劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」が2月27日に封切られる。同作は異世界で1匹のスライムに転生した主人公リムル=テンペストが知恵と度胸で仲間を増やしていくTVアニメ「転生したらスライムだった件」の劇場版第2弾。劇場版第1弾「紅蓮の絆編」に引き続き、原作・伏瀬がストーリー原案を担当、シリーズ初の海を舞台にした物語を描く。
ナタリーでは同作の公開を記念して映画、音楽、コミックの3ジャンルで特集を展開。コミックナタリーでは、アニメーション制作を手がけるスタジオ・エイトビットに、映画プレゼンター・赤ペン瀧川が潜入した様子をレポートする。迫力の映像が生み出される制作現場では、日々どのような工夫や努力が積み重ねられているのか。数々の映画を鑑賞してきた一方、「転スラ」シリーズには初めて触れたという赤ペン瀧川が、独自の視点で紐解く。
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取材 / 赤ペン瀧川取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 小川遼
「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」予告編公開中
赤ペン瀧川は焦っていた。劇場アニメ「劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編」の制作スタジオに潜入取材する、という企画のオファーを受けたはいいが、彼はこれまでの「転スラ」シリーズにまったく触れてきていない。関係者から「この劇場版単体で十分楽しめる」と聞かされてはいるものの、送られてきた映画のキービジュアルに描かれた大量のキャラクターを目にした瞬間、数多の映画作品に触れてきた経験から本能的に危機感を募らせたのだ。
単に鑑賞して楽しむだけなら、おそらく過去シリーズの知識は必要ないのだろう。しかし映画プレゼンターとして作品の魅力を伝える立場上、せめてキービジュアルに描かれているキャラクターたちの識別くらいは事前にできていなければ、内容を十全に理解し尽くせないのではないだろうか──そう告げる自らの直感に従い、彼は取材日までに残された3日間というわずかな時間を、可能な限り過去シリーズの予習にあてることを決意した。
そうしてTVアニメ第1期と第2期、さらに劇場版第1弾「紅蓮の絆編」を怒涛の勢いで踏破した瀧川だったが、無情にもそこでタイムアップ。現時点でアニメ最新作にあたる第3期に未着手のまま、やや後ろ髪を引かれる思いで「蒼海の涙編」試写に臨んだのだった。
監督の発想に火をつけるイメージボード
無事に試写を鑑賞し終えた瀧川が次に向かった先は、本作を含む「転スラ」アニメシリーズすべての制作を手がけてきたアニメーション制作会社・エイトビットの社屋。制作に携わった現場スタッフや、それを統括したプロデューサー陣に話を聞ける手はずとなっている。手にした巨大赤鉛筆にグッと力が入る。
そんな瀧川を、本作でアニメーションプロデューサーを務めた江口浩平氏がにこやかに出迎えた。挨拶を済ませ、さっそく作業フロアへと案内された瀧川は、多数のスタッフがモニタに向かって黙々と業務に没頭するデスクとデスクの合間を縫うように、おそるおそる江口氏の後を追う。その先で待ち構えていたのは、「蒼海の涙編」でイメージボードや衣装デザインなどを手がけたpomodorosa氏だった。何やら作業中の様子だったが、江口氏に促されて取材陣の来訪に気がつくと柔和な笑顔を瀧川に向け、穏やかな語り口で快く取材に応じた。
アニメーション制作の工程に明るくない瀧川は、「イメージボードとは?」という基礎的な疑問から丁寧に掘り下げていく。イメージボードとは、作品の世界観をビジュアル面から固めていく際に用いるイメージイラストのことを指し、全制作工程の中では絵コンテの前段階にあたるという。大まかなストーリーラインが記されたプロットや、今作でいえばロマン・トマ氏の手がけたコンセプトアートといった資料を参考に、「こんな景色の中で、人々はこんな暮らしをしているのではないか」というイメージを場面ごとに具体的な絵として描き出し、監督の発想に火がつくのを助ける着火剤のような役割を担う。通常はその絵が完成作品にそのまま使われることはないが、今作の場合は例外的にイメージボードの一部がエンドロールの中でも使用されているのだという。
説明されても今ひとつイメージが湧かない瀧川は、「実際どういうものなのか、見せてもらうことは可能ですか?」と遠慮がちに尋ねる。するとpomo氏は気前よくタブレット端末でいくつかの画像を示してみせた。劇中でリムルたちが訪れるリゾート島やカイエン国の街並みなどが描かれた美麗なイラストを目の当たりにして、「あー、そういうことね!」と声を弾ませる瀧川。ようやく合点がいった様子だ。
pomo氏はついでとばかりに衣装デザインのデータなども惜しみなく開示してみせ、ハクロウとゴブタのリゾート服デザインがお気に入りだと口元をゆるませる。とくにハクロウの服装は、マイケル・ジャクソンと中尾彬、「座頭市」などのイメージを盛り込んでリゾートテイストにまとめあげたという渾身の一着。スクリーンで鑑賞する際にはぜひ注目したいポイントだ。
モブに命を、街に生活を与える原画マン
続いて瀧川の取材に応じたのは、原画担当の持田真治氏。瀧川はここでも、アニメーション制作における“原画”という工程がどういうものなのかという基礎的な概念から理解しようと努める。原画とはキャラクターなどの動きのポイントとなる絵で、アニメーションの基盤とも言える工程のこと。その原画をもとに動画(原画と原画の間の動きの画)が作られ、彩色や撮影、アフレコなどの後工程へと進んでいくのが一般的な流れだ。
リムルたちがリゾート島に到着する序盤のシーンで使用された、島の様子を遠景で捉えた3カットほどの原画を描くのに「自分の担当分だけで2週間かかった」という持田氏の証言に、思わず目を丸くする瀧川。「てっきり激しいアクションシーンを描くのが大変なのかと思ってたけど、むしろゆったりした引きの画のほうが大変なんですね」と感心しきりだ。持田氏はその言葉を受け、「TVシリーズではまずやらないことですが、今回の映画では引きの画に映り込む大量のモブキャラクターたちを1人ひとり動かしているので、画角を引けば引くほど情報量が増えて大変なことになります(笑)」と誇らしげな苦笑を浮かべた。
また、そうしたモブキャラクターの動きに関しては絵コンテに指示がないことがほとんどで、原画担当者の“アドリブ演技”であることが多いという。しかし持田氏の施すモブ芝居は、監督に「やりすぎ」と見なされ削られがちなのだとか。俳優としても活躍する瀧川は、「実写作品のアドリブと違って、そのアドリブだけでもけっこうな時間と労力がかかっているわけですよね? それがボツになるのかあ……」と遠い目をして原画マンの苦労に思いを馳せた。
「そんな苦労があるとも知らず、しれっと観てました」と反省の色を浮かべる瀧川に対し、持田氏はすかさず「それが正しいです」とキッパリ。作り手の苦労を感じさせることなく、自然に物語へ没入させることが理想なのだと胸を張った。
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新たな魅力を届け続ける2人のプロデューサーインタビュー

