新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除されてから、1カ月以上が過ぎた。シネマコンプレックスやミニシアターが続々と営業を再開。しかし復活を待ち望んでいたファンがいる一方、なかなか客足が戻らないのが現状だ。
映画ナタリーでは、さまざまな劇場で今行われている感染予防の取り組みをレポートする。今回は4月13日から休館し、5月23日に営業を再開した愛知・シネマスコーレの感染予防対策を取材。さらに自身の密着ドキュメンタリー「
取材・
1983年に
入り口に立ってまず目に入ってきたのは消毒液だ。現在シネマスコーレではアルコールにアレルギー症状を持つ人以外は入館前に消毒するルールとなっている。物販の見本を見る際も消毒は必須。また観客もスタッフもマスク着用を徹底し、以前は手渡しで回収していた整理券も現在はボックスで回収することになっている。
シアターの中ものぞいてみた。席数は51席から半分の26席に減らし、左右前後は必ず空席となっている。来場者を不安にさせないためソーシャルディスタンスの確保を徹底しているという。また以前は許可していた場内での食事は、全面禁止に。さらに上映開始後20分までは入場可能だったが、現在は映画が始まるとシアター内への入場はできないルールとなった。坪井は「世間が“絶対大丈夫”となるまでは、お客様に安心していただくためにも、このルールがゆるくなることはない」と断言する。映画が終わると必ず15分換気をし、シートと手すりの除菌を行う。取材時にも坪井やスタッフが1席1席丁寧に消毒する姿を見ることができた。
シネマスコーレ名物副支配人・坪井篤史インタビュー
暗い雰囲気はお客様に伝染してしまう
──まず、営業再開後の様子を聞かせてください。
お客様の顔を見る回数は増えてきているんですが、再開後は0人の回が出る日もあります。0人から10人の間を行ったり来たりしている状態です。2桁にならない。お客様がいない劇場を観ていると正直、つらいものはあります。
──なかなか客足が戻らない理由をどのように分析されていますか?
1つ考えられるのはシニア層といわれるお客様がいらっしゃらないことです。高年齢の場合、若年層よりコロナが重症化する可能性が高いと報じられてきた。ですから、休館前からお客様は減っていましたね。映画館の客層は午前中はシニア層、中盤の時間は映画ファン、夜は仕事終わりの一般客が来るという3層に分かれているんです。そのうちの1層がないので、朝かけるプログラムは、ずっと客足が1桁です。
──常連のお客さんはどうですか?
映画ファンは観たいものは観に来てくれるので8割ぐらい戻ってきています。シニア層の次に問題なのは年5本ぐらい映画を鑑賞するお客様の足が遠のいていること。劇場に初めて来てくださった方が、面白いものを求めて、だんだん常連化していく。でもその層もいない。みんな生きていくことに必死なので映画を観る元気がないんです。じゃあどうやったら映画館に意識を向けてもらえるのか? そのために面白いことを発信していこうというのが今のスコーレの雰囲気です。暗い雰囲気はお客様に伝染してしまうので。
──ソーシャルディタンスを確保するために席数は半分にしていますね。
満員でも半分ですから、経営は厳しいですね。2回やらないと1回分にはならない。赤字は間違いないので、赤をどれだけ軽減できるか。コロナ禍以前は1カ月2000人から2500人の動員がありました。6月は1000人ちょっと。1カ月1割ずつ伸びていけばいいなと思っています。毎週新作が入ってくる7月が勝負。しっかり感染対策をしつつ、席も埋まっていることがわかればお客様も安心してくださるのではないかと思っています。
サインをもらっておいて「つまらなかった」ときっぱり言う(笑)
──コロナ禍になって、映画人が全国のミニシアターを救おうと立ち上がったことがとても印象的でした。坪井さんは地方のミニシアターの存在意義についてどのように考えていますか?
映像作家がミニシアターを守りたい理由の1つに、作品を観てもらう場所がなくなるというのがあります。でもそれはどこの劇場も一緒。じゃあ地方のミニシアターは、それ以上にどんな存在意義があるのだろうと考えると、それは作り手とお客様との距離の近さだと思います。東京の観客はクールで、必ずしも作家との距離は近くなくていいという傾向が強い。でも地方の映画ファンは、普段監督に直接感想を伝えられると思っていないので、いざ会ったら血気盛んになる。是も非もはっきり言うんです。サインをもらっておいて「つまらなかった」ときっぱり言う(笑)。我々としてはドキドキする場面なんですが、監督からすると必ずしも悪く映らない。だから観客と監督が一緒に飲みに行くこともあります。
──なるほど。都内のミニシアターではなかなか見られない光景ですね。
そういう生の交流が面白いと思って、スコーレでは映画人と観客の距離を縮めようと心掛けてやってきたんです。地方のミニシアターがなくなるということは、作家にとって、映画がつないだ人と人との絆が切られてしまうような気がするんだと思います。
──坪井さんは人と人とのつながりをとても大切にしていますよね。
実はもともとインディーズ映画が苦手だったんです。内輪だけの仲良しこよしのイメージがあった。でもスコーレで働くようになってインディーズの映画作家たちと出会うようになると、人が面白いことに気付いたんです。映画のよし悪しよりもまず、人が面白かった。そのときに作品の先にいる人が面白くないと映画なんてできないよなと思ったんです。スコーレという場を使って、彼らとお客様をつなげたいと思うようになりました。映画館で面白いことをやりませんか?と積極的に提案するようになったのもそれからです。
──インディーズ映画が苦手だったというのは意外でした。
当時、出会ったインディーズ作家たちが僕と同年代(※坪井は1978年生まれ)だったことも大きかった。15年ぐらい経って、今はメジャーに行っている。でも彼らはスコーレに帰ってきてくれますね。
恩を仇で返すわけにはいかない
──SAVE the CINEMA、ミニシアター・エイド基金などの活動はどのように感じていましたか?
正直、劇場が休館になったら、映画館はこのままほったらかしにされると思っていました。それを映画人や役者がとてつもないスピード感で救っていく。絆を感じましたね。映画があって配給があって、その先に監督や役者がいる。そこを飛び越えて映画館を守るという声がすぐに上がった。ミニシアターエイドで3億円を集めてしまったのはまさに映画的だと思いました。
──「シネマスコーレを守りたい」と活動されている映画人もいますよね。例えば
僕たちは面白い映画人の作品を紹介したいから、監督や役者さんとの関係を大切にしてきました。まさかそうやってつながってきた人たちから劇場を救ってもらえるなんて驚きしかなかったです。素直にうれしかったですね。彼らはとてもセンスがあって面白いんです。企画していることを僕らに何も言わない。
──相談はなかったんですか?
なかったですね(笑)。井口監督の場合は、募金が始まってから連絡が来ました。普通は「こういうことをやろうと思うので振込先を教えてください」と事前に聞くところをすっ飛ばしちゃうんです。僕らは映画をかけてないのにお金をくださいなんて、卑怯に感じてしまって言えない。そういうプライドを作家や役者はわかってくれている。田中さんもTシャツの販売が開始されてから連絡が来ました。僕らが気を使わないように「できちゃったし、もう断れないですよね」という流れにしてくれる。岩井澤さんも同じです。彼らの心遣いには、ただただ感謝しかない。ただ映画が好きというだけでスコーレを運営してきたんですが、監督や役者にとっては大事な人生の一部になってくれたんだなと思いました。休館になってとても強く感じたことです。恩を仇で返すわけにはいかない。必ず何か返そうと思っています。
──休館中はどのように過ごしていたんでしょうか?
朝9時半に出勤はしていたんですが、何をやればいいのかわからないまま休館に突入しました。でも先ほども言ったように、映画人が仕事を持ってくるので毎日やることがどんどん増えていきましたね。Tシャツの配送業務だけでなく、配信やりませんか?と声を掛けていただきました。毎日家で映画ざんまいかと思ったらそんな余裕はなかったですね(笑)。お客様がいないのにやることはいっぱいあって不思議でした。うちの劇場は映画監督の若松孝二が作ったものです。作家の劇場を作家が救ってくれたんです。
──配信の舞台挨拶にはもともと抵抗があったと伺いました。
休館以前は配信は敵だと思っていました。でもリモート舞台挨拶に参加したとき、休館中のスコーレの存在を配信でアピールできることがわかったんです。
ダメだったら僕らも一緒に怒られればいい
──今企画していることを教えてください。
世紀末映画祭というのを立ち上げました。自分が世紀末だと思っている映画たちをレイトショーでかけます。世の中が世紀末みたいになっちゃってる中、わざわざ暗い映画をやる。それを笑ってもらえる空間にならないと。マイナス掛けるマイナスはプラスに。スコーレっぽいギミックかなと思っています。ゾンビ映画や「
──スコーレは独自のプログラムで多くの観客に愛されていますよね。
スコーレで上映したいと言ってもらえるもので決まることが多いですね。あるとき、ENBUゼミナールの市橋浩治さんに「スコーレにぴったりの作品があるから観てほしい」と言われたんです。僕はその時点で「やります」と返事をした。それが「カメラを止めるな!」でした。皆さんまず作品を観てほしいと言うんですが、作品のよし悪しはお客様が決めればいい。ダメだったら僕らも一緒にお客様から怒られればいいんです。スコーレでやりたいと言ってくれることはとってもうれしいこと。そのうれしさをお客様に伝えられるようプログラムを作っています。
──最後に観客へメッセージをお願いします。
劇場で映画を観たいと思えるような空間を我々は必ず提供します。だからまた来ていただけるとうれしいです。面白いことをたくさん発信していきますので、それを受け取ってほしいです。こんなに高い壁は初めてですが、乗り越える価値がある。劇場に来てくださったら、我々の勝ちです! 面白いことをやるために、映画館は狂っていくしかない(笑)。狂いっぷりを楽しんでいただいて、劇場でお会いできたらうれしいです。
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