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ロイヤルコート劇場の劇作家WSに前川知大が登場、英国劇作家と共感し合う

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左からアリスター・マクドウォール、前川知大。

左からアリスター・マクドウォール、前川知大。

昨年12月中旬に東京・新国立劇場にて、「ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ」の第2段階が行われ、ゲスト講師としてイキウメの前川知大が登場。またファシリテーターとして来日したイギリスの劇作家アリスター・マクドウォールと前川が対談を行った。

「ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ」は、イギリスのロイヤルコート劇場と新国立劇場が1年にわたり行う、劇作家のためのプロジェクト。公募で集まった、日本国内を拠点に日本語で劇作を行う35歳までの劇作家が新作戯曲を執筆し、さまざまなアプローチを経験しながらそれぞれの戯曲を進化させていく。昨年5月中旬に第1段階が行われ、今年6月には第3段階が開催される予定だ。

前川は、2010年にロンドンで行われたインターナショナル・レジデンシーに日本人として初めて参加し、劇作家ワークショップを経験している。そのときの体験について、前川は「僕が参加したときは、韓国、インド、トルコ、ウクライナ、チェコ、デンマーク、スペイン、メキシコ、日本の9カ国9人の劇作家が集まりました。ワークショップのほかに、講義を聴講したり現地の同世代の劇作家との交流会もあって盛りだくさんのプログラム。ものすごくいい経験になりました」と振り返る。またワークショップでは意見交換が活発に行われたと言い、「作品についてみんなでディスカッションをし、フィードバックしていくやり方を僕は日本に帰ってきてから劇団に取り入れました。初稿を上げたら俳優たちと意見交換をするのが当たり前になったんです」と前川が話すと、マクドウォールは「それは素晴らしい!」と賞賛した。

一方のマクドウォールは「10年前の僕はまだ劇作家ではなくて、ギャラリーで働いていました」と話し、「1年後、そのときに書いた戯曲で賞を獲ったので、ギャラリーの仕事を辞められた。ロイヤルコートのワークショップに参加して、スタッフや俳優、演出家と一緒に戯曲を膨らませていきました」と劇場との関わりについて説明する。また今回の来日についてマクドウォールは「念願叶っての来日です」と笑顔を見せ、「子どものときに映画『ゴジラ』に夢中になり、10代のときにアニメ『AKIRA』と『エヴァンゲリオン』を観たら面白くて! 小説は三島由紀夫と村上春樹も好き。小川洋子の小説はとても美しいと思う。映画は小津安二郎作品と黒澤明作品はすべて観ていますよ。新藤兼人監督の映画『鬼婆』も面白いですよね!」と日本文化に対する強い関心を示した。

日本でのワークショップの特徴について、マクドウォールは「日本の劇作家たちは、ヨーロッパやほかの地域の参加者と交わしている会話の内容が全然違うんですよ。日本の劇作家は猜疑心がなくオープンマインドで好奇心がある。その姿勢がいいですね」と述べる。さらに「5月のワークショップが終わって、参加者の全員が心を込めて戯曲を書いてくれたこと、それぞれが面白いことを考えていることに関心しました。また、“ディスカッションをする”というプロセスこそが、とても特別なことだと改めて感じました」と語ると、前川は「確かに。ワークショップをみっちりすることで、今回の参加者同士の連帯感も生まれていると思うと、羨ましくもありますね」とうなずく。また自身が劇作家ワークショップに参加した際にも、「お互い国も文化も違うのに、劇作家という共通項でこれだけつながれるという経験がすごくうれしかった」と語り、「今でもつながっている劇作家もいるんですよ」と明かした。

対談の後半は、それぞれの創作に対する話題に。前川がマクドウォールに「イギリスで劇作家が集まったら、何を話題にすることが多いですか?」と尋ねると、マクドウォールは「イギリスの劇作家は『演劇で世界は変えられるか』という話題についてよく話します」と返答。逆に「日本ではどうですか?」と問いかけられた前川は「(劇作家同士が)話し合うことはあまりないかもしれませんが、問題意識は日本の劇作家も持っているし、具体的に作品にしている人もいます。観る側も『この作品は現政権を批判しているんだろうな』と感じてしまうぐらい今の政治への不満や不安が渦巻いて強くなってきている気がします」と返答した。

劇作家としては、前川もマクドウォールもSFを題材とした作品を多く手がけている。SF的な世界観に惹かれる理由として、前川が「妖怪や宇宙人は世の中に“ない”とされているもの、たとえば社会システムからこぼれ落ちてしまう人たちと重なってくる。大人になって社会を見渡すと、例えばそれは犯罪者や障害者などのマイノリティ全般と実は同じものということがわかってきて。僕は社会問題をそのまま書くよりは、そういうものに託すほうが好きです」と話すと、マクドウォールも「演劇は現実と同じような世界を再現するのではなく、あくまでメタファーだと思う。例えば大切な人を失ってしまった人物の話を書くとしたら、宇宙につなげてみたりね。前川さんの作品を読んで、同じようなプロセスをたどっていると感じました」と共感を述べた。

さらに2人は“無意識”をどう書くか、についての話題で盛り上がる。マクドウォールが「何かを書こうとしているのではなく、発見しながら書いている感覚です。でもその“発見する”という状態になるのが難しい。僕の場合は散歩したり、音楽を聴いたりしますが、前川さんはどうですか?」と問いかけると、前川は「僕は走ります。あと、座禅を組んで瞑想をします(笑)」と回答。またアイデアをまとめる際には2人とも手書きだと言い、「手を動かすことで、出てくる内容も違ってきますよね」とうなずき合った。

さらに話題は、演劇以外の小説や映画など他メディアのことへ。前川が「小説は内面が描かれ、演劇は自分が言わない限り内面はわからない。そこはどうしていますか」と尋ねると、マクドウォールは「まさに私が演劇を好きなところはそこです! 演劇は言わないとわからない曖昧さ、つまり余白を残すところに魅力がある。演劇はストーリー、アクション、雰囲気などを通して、キャラクターが何を考えているのかを観客に想像させます。不確かなものでだからこそ演劇はエキサイティングです」と答えると「その通りです!」と前川も同意した。

最後にマクドウォールが「前川さんとは国籍や育ってきた文化も異なるのに、こんなにも共感できたり共通することがたくさんあって、びっくりしたし楽しかったです」と述べると、前川も「劇作家同士、話し合う機会もなかなかない中、ざっくばらんに劇作について話し合える仲間と出会えるのが劇作家ワークショップです。まさに今、ワークショップに参加している彼らも“仲間”になって互いに劇作を高め合ってもらえるといいですね」と述べ、対談は終了した。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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