「チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇」のワークインプログレス公演が、11月5日に東京・タワーホール船堀 小ホールで開催された。
舞台上には、舞台の下手に7つの椅子が置かれ、上手に縦長のスクリーンが5つ配置された。スクリーンには譜面台と椅子が映っていて、開演の合図で俳優たちが下手の椅子に腰掛けると、スクリーンにもミュージシャンの姿がスッと映し出された。ミュージシャンたちは2023年の上演にも出演する現代音楽アンサンブル・Klangforum Wienのメンバーで、出演者は
披露されたシーンでは、立ち退きを迫られた一家の様子が描かれる。日常に立つさざなみとそれぞれの様子を、俳優の身体と音楽が多彩に表現。わずか10分程度だが、その後の展開が気になる内容となった。映像との試演1回目を終えると、俳優たちの間に岡田が座り、舞台上のモニターにはロンドンの藤倉が映し出され、ディスカッションが行われた。岡田は「今回コアにしたいことの1つに、サークルとその外側という意識があって、家族のいる下手に対して、上手は“外側”。その間には境界線、壁があるということをどう明確にするか、ということがあります。上手が重要な空間である、ということを、演技的にどう見せるかを考えていきたいです」と話し、俳優たちはそれをうなずきながら聞いていた。
続けて藤倉がコメント。藤倉は「昨日も同じようにリハーサルをやっていますが、今日は話すスピードが全然違いましたね!」と言い「今は録画した映像ですが、本番ではお客さんを前にミュージシャンも変わるはずなので、もっと可変性があるというか、どうやってでもできるスコアを、僕がどう作るかだなと感じました」と話した。
ワークインプログレス公演の後半では、吉田誠(クラリネット)とアンサンブル・ノマド(弦楽四重奏)が舞台に登場し、生演奏とのコラボレーションにも取り組んだ。舞台上にミュージシャンたちが“実在”すると、俳優たちの演技はよりビビッドになり、冒頭で岡田が話していた“内側と外側”の関係がクリアに感じられるようになった。生演奏での試演1回目を終えると、藤倉はミュージシャンに2曲目に入るタイミングについて指示。「2人目の登場人物である青柳さんが話し始めたのと同時に2曲目を始めてしまうと、映画音楽的に“合い”過ぎてしまうので、0.5秒くらい遅れて始めてもらえますか」と話し、それを踏まえて生演奏での試演2回目が行われた。すると「今のは良かったですね!」と岡田。藤倉も画面越しに拍手を送った。
ワークインプログレス公演のあと行われた取材会には、岡田と藤倉が出席した。本作の創作経緯について岡田は「音楽劇を作ってみませんかとウィーンのフェスティバルからお話をいただき、コラボレーターとして藤倉大さんのお名前を挙げていただいて、すごく面白そうだと思いました」と説明。また「『新しい音楽劇を』と標榜して取り組み始めたものの、最初は漠然としていましたが、今日までのプロセスでそれが見つけられたと僕たちは感じているので、それは何よりだなと思います」と手応えを語った。藤倉も「コラボレーションからは学ぶことが多く、特に音楽ではない世界の人との場合はすべてが発見なので、今回も面白そうだと感じました」と話しつつ、「でも今回それ以上に感じているのは、もし今がパンデミックではなかったら、僕も日本に行って稽古に参加していたと思うんですね。ただリモートだからこそ、俳優さんたちの演技を見て、その場ですぐ作曲することができ、『これどう思います?』とすぐ皆さんに意見を聞くことができた。それは、実際に一緒に稽古場にいたら、実は難しかったことだと思います。ですので僕としてはものすごく充実したコラボレーションになっています」と実感を語った。
創作の手順としては、「僕はテキストを基盤としたシーンをやり、藤倉さんはそれを観て音楽を提示する、の繰り返し」と岡田。「ただ例えばテキストの内容と音楽の関係については藤倉さんの中には『これでは合いすぎる』といった基準があり、僕にはなかったので、その点については藤倉さんがタイミングや曲を変えて決めています」と説明する。また岡田は、7月のクリエーションより今回のほうがクリエーションに対する意識がよりクリアになったと話し、「それは7月から少し寝かせたということもあるし、この間に僕が初めてオペラの仕事をしたのは大きかったと思います。最初から『オペラではないものを』と思ってはいましたが、実際にオペラの仕事をしたことがない状態で目指すのと、1回ガッツリとプロダクションに関わった状態で目指すのでは全然違うというか、ある意味生まれ変わっちゃったので(笑)。その状態でオペラじゃない音楽劇に取り組めるということは、僕にとっては助かっています」と、先月末に開幕した全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」について言及した。
藤倉は、今回のワークインプログレス公演が勉強になったと話す。「役者さんの話すスピードが、演奏家たちの映像とコラボレートしたときと、同じ舞台上に演奏家たちが座って演奏したときで全然違うし、お客さんがいるのといないのとでも違う。10分でこれだけ違ったら、90分になったらどれだけ変わるんだろうと思いました(笑)」と驚きを語った。
会見の中では、今回披露された“上手に演奏家、下手に俳優”という配置が、実は藤倉がクリエーションの過程で試作した、ミュージシャンと俳優の稽古の様子を並べた動画がソースになっていることが明かされた。岡田は「今回描こうとしているテーマの1つには、ある種の分断された状況、自分が属している政治的な信条みたいなものの中で作られるバブルとか、セパレートされた状態ということがあって。そういったイメージを、このしつらえにオーバーラップさせることができるのは、演劇として面白いのではないかと思っています。ただ演劇と音楽の関係性が、この状態で最後まで続くとは考えていないので、どんどん関係性が展開していくことになると思います」と話した。
岡田の思いに藤倉は賛同しつつ、さらに「個人的な興味としては、今は俳優と演奏家が分かれていますが、今後演奏家たちの間に俳優が入ってくるということはあるのかなということ。交響楽団ではない、小編成のアンサンブルだからこそ、例えば間に俳優さんが入ってきても問題ないと思うので(笑)、今後岡田さんがどうなさるのか興味津々です!」と笑顔を見せた。本公演は2023年春にウィーンにて上演される。
「チェルフィッチュ×藤倉大 with Klangforum Wien 新作音楽劇」ワークインプログレス公演
2021年11月5日(金) ※イベント終了
東京都 タワーホール船堀 小ホール
作・演出:
作曲:藤倉大
出演:
演奏:Klangforum Wien、吉田誠(クラリネット)、アンサンブル・ノマド(弦楽四重奏)
※川崎麻里子の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
※Klangforum Wienは映像出演。
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