「ルパン三世 PART1」より 原作:モンキー・パンチ ©TMS

イタリア人はなぜ「ルパン三世」に惹かれるのか?アニメ事情や文化から浮かび上がる親和性

イタリアではどれくらい有名?共通点の多い映画とは?現地を知る2人に聞いた

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1967年、モンキー・パンチが生み出した「ルパン三世」は、現在アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、韓国ほか8つの国と地域で、現地の言語に翻訳され出版されている。さらに日本で1971年からスタートしたテレビシリーズ、劇場用作品、テレビ用長編スペシャルなどを含むアニメ版は、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、ロシア、中国、韓国、台湾など20の国と地域で上映、放送、配信、ソフト販売などの展開が行われている。劇中のルパン一味よろしく、まさに世界を股にかける活躍ぶりなのだが、実は中でも絶大な支持を得ている国がイタリアである。

今回、ナタリーではTMS ENTERTAINMENT EUROPE S.A.Sの田原亜紀子氏と、イタリア文化に造詣が深いラジオDJ・翻訳家である野村雅夫氏の2人にインタビューを実施。なぜルパンはイタリアで人気なのか? その秘密を両者の発言から紐解いていく。

取材・/ 内田正樹

イタリアにおけるアニメの放送環境

「イタリアにおける『ルパン三世』の人気は驚くほど絶大です」。そう語るのは、アニメ『ルパン三世』シリーズの制作・著作元であるトムス・エンタテインメントの欧州支社にあたるTMS ENTERTAINMENT EUROPE S.A.Sの田原亜紀子氏だ。

「イタリアでの初放送は1979年のPART1(※日本初放送は1971年)でした。当時の反応はそれほどでもなかったのですが、再放送を重ねるうちにカルト的な支持を受け、次第に人気が広まっていったそうです。現在までに、PART6までのすべてのテレビシリーズが放送されています。現在も地上波全国ネット局のItalia 2で、朝、午後、夜中にテレビシリーズを再放送中です。年間を通じて定期的に再放送が繰り返され、多くの視聴者に楽しまれています。劇場用作品やテレビスペシャルも、これまでに大半が放送されています」

ここで押さえておきたいポイントが、イタリアにおけるアニメの放送環境だ。例えばイタリアの地上波局の公式Webで直近の番組編成を確認してみると、「聖闘士星矢」「キャプテン翼」「おはよう!スパンク」「ONE PIECE」など、懐かしいものから近年のものまで、日本のアニメ作品が昼夜を問わず放送されている。「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」「ドラえもん」といった作品を除けば、アニメ放送と言えば比較的深夜に本放送・再放送が多い日本の地上波キー局の状況とはかなり異なる。というか、50代以上の読者ならピンとくるかもしれないが、むしろ日本の昭和の頃に似ている、とも言えるだろう。

「イタリアで長年に渡って楽しまれている弊社の作品には、ほかにも『ベルサイユのばら』『おはよう!スパンク』『レディジョージィ!』などがあります。しかし、作品のボリュームという点では、やはりルパンのエピソード数が群を抜いていますね」(田原)

イタリアの「ルパン三世」ファン層

ここからは、ラジオDJや翻訳家として活躍中の野村雅夫氏にもご登場いただこう。イタリア人の母を持ち、トリノ生まれ・滋賀県育ちの野村氏はイタリア文化に造詣が深く、自身も長年のルパンファンを自負している。

野村雅夫氏

野村雅夫氏

「80年代にイタリアを訪れた際、テレビを観て、『えっ、こっちでもルパンをやってるの!?』と、びっくりした覚えがあります。当時、ルパンは地上波で複数の放送局を跨いで再放送されていました。僕の『ルパン三世』シリーズの入り口は、日本で幼少の頃に観たPART2の再放送でしたが、僕とほぼ同世代――つまり現在40代ぐらいのイタリア人の大半は、日本の同世代と同様にルパンの存在を認識しているはずです。僕には少し年上の従姉がイタリアにいるんですが、彼女と話すときも、ルパンは共通の話題のひとつでした」(野村)

「ルパン三世」のファン層について、両氏はこう証言する。

「年齢層はかなり幅広いですね。再放送が繰り返されていることもあり、初回放送時に観ていた60代から20代まで、といった印象です」(田原)

「現在は配信という視聴環境がありますが、今も再放送が繰り返されているわけですから、現在の日本の子どもたちよりもイタリアの子どもたちのほうが遥かにルパンを認識し、親しみを持っているはずです」(野村)

「アニメ関連のコンベンションでは峰不二子のコスプレがよく登場するぐらいですので、女性にも人気がありますが、特に若い世代の場合は男性からの支持が高いように感じられます」(田原)

ルパンのコスプレについては、周知の通り、現在も世界中で楽しまれている。

「2018年だったかな。YouTubeで、イタリア人が本気のコスプレで『ルパン三世』を再現した動画が、日本でもかなり話題になりましたよね。舞台もローマの街並みで、本気になったらやっぱり向こうの方が様になる。『負けた!』と感じた記憶がありますね(笑)」(野村)

「中でも熱心なファンは70~80年代にテレビで観ていた層のようです。初期のテレビシリーズ別で言えば、強い個性とシリアスなタッチのPART1がディープなファン層を獲得し、軽い内容の物語が多く、話数を飛ばして観ても1話完結で楽しめるPART2とPARTⅢがライトな支持層を獲得した、という印象です。最も支持されているのはPART2だと思います。Tシャツなどのライセンス商品もPART2のものが多いですね」(田原)

「ルパン三世 PART1」より。大人向けアニメを謳い、日本では1971年、イタリアでは1979年に放送された。制作には大塚康生、宮崎駿らが参加し、音楽は山下毅雄が担当。ルパンが緑のジャケットを着用している 原作:モンキー・パンチ ©TMS

「ルパン三世 PART1」より。大人向けアニメを謳い、日本では1971年、イタリアでは1979年に放送された。制作には大塚康生、宮崎駿らが参加し、音楽は山下毅雄が担当。ルパンが緑のジャケットを着用している 原作:モンキー・パンチ ©TMS

「ルパン三世 PART2」より。子供から大人まで楽しめるコミカルなエピソードが主流となっている。音楽はこのシリーズより大野雄二が担当。ルパンが赤いジャケットを着用している 原作:モンキー・パンチ ©TMS

「ルパン三世 PART2」より。子供から大人まで楽しめるコミカルなエピソードが主流となっている。音楽はこのシリーズより大野雄二が担当。ルパンが赤いジャケットを着用している 原作:モンキー・パンチ ©TMS

野村氏には80年代当時の興味深い記憶があるという。

「当然、現地のルパンは山田康雄さんではない声のイタリア語でしゃべっていて、80年代はなぜか峰不二子だけが、劇中で“マルゴー”という名前になっていました。そこは、ちょっと違和感を覚えましたね。理由はわかりませんが、“Fujiko”が発音しづらかったのかな(笑)」

こうしたローカル独自の改変はほかにもあったようだ。

「PARTⅢは、一時、当時の局の放送基準に則って、部分的に編集されたバージョンが放送され、多くのコアなファンはフラストレーションを感じたそうです。しかし、のちにちゃんと日本と同じオリジナルバージョンが放送され、彼らの溜飲が下がったと聞いています」(田原)

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「ルパン三世」がもたらしたジャポニズムへの憧憬

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