「彼女を笑う人がいても」瀬戸康史、真実求める新聞記者を熱演「心の炎を燃やし続けます」

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瀬戸康史が主演を務める「彼女を笑う人がいても」が、去る12月4日に東京・世田谷パブリックシアターで開幕した。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」は、1960年の安保闘争を題材に、作劇を瀬戸山美咲、演出を栗山民也が手がける新作。出演者には瀬戸のほか、木下晴香渡邊圭祐近藤公園阿岐之将一魏涼子吉見一豊大鷹明良が名を連ねた。

劇中では、新聞記者の高木伊知哉と、伊知哉の祖父で、かつて新聞記者だった吾郎の物語が交差する。舞台は2021年。入社当初から東日本大震災の被災者を取材する連載を担当していた伊知哉は、上司から連載の終了を通告され、さらに社会部からコンテンツ部への異動を命じられる。無力感に苛まれた彼は、祖父・吾郎が新聞記者だった頃の取材ノートを開く。それは吾郎が30歳で記者を辞める前、最後に使用していた一冊だった。そこには安保反対デモに参加する学生たちを取材し続ける、1960年の吾郎の姿があって……。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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開幕と共に、ステージ上に設置されたスクリーンには、黒い傘を持ち、国会議事堂前に集まる人々の姿が映し出される。雨音が劇場に響く中、同じく黒い傘を持ったキャストが次々と舞台上に現れ、立ち止まり、スクリーンを見上げる。やがて、1960年に新聞社7社から実際に出された、暴力による安保反対デモに異を唱える内容の共同宣言が瀬戸によって読み上げられると、スクリーンにも同じく傘を差した瀬戸の後ろ姿が浮かび上がった。スクリーン上の瀬戸が振り返ると、舞台上の瀬戸も顔を客席側に向け、“2人”は憂いを帯びた表情で客席をじっと見つめるのだった。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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登場人物たちにより繰り返し語られる“彼女”は、安保反対デモの中心的人物であるが、舞台上には登場しない。しかしその“彼女”が、デモの渦中で命を落としたことで、吾郎の運命は急変することになる。伊知哉と吾郎の2役を務める瀬戸は、言葉遣いや細かな表情の違いで2役を演じ分ける。瀬戸は、異動と連載の打ち切りにより新聞記者としてのモチベーションをどう保てばいいのかわからない伊知哉を、真面目さと繊細さを併せ持った人物として立ち上げる。一方の吾郎役を演じる際は、学生たちへの取材シーンでは穏やかな人間性を垣間見せつつ落ち着きのある演技で、“彼女”の死後、その真実を追い求めようともがくシーンでは、焦燥感を身体いっぱいににじませて、吾郎の正義感の強さや誠実さを強調した。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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木下は、2021年のシーンでは被災地に父と住む女性・岩井梨沙、1960年のシーンでは、“彼女”の誘いをきっかけにデモに参加した女生徒・山中誠子を演じる。木下は梨沙を厳しい状況でも気丈に振る舞う大人の女性として立ち上げる一方で、誠子を若さゆえの脆さをたたえながら、“彼女”に対して憧れと畏怖の念を抱く存在として演じた。同じく2役を演じる渡邊は、伊知哉の後輩・矢船聡太役を愛嬌たっぷりに演じるが、誠子と共に奉仕活動に励む青年・松木孝二役では、感情をあまり表に出さず、聡明な印象を際立たせた。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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クライマックスシーンは瀬戸と大鷹による緊迫した掛け合いが見どころ。大鷹演じる新聞社の主筆・辰巳大介に、吾郎は共同宣言の掲載を撤回するよう求める。しかし辰巳はそんな吾郎の怒りをニヒルな笑みを浮かべながらあしらって……。瀬戸は、辰巳に気圧されつつも、報道の責任やジャーナリズムの役割を辰巳に問いかける吾郎の切実さを、気迫のこもった演技で表した。

「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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「彼女を笑う人がいても」より。(撮影:細野晋司)

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上演について、栗山は「1960年6月の安保闘争での国会デモによって命を失った樺美智子の『言葉』は、2021年に瀬戸山美咲が綴る『言葉』に受け継がれた。忘れ去られていくもの、切り捨てになっていくもののために……わたしはそのことを、演出家として大事に引き受けたつもりだ。一人でも多くの人に、このいろいろな人の『自分の言葉』がしっかりと繋がれていきますように」と述べ、瀬戸山は「初日を観て心に残ったのは、人間の持つ明るさでした。私たちの目の前の現実は困難かもしれない。でも、希望がないわけではない。そんなことを俳優さんの言葉と身体を通して客席のみなさんと一緒に感じられたような気がします。1960年から2021年の現在を見つめる作品です。今、みなさんと分かち合えたらとても嬉しいです」と初日を観た感慨を語る。

瀬戸は「この作品を通して『言葉』が持つ色々な側面を知り、改めて考えることができています。栗山さんの発する言葉は、静かですがとても力強い。そして、瀬戸山さんが書いた言葉は、重く心に響きます。それから1960年と2021年、ふたつの時代を過ごして、ぶつかることの重要性を感じています。それで、何が生まれるのかが大切なのだと思います。初日を無事に迎えた喜びを噛み締め、心の炎を燃やし続けます」と思いを述べた。

上演時間は約1時間45分。世田谷パブリックシアター公演は12月18日まで。そのあと、22日に福岡・福岡市民会館 大ホール、25・26日に愛知・刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール、29・30日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて上演される。

栗山、瀬戸山の全文コメント、木下、渡邊、近藤のコメントは以下の通り。

栗山民也コメント

「自分の言葉」というフレーズを、最近関わったいくつかの作品で自分なりのテーマにしていたけれど、今日、初日を開けたこの作品でも、やっぱり一人ひとりが、どう「自分の言葉」で語り始めるのか、強く耳に刻んでいた。

1960年6月の安保闘争での国会デモによって命を失った樺美智子の「言葉」は、2021年に瀬戸山美咲が綴る「言葉」に受け継がれた。忘れ去られていくもの、切り捨てになっていくもののために……わたしはそのことを、演出家として大事に引き受けたつもりだ。一人でも多くの人に、このいろいろな人の「自分の言葉」がしっかりと繋がれていきますように。

瀬戸山美咲コメント

ただ、そこに立ち、誰かに向かって言葉を発する。あるのは人と言葉だけ。高い集中度で進む栗山さんの稽古は、無駄なことをどんどん削ぎ落としていく時間でした。劇場に入りスタッフワークに支えられ、さらに研ぎ澄まされていく俳優のみなさんの芝居を目にして、畏怖の念すら抱いていました。

しかし、初日を観て心に残ったのは、人間の持つ明るさでした。私たちの目の前の現実は困難かもしれない。でも、希望がないわけではない。そんなことを俳優さんの言葉と身体を通して客席のみなさんと一緒に感じられたような気がします。1960年から2021年の現在を見つめる作品です。今、みなさんと分かち合えたらとても嬉しいです。

瀬戸康史コメント

この作品を通して「言葉」が持つ色々な側面を知り、改めて考えることができています。

栗山さんの発する言葉は、静かですがとても力強い。

そして、瀬戸山さんが書いた言葉は、重く心に響きます。

それから1960年と2021年、ふたつの時代を過ごして、ぶつかることの重要性を感じています。

それで、何が生まれるのかが大切なのだと思います。初日を無事に迎えた喜びを噛み締め、心の炎を燃やし続けます。

木下晴香コメント

お客様のまなざしや空気から、ものすごいエネルギーがギュッと濃縮されている戯曲だということを再認識しました。

温かくて熱くてストイックな皆さんと過ごす稽古の日々は本当にあっという間だったけれど、思ったよりも平常心で初日を迎えることができたのは、とても実りある時間を過ごさせてもらっているからだと思います。

瀬戸山さんの戯曲から受け取った想いや温度、栗山さんからいただいた宝物のような言葉たちを心に留め、言葉の力を信じて!最後の最後まで梨沙として誠子として、とにかく目の前の瞬間しっかり生きて言葉を発することを大切に、今を生きる1人の人間としてこの戯曲に向き合い深化していけたらと思います。

渡邊圭祐コメント

まずは無事に初日を迎えられたことに様々な方に感謝したいです。

瀬戸山さんの戯曲に栗山さんの演出がマジックのように、舞台に立つ我々の言葉が生きたものになっていくのを感じます。

ここから最終日まで更にその快感に浸りながらより濃いものにしていきたいと思います。

近藤公園コメント

この一ヶ月間の稽古を通して僕たちは、瀬戸山さんの戯曲の中にある様々なかたちの対話に耳をすまし、登場人物の胸の内にある声にならない声を想像し、栗山さんから投げ掛けられる言葉によって言葉と格闘し、時に戯れながら、一つの演劇を創作してきました。

この不安定な時代に、この作品をお客様に届けられること、本当に感謝しています。

言葉は、ちゃんと相手に届きさえすれば、げんこつにも薬にも、一本のマッチの火にもなる。そんな『言葉の力』の可能性を、改めて、一緒に考え、体感出来たならと願っています。

この記事の画像(全19件)

「彼女を笑う人がいても」

2021年12月4日(土)~18日(土)
東京都 世田谷パブリックシアター

2021年12月22日(水)
福岡県 福岡市民会館 大ホール

2021年12月25日(土)・26日(日)
愛知県 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール

2021年12月29日(水)・30日(木)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

作:瀬戸山美咲
演出:栗山民也
出演:瀬戸康史木下晴香渡邊圭祐近藤公園 / 阿岐之将一魏涼子 / 吉見一豊大鷹明良

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読者の反応

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中島 亨 @sbnakajima63

『彼女を笑う人がいても』
樺美智子って知ってる?
このお話しは1960と2021を行き来し、役者さんは時代を超えて二役演じる。
樺さんは誰に殺されたんだろう?
〈おカミにたてつく〉学生が当たり前の存在だった頃。
舞台は、彼女が死んだ6月、大量の黒い傘の映像ではじまる。
https://t.co/JcUH3d043b

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