリア語で歌うシーン。実は私も「めざましクラシックス」というイベントで同じ曲を歌ったことがあるんです!! そのときもがんばって始めから終わりまでイタリア語で歌ったんですよ！ ですから、小林さんの歌声を聴いて「非常にお上手だな」と思いました。

寅さんが学問に目覚めるというストーリーもよかったですね。この作品に限らず、毎回脚本が練られていて、1本観ただけで3本ぐらいの映画を観たような気になれるのがすごいところだと思います。ハチャメチャなようで決して無理がない展開なんですよね。

「第16作 男はつらいよ 葛飾立志篇 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第40作「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」（1988年）

マドンナは三田佳子さん演じる女医。その姪が早大生で、寅さんが早稲田大学に行くお話です。実は私、早稲田が母校でして、とっても懐かしく思いながら観ました！ 寅さんが参加する授業では三國一朗さんが教授役をやっていて、産業革命や蒸気機関車について説いていたのが印象的でしたね。途中から教授に代わって寅さんの講義が始まるんですが、それが学生たちに大ウケ。寅さんもすっかり早大生に好感を抱いて帰るところが快かったです。

講義のシーンでも感じましたが、やはり渥美清さんの演技力は抜群！ 祭りでお客さん相手に掛け合いをするシーンも毎度素晴らしいですし、寅さんがとらや（※第40作以降はくるまや）に戻ってきたときに、いっぺんわざと店の前を通りすぎて、なかなか入ってこないような描写がよくありますよね。ああいう細かいお芝居がお上手だなあと思います。

寅さんは、出会う人物の肩書きや権力に惑わされることなく、いつもどのような立場の人に対しても、おもねることなく、分け隔てなく優しい。それが全作品を通して一番魅力的で、故に国民的人気を博している理由ではないかと個人的には感じています。

「第40作 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

加藤一二三（カトウヒフミ）

1940年1月1日生まれ、福岡県出身。当時の史上最年少記録となる14歳7カ月で四段に昇段、プロ棋士に。最年長勝利記録・史上最多対局数など多くの記録を残し、2017年に現役を引退。77歳11日という現役棋士の史上最年長記録を持つ。引退後も各メディアで活躍し、“ひふみん”の愛称で親しまれている。2000年に紫綬褒章、2018年には旭日小綬章を受章した。

加藤一二三の記事まとめ

入江悠が選ぶベスト3

第1作「男はつらいよ」（1969年）

記念すべき第一作。
この頃はまだリアルに鼻つまみ者だった寅さん。
妹さくら（倍賞千恵子）の縁談をぶちこわそうと暴れまくる。
後になって激しい動きが少なくなっていく寅さんも、この頃は元気がありあまっていた。
迷惑きわまりない寅さんに、勇気を振り絞って結婚話を切り出す博（前田吟）が感動的。
ここから柴又「とらや」の家族像がかたまっていった。

「第1作 男はつらいよ HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第3作「男はつらいよ フーテンの寅」（1970年）

山田洋次ではなく、森崎東が監督した第三作。
旅先で出会った渡世人の先輩に、人生のなれのはてを突きつけられる寅さん。
自分が将来たどるであろう姿を目撃しつつ、グッと堪えて仁義を切る姿が感動的。
制作陣が本作の寅さん像を突きつめていたら、おそらく寅さんに待っていたのは、路傍での寂しい死だっただろう。
シリーズで最も悲哀があり、異色作だがとても誠実な映画。

※森崎東の崎は立つ崎（たつさき）が正式表記

「第3作 男はつらいよ フーテンの寅 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」（1980年）

長寿シリーズを最終作から第一作へさかのぼって観ていくと、人生の無常さが伝わる。
「寅さん、目の前にいるこの人が運命の人だよ！ チャンス逃しちゃだめだよ！」
そう叫びたくなるのが、数多のマドンナの中でも最多登場のリリーさん（浅丘ルリ子）との出会いと再会。
寅さんにとって運命の女性であり、この人と結ばれていたら……と思わざるを得ない。
「幸運の女神には前髪しかない」、という格言を強烈に思い出させてくれる一作。
ハッと気づいた時には、運命の人の背中は遠くに見えるばかりだ。

「第25作 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

入江悠（イリエユウ）

1979年11月25日、神奈川県生まれ。主な監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、「ジョーカー・ゲーム」「日々ロック」「太陽」「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」「ビジランテ」「ギャングース」「AI崩壊」、ドラマ「ふたがしら」シリーズや「ネメシス」などがある。2021年には「シュシュシュの娘」「聖地X」が公開された。映画メルマガ「僕らのモテるための映画聖典」を配信中。

入江悠の記事まとめ

昴生（ミキ）が選ぶベスト3

“僕の好きな寅さん”：第30作「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎」（1982年）

僕が特に好きな寅さんが、恋愛コーチをする寅さん。いつも恋する寅さんが恋愛アドバイザーになり恋愛をアシストしてしまう。恋愛に対して能書きを垂れまくる。第30作「花も嵐も寅次郎」を小さい頃に見て「このおっさんダサいなぁ！」と思ってたのが大人になってもう一度見て「このおっさんおもろい！ かっこいい！」となりました。
寅さんは毎回マドンナに恋をするんですが毎回成就しない。でもそのマドンナの恋のキューピットになる時があります。30作目は見事沢田研二さんと田中裕子さんのキューピットになります。でも寅さんは決して本意ではないんです。なぜかキューピットになってしまってる。フラれるだけじゃなく取られる。それが笑える。寅さんの悲しい顔がなぜか笑える。最高です。そしてなにより田中裕子さん、めちゃめちゃかわいいです。

「第30作 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

“僕の好きなさくら”：第32作「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」（1983年）

「男はつらいよ」の魅力は寅さんだけじゃなくその家族、車家のみんなもその一つです。もちろんタコ社長もです。特にその中でもやっぱりさくら。お兄ちゃんが大好きなさくら。そばで支えるさくら。
32作目「口笛を吹く寅次郎」はオープニングから面白い。お坊さんに扮してる寅さんを見て泣くさくら。なにしてんねん寅さん。泣かんでもええやんさくら。
そしてこの作品で珍しいのが、最後竹下景子さんとの恋が柴又駅で成就しそうになるんです。告白されるんです。でもそばにさくらがいてて寅さん恥ずかしがって断ってしまうんです。なにしてんねん寅さん。ほんでどっか行ってあげろよさくら。
僕はこのシーンが大好きでなぜか何度も見てしまいます。そしてなにより竹下景子さんがめちゃめちゃかわいいです。

「第32作 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

“僕の好きな男はつらいよ”：第4作「新・男はつらいよ」（1970年）

「男はつらいよ」にはコントのようなシーンがいくつもあります。有名なメロン騒動に満男の運動会事件にタコ社長がいらんこと言う事件なんて何度もありました。僕はその中でも第4作「新・男はつらいよ」のハワイ事件が大好きです。
どんな事件かは改めて言いませんが見たら全員ツッコむと思います。
「正直に言うたらええやん！」って。
この事件だけは寅さんだけじゃなくおいちゃんもおばちゃんも博までもボケ役です。
ほんま寅さんが意気揚々と帰ってきたときにええことあった試しなしです。
そしてもちろんマドンナ栗原小巻さんがめちゃめちゃ可愛いです。

「第4作 新・男はつらいよ HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

昴生（コウセイ）

1986年4月13日生まれ、京都府出身。2012年より弟の亜生とお笑いコンビ・ミキとして活動。2016年に「第46回NHK上方漫才コンテスト」で優勝し、2017年から2年連続で「M-1グランプリ」の決勝に進出、2020年には「第5回上方漫才協会大賞」で大賞を獲得した。バラエティ番組「霜降りミキXIT」「王様のブランチ」「よるのブランチ」などにレギュラー出演中。

ミキの記事まとめ

二階堂和美が選ぶベスト3

第32作「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」（1983年）

出戻りのお寺の娘。そこに現れる愉快な寅さん。ニセ坊主ではあるけれど檀家さんの評判は上々。この人が自分と一緒になってお寺で暮らしてくれたら…そんな想いを抱きながらも大人がゆえにあと一歩のところで引いてしまう竹下景子さん扮するマドンナ、朋子。寺の跡継ぎ娘で出戻りだった私にとってあまりにも重なりすぎだったこの設定。2代目おいちゃんでもあった松村達雄さん演ずる朋子の父もどことなく我が父に似て。それゆえ悲恋の結末が無性に悲しくて悔しくて…。そのやるせなさが、私に「女はつらいよ」という曲を作らせ、現夫を口説き落とさせた、大変恩のある一作。

「第32作 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第31作「男はつらいよ 旅と女と寅次郎」（1983年）

「あしたは何をするか、あすになんなきゃ決まらないなんて…いいだろうな」という台詞が印象に残る、都はるみさん扮する大スターの失踪劇。好きな歌を歌って人気を得ながらも、多忙を極め、つい脱走してしまったはるみさん。覚悟を決めてスタッフの元に戻る際の「行きたくない」という短い台詞にこもる震えがなかなかにリアルで、この翌年“普通のおばさん”になるべく引退を宣言したこととシンクロしすぎているけれど、劇中で歌われる鼻歌や、とらやで急遽歌謡ショーを開いちゃう心意気など、歌が上手いってこういうことだよな～と、どこかでお手本に思ってる歌手像がここにあります。

「第31作 男はつらいよ 旅と女と寅次郎HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

第15作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」（1975年）

浅丘ルリ子さん扮するリリーさんが出る作品はどれもすばらしいですが、この作品には、とらやの悶着シーンとして名高い「メロン騒動」が。貴重なメロンの切り分けをめぐってもめる、とらやの家族。おばちゃんが「もう、メロンなんかもらうんじゃなかったよ」と泣き出すところが特にツボ。いつだってとらやのもめ事は、良心と気づかいがバランスを崩して引き起こる。だからこそ、虚しくて、しょうもなくて、泣きたくなる。シーンの終わり際の、満男に分けるメロンを誰のからあげるかというまとめも秀逸。役者さんみんななんて上手いんだ…。「困ったらとらやを訪ねるんだぞ」と吹聴して回る寅さんのおかげで、そもそもそれほどオープンな人柄でもないのに、オープンな場としての機能を請け負わざるを得ないとらやの人々の応対は私の人生訓となっています。

「第15作 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 HDリマスター版」

DVD販売中（税込1980円）/ デジタル配信中
発売・販売元：松竹

二階堂和美（ニカイドウカズミ）

ジャンルにとらわれない音楽性と、類いまれな歌唱・表現力で国内外から幅広く支持されているシンガーソングライター。1999年のデビュー以来多くのミュージシャンと共演し、その変幻自在ぶりを発揮。現在までに約20作を発表。代表作は2011年発表のアルバム「にじみ」。スタジオジブリ映画「かぐや姫の物語」（2013年）で、主題歌「いのちの記憶」を作詞・作曲・歌唱。2021年、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」5月の“こんげつの歌”「ぎゅーっ はかせ」の作詞を担当。著書に「負うて抱えて」（2019年）ほか。CM歌唱も多数。広島県在住。浄土真宗本願寺派僧侶でもある。

二階堂和美の記事まとめ