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問い続け問いかける、吉田大八作・演出「クヒオ大佐の妻」

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「クヒオ大佐の妻」より。(撮影:田中亜紀)(c)2017『クヒオ大佐の妻』/ヴィレッヂ

「クヒオ大佐の妻」より。(撮影:田中亜紀)(c)2017『クヒオ大佐の妻』/ヴィレッヂ

クヒオ大佐の妻」が東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて上演中だ。

映画監督の吉田大八が作・演出を手がけ、宮沢りえ岩井秀人川面千晶水澤紳吾の4人が出演する本作。吉田が舞台の演出を手がけるのは、2013年上演の劇団、本谷有希子(番外公演)「ぬるい毒」以来2作目で、2009年に吉田が監督した映画「クヒオ大佐」を異なる視点から捉え直した、初の書き下ろし戯曲だ。劇中では実在した結婚詐欺師・クヒオ大佐を題材に、築45年のアパートで彼を待ち続ける“妻”と彼女のもとを訪れる人々が描かれる。

客電が落ちると、闇の中にミシンの音が鳴り響き、舞台はクヒオ大佐の妻・夏子(宮沢りえ)が住むアパートの一室へ。部屋は歪に傾いている。黙々と洋裁の仕事をする彼女のもとに、宅配業者の男・今井(岩井秀人)が現れ、同級生だと強引に部屋に上がり込む。同じアパートに住む少年・シンイチ(水澤紳吾)の話から、夏子が噂の結婚詐欺師であるクヒオ大佐の妻だと知った今井。作家志望であることを理由に、同じくクヒオ大佐に騙された女・佐知江(川面千晶)を巻き込み、彼女たちに何故騙されたのかと、執拗に質問を繰り返すが……。

映画「紙の月」に続き、吉田と2度目のタッグとなる宮沢は、物静かな“待つ”女から一変、佐知江を縛り刃物を向ける冷淡な女まで、正気と狂気を行き来する。部屋の中心に設置された、夏子だけがクヒオと繋がることができる電話での一人会話劇は、観客へ想像の余白を与えた。岩井は夏子とその周りに執着する異常さを、笑うに迷う平穏さで表現。「わからないからわかりたい」と食い下がるその姿には、吉田自身が投影されている。さらに川面はシリアスな局面をコミカルな力強い演技で引っ張り、水澤はシンイチともう一役を印象深く演じた。

吉田が映画「桐島、部活やめるってよ」で用いた、不在の人を通して無意識に存在する“何か”を突き詰める手法は、本作でも健在。出演者4人の種類の違う芝居が、物語のレイヤーを分け、“嘘のために嘘を重ねていく”本作の世界を体現する。公演決定時に発表されたコメントで吉田は「おそらく皆さんは『なぜ、また?』とお思いでしょう。だから僕自身も、この作品を通じてその『なぜ、また?』の答えを探していこうと思います」とコメントしていたが、本作ではその自問自答に、1つの答えが呈示された。

果たしてクヒオとは何なのか。公演は6月11日まで。上演時間は約1時間50分。当日券は毎公演販売される。なお吉田が監督を務めた、リリー・フランキー主演の新作映画「美しい星」が、昨日5月26日から公開中だ。

「クヒオ大佐の妻」

2017年5月19日(金)~6月11日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

作・演出:吉田大八
出演:宮沢りえ岩井秀人川面千晶水澤紳吾

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