応援上映の現在地 第1回
「KING OF PRISM」の応援上映はなぜ愛される?「プリティーシリーズ」応援上映10年史
“おうえん上映”から“応援上映”へ。当時を知る関係者に聞く誕生秘話
2025年12月26日 12:00 7
映画の上映中に声援を送ったり、サイリウムを振ったりして楽しめる上映形式のこと──そんな説明ももはや不要に思えるほど、定着しつつある“応援上映”。映画鑑賞をより臨場感あふれる体験に変え、また繰り返し鑑賞することへのモチベーションにも寄与する一方で、まだまだ発展途上の上映形式でもあると言える。本連載ではそんな応援上映や、参加型上映の歴史と現在を追っていく。
さて、“応援上映”という言葉を世間に広めた立役者が、2016年公開の「
取材・
話を聞いたのはこの人
- エイベックス・アニメーションレーベルズ 岩瀬智彦氏:プロデューサーとして、2011年のTVアニメ「プリティーリズム・オーロラドリーム」から、2016年公開の「映画プリパラ み~んなのあこがれ♪レッツゴー☆プリパリ」まで「プリティーシリーズ」に携わる。
- エイベックス・アニメーションレーベルズ 磯輪のぞみ氏:劇場版「KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-」より、アニメ「KING OF PRISM」シリーズのプロデューサーを務める。
- タカラトミーアーツ 大庭晋一郎氏:「プリティーリズム」から「ワッチャプリマジ!」までの「プリティーシリーズ」プロデューサーを務める。
突貫制作した映画で生まれた“熱唱上映”
「KING OF PRISM」シリーズの応援上映の歴史を紐解くにあたり、まず簡単に作品の説明をさせてもらいたい。シリーズの第1作「KING OF PRISM by PrettyRhythm」は、TVアニメ「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフとして誕生した。「プリティーリズム・レインボーライブ」は「プリティーシリーズ」と呼ばれる、アミューズメントゲームとTVアニメが連動するコンテンツ。「プリティーシリーズ」には「プリティーリズム」のほか、「プリパラ」「キラッとプリ☆チャン」「ワッチャプリマジ!」、そして現在放送中の「ひみつのアイプリ」などが含まれ、その歴史は15年以上にわたる。
そんな「プリティーシリーズ」の応援上映の歴史は、2014年まで遡る。2011年には「映画けいおん!」が“ライブスタイル上映”を実施するなど、アニメ映画においても発声や歌唱が可能な上映スタイルは行われていた。「プリティーシリーズ」で同様のものが初めて行われたのが、2014年3月8日公開の「劇場版 プリティーリズム オールスターセレクション プリズムショー・ベストテン」。公開翌週となる3月16日に横浜ブルク13で行われたそれは“熱唱上映”と称されていた。
「劇場版プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン」試聴映像
この“熱唱上映”は、メインキャストによるトークイベントに付随したものではあったものの、発声やサイリウムの使用、コスプレもOKという現在の応援上映のスタイルとほぼ変わらないレギュレーションだった。つまり“熱唱上映”は、「プリティーシリーズ」における応援上映の原点なのだ。まずは「本当に見切り発車だった」という「劇場版 プリティーリズム オールスターセレクション プリズムショー・ベストテン」が生まれるまでを振り返ってもらった。
「『劇場版 プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン』は、『プリティーシリーズ』においてダンスパートのCGや音楽は大きな財産だったので、それをギュッとまとめれば映画にできるんじゃないかと思い付き、2013年の12月頃にやろうと決めて突発的に制作を決めたんです。クリスマスライブで発表し、翌年の3月に公開するという(笑)。その公開に向けて作品外でも何か仕掛けられないかと考えているときに、ある作品で“熱唱上映”のようなものに参加して楽しかったので、似たようなことをしたらどうかというアイデアがあがったんです。
声を出したり歌ったりする参加型の上映をする映画って、古くは『ロッキー・ホラー・ショー』などもあったし、ディズニー作品でも観客が一緒に歌える上映があったりするんですよね。私の原体験としては『ロックよ、静かに流れよ』というアイドルクループの男闘呼組の主演映画があって、そこでも女性ファンがスクリーンに向かって応援をして、手を振って観ていたし(笑)。この『ベストテン』なら同じようなことをできるだろうと感じました」(岩瀬)
「当時Prizmmy☆(※)のライブの現場には、“ライブ”というものへの参加が初めてという子供たちがけっこういたんです。最初は親から『静かに行儀よく聴きなさい』と教えられていたようでしたが、次第に慣れて声援も出してくれるようになっていました。その経験から、映画館でも声を出してくれるだろうという期待もあって。また、すでに『プリキュア』シリーズでは映画館で“ミラクルライト”を配布して、子供たちを参加させていたんですよね。なら、こっちはお客さんにサイリウムを振ってもらおうと考えました」(大庭)
※Prizmmy☆…「プリティーリズム・オーロラドリーム」の実写パートの出演者を中心に結成されたダンス&ボーカルユニット。第4クールではエンディングテーマを歌唱し、その後のシリーズでも主題歌の歌唱や実写パートへの出演などで関わった。
「そうやって作品側としてやりたい意向を固めたうえで、配給の松竹さんにも同様の上映をした経験があったということで、熱唱上映が実現することになりました。実際に大きなトラブルもおこらず、劇場のほうからも嫌がられることはなかったと思います」(岩瀬)
ディズニーランドのアトラクションから着想を得たルート分岐
“熱唱上映”はその後も何度か行われ、キャストトークを伴わないものや、本編の上映前に特別なメッセージが聴けるものもあった。しかしいずれもイベントという形態であり、現在のように映画館で定期的に行われるようになったのは翌年のこと。2015年3月7日に公開された、菱田正和監督による「劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」である。
同作では公開当初から全国5劇場で、金曜と日曜だけではあるものの「アイドルおうえん上映会」として定常的な上映が行われた。単に“おうえん(応援)上映”という言葉が使われただけでなく、最新作「
「劇場版プリパラ」アイドルおうえん上映会
「プリティーシリーズ」の映画における最大のターニングポイントとなった同作は、岩瀬氏がディズニーランドのアトラクション、スター・ツアーズ(スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー)にヒントを得たという。
「スター・ツアーズは宇宙輸送船に乗るという設定で、映像がブロックに分かれていて、乗る度にランダムで変化するというものでした。全部コンプリートするためには繰り返し乗る必要がある。私も何度も乗ったことがあったんですが、その発想をもとに『プリティーシリーズ』の世界に電車で行くという枠組みができていきました。
この時期、週替わりの入場者プレゼントで複数回の鑑賞を促す施策が盛り上がっていて。毎週異なる特典を用意するのはいいとして、毎回同じ内容で、お客さんは何度も足を運んで満足してくれるのだろうかという思いもありました。それで少しでも内容を変えようと考えて、60分の映画の最後10分くらいだけでも、本編が変わったほうが、アトラクションのようにファンは面白がって観てくれるんじゃないかと考えて、4つの異なるルートを制作しました。でも劇場側にとってはシステム的に初のことで大変だったみたいで、最初は上映ごとに異なるルートを上映してほしいとお願いしたんですが、『絶対に事故ります』と断られてしまいました(笑)」(岩瀬)
「最終的には最初の3週間は週替りで1~3ルートを上映してもらい、あとは劇場側で好きなルートを上映してもらうことになりましたね」(大庭)
改めて説明すると、「劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」は「プリパラ」が2nd seasonに差し掛かるタイミングで公開された映画。キャラクターたちがプリパラの世界を巡る列車の旅・プリズムツアーズに参加するという設定で、1年目のさまざまなライブシーンを振り返ることのできる内容だった。本編に加え「プリティーリズム」のライブを紹介するコーナーが“ルート分岐”するのだが、そのルート4が「KING OF PRISM」の原型である“ボーイズルート”。毎週金曜の最終上映回のみに上映され、これは主に女性ファンに応援してもらおうという意図を持って設定したものだったという。
「劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」特報
なお「アイドルおうえん上映会」は曜日が限定されていたが、「KING OF PRISM」シリーズでは常時応援上映が行われている。「初期は、通常上映と応援上映の割合をどうするか、劇場側は悩んでいたかもしれませんね」と大庭氏。実際、通常上映と応援上映の割合はどのように決めているのだろうか。
「現在では通常上映、応援上映のどちらでやるかは劇場さんが決めています。タイミングに応じて『配給側としては応援上映7:通常上映3が推奨です』といった目安のお伝えはしています。ただ最終的にはそれぞれの劇場さんがそれぞれの状況に合わせて決めてくださっています」(磯輪)
ちなみに、「劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」を観られる環境がある読者は、同作の7分40秒頃を見返してほしい。めが兄ぃが「サイリウムは?」と観客に呼びかけるシーンがあるのだ(ここは『パープル』とレスポンスするのが正解)。のちに“プリズムアフレコ”と名付けられる、キャラクターの呼びかけに観客が答える演出の萌芽ではないだろうかと水を向けてみると、「あれは応援上映を前提として入れたシーンでしたね」(大庭)と回答が返ってきた。
「菱田さんは、ああいう仕掛けをしたらお客さんがどんな反応をするか探っていたのかな?と思います」(岩瀬)
「ここで勘所をつかんで、それが『KING OF PRISM』シリーズに活かされたのかもしれませんね。ただ、そもそも『プリティーシリーズ』は作中で、ライブの後にガヤが入ったり、“いいね♡”コールが入ったりするんです。その作法を、現実でも応援上映として取り入れることができたら、没入感が生まれるんじゃないかという話は『劇場版プリパラ』の頃からしていました。『プリパラ』はオーディエンスもアイドルであり、この世界観の1つである、という考えでアニメもライブもやっていた。だから映画館でもスクリーンの中と観客の間に垣根がない、そういうふうに自然になったんじゃないかと思います」(大庭)
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