「女殺油地獄」は近松門左衛門が実際に起きた事件をもとに描いたと言われる世話物。今回はWキャストでの上演となり、Aプロでは河内与兵衛役を幸四郎、豊嶋屋お吉役を坂東新悟、Bプロでは河内与兵衛役を隼人、豊嶋屋お吉役を中村米吉が勤める。
作品について幸四郎は「前回、大阪松竹座で(十代目松本幸四郎)襲名披露興行(2018年)で演じて以来となりますが、たびたびやらせていただいている、とても大好きで思い入れのある作品です。回を重ねて新たな発見をして、また作品に挑めればと思っています」とあいさつ。隼人は「『女殺油地獄』は昨年3月に南座の『三月花形歌舞伎』で初役として(片岡)仁左衛門のおじさんに教えていただいて勤めて以来で、こんなに早く再び演じさせていただけるとは思ってもみませんでした。この役は、仁左衛門のおじさんはもちろんのこと、幸四郎お兄さんがル テアトル銀座でやられた舞台(2011年)を観て憧れて、いつかやりたいと思った役なので、そのお役を幸四郎お兄さんとWでさせていただけることができ、本当に光栄です。うれしい反面、本当に恐縮、不安、いろいろな気持ちがありますけれども、最近は幸四郎さんと同じ役を演じさせていただくことが多くて……長谷川平蔵だったり(笑)。なので、お兄さんとはまた違った与兵衛ができるように、盗めるものは一つでも多く盗んで1月を迎えたいと思います」と語った。
作品の魅力について問われると、幸四郎は「読み手によっていろいろな解釈ができるお芝居だと思うのですが、与兵衛という人物は本能のまま生きられる男だと私は解釈していて。普通は踏み込んでは行かない世界に一歩踏み込む男。何をやるにも本気で、嘘をつくときも遊ぶときも本気、それが与兵衛だと思っていますので、精一杯勤めたいなと。松嶋屋のおじ様には『何か自分なりのものが作れれば』ということをおっしゃっていただいたことがあり、そこに行き着けるかわかりませんががんばりたいです」と語る。
隼人は「仁左衛門のおじ様はよく『与兵衛とお吉は決して恋仲ではない。昔は近所に世話焼きのお姉さんがいっぱいいて、与兵衛とお吉もそのような関係。恋人に見えないようにやってほしい』とおっしゃっていました」と述べつつ、役について「私は与兵衛を、複雑な家庭環境に育った甘ったれの、でもプライドが高い男だと思っています。親に甘えたいけれど甘えられない不器用さがあり、それゆえにあんな非情な事件を起こしてしまう。与兵衛のそういった部分を、お客様の心に届けられるように演じたいです」と話した。
Wキャストである幸四郎の印象について問われると、隼人は「後輩の私が言うのもなんですが、すごくチャーミングなんですよね(笑)。ずっと少年の心を持っている役者さんで、その心に関しては年々若返っているんじゃないかなと思うところがあります。また自分で“できない役”という制限を設けていらっしゃらないのがすごいなと。生まれた家や自分が置かれている場所を考えると、『この役はやらないかな』と自分で狭めてしまいがちですが、幸四郎さんはそれをしない方。後輩としては勉強になるし、これからも見習いたいです」と幸四郎に目線を送った。
それに対して幸四郎は「役を演じるのは変身。だから女にも動物にもなれるし、男だっていろいろな性格の男がいるわけです。でもそれはすべて自分ではないので……そういう意味ではどんなものにも魅力を感じます」と静かな笑顔で答えた。
11月末ということもあり、記者が今年1年についての思いを問うと、幸四郎は「1月が『陰陽師』と『大富豪同心』という新作歌舞伎で始まって、本当に新作歌舞伎をたくさん経験した年でした。古典も、通し狂言があったりと……すごい出会いと刺激があった年でしたね」と振り返る。隼人は「こういうパワフルな人がいると、後輩としてはハードルが上がってしまって困るんですよね!」と話して場を和ませつつ、「今年は1月から自分のある種、代表的なものになった時代劇(『大富豪同心』)を幸四郎さんの演出でやらせていただいたり、新作があったり、10月には『義経千本桜』でいつかやってみたいと思っていた渡海屋銀平実は新中納言知盛役を演じさせていただいたり、トルコ、サウジアラビア、ニューヨークと3カ国で公演させていただいたりと本当に世界が広がり、日本文化のすごさや奥深さを知る機会になりました」と話した。
来年の展望を問われると、幸四郎は「自分がやったことがある役を教える、ということがありましたので、これからはとにかくしっかりと教えられるようにたくさん勉強をしていきたい」と言い、隼人は「『今が当たり前ではない』という思いを、常に心に持っています。慢心せずにひたむきに努力し、お客様のことを考えて、少しでも先輩たちがやってきたこと、やっていることを吸収できるように……これは若手一同が思っていることだとは思いますが、危機感を忘れずにやっていきたいです」と言葉に力を込めた。
公演は来年1月2日から25日まで東京・歌舞伎座にて行われる。チケットの一般前売は12月14日10:00にスタート。
「壽 初春大歌舞伎」夜の部
開催日程・会場
2026年1月2日(金)〜25日(日)
東京都 歌舞伎座
スタッフ
三、女殺油地獄
作:近松門左衛門
出演
一、女暫
巴御前:中村七之助
舞台番:
轟坊震斎:坂東巳之助
女鯰若菜:坂東新悟
成田五郎:坂東亀蔵
清水冠者義高:中村錦之助
蒲冠者範頼:中村芝翫
二、鬼次拍子舞
山樵実は長田太郎:尾上松緑
白拍子実は松の前:中村萬壽
三、女殺油地獄
河内屋与兵衛(Aプロ):松本幸四郎
河内屋与兵衛(Bプロ):
豊嶋屋お吉(Aプロ):坂東新悟
豊嶋屋お吉(Bプロ):中村米吉
兄 太兵衛:市川高麗蔵
豊嶋屋七左衛門:中村錦之助
父 徳兵衛:中村歌六
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【会見レポート】1月歌舞伎座「女殺油地獄」に向け、幸四郎と隼人が与兵衛役にそれぞれの思いを語る https://t.co/5cebMf8OJ9