コントグループ・
ロゴデザイン:神谷圭介
妄想する事の尊さ
この度エッセイの連載をさせてもらうことになりました神谷圭介です。なりましたというか自分が「どこかでエッセイを書かせてもらえないでしょうか」と卑しい投稿をSNSにしたのが事の始まりでした。そしてそんな卑しいポストを秒で拾い食いしてくれたのがステージナタリーさんです。ステージナタリーさんに感謝です。
自分はテニスコートというコントグループでコント公演を続けてきた者でして、近年は“画餅(えもち)”という屋号を立ち上げ、舞台でコントと演劇の狭間を探りつつ映像作品にすることを目的に活動しています。
5月に新作公演があるので是非気にして下さい。
画餅とは「絵に描いた餅」ということわざを漢字2文字にしたもので、読み方は勝手に「えもち」とさせてもらっています。「お餅の絵は食べられない」ということで、辞書には「何の役にも立たないもの」など、良くない意味しか書かれていません。
でも想像してみてください。かわいくないですか? お餅の絵を描いてしまう人。なんですか? お餅の絵を描く人って。お餅に想いを募らせすぎて絵にまで描いてしまう人。そんな人が実物のお餅を眼の前にしたらどうでしょう。きっとこう思うのではないでしょうか。
「思ってたのと違う」
自分が妄想していた素晴らしさを、実物が超えてこないということが起きるかもしれません。
なので自分にとっては「絵に描いた餅」は「かわいい・滑稽・哀愁がある・想像や妄想する事の尊さ」を意味することわざです。本来の意味とは違います。ですが、それもまた画餅です。
本連載では自分が日々感じる、それもまた画餅だなと感じることを綴っていけたらと思います。
画餅では、公演のビジュアル撮影が企画の顔合わせになり始まるというのが恒例となってきました。とにかく俳優陣を魅力的に撮影する七五三のようなものです。なんとなしのテーマは持って挑んでいますが、厳密に内容は加味してはいません。むしろその後内容がビジュアルに引っ張られるようなこともあります。
まずは絵作りから始めるという感じ。それもまた画餅です。
これは最初の公演「サムバディ」のビジュアルです。この時はスタイリストさんをつけておらず、デザイナーのいすさんとカメラマンの南阿沙美さんと持ち寄った衣裳をああでもないこうでもないと言いながら演者さんたちに割り振っていったのですが、気づいたら自分はこんな格好になっていました。髪型もオールバックになり妙な眼鏡をかけ、仕上がった姿は“変態指圧師”でした。なぜ自分が変態指圧師に? 本編に変態指圧師は登場しません。自分の中に隠れていた変態指圧師があぶり出されたのでしょうか。撮影が行われた場所カット&パーマBARBARマエの圧倒的な異質空間に引っ張られたせいかもしれません。
大塚駅から徒歩5分ほどにあるカット&パーマBARBARマエ(残念ながら現在は閉店)何より店主のマエさんがとてもコクのある方でした。開けっ放しの扉から店内にスズメが自由に出入りするようになっていました。鳥かごに入っている水を飲んだりしてはまた自由に出て行くスタイルでしたが、あくまで飼ってはいません。ハトやスズメを飼育することは法律で禁止されています。
でかい観葉植物たち、どこからか集まってきたぬいぐるみ達、そこら中に貼りまくられたポスターや雑誌の切り抜き、物に埋め尽くされたBARBARマエは、なかなかお目にかかれないコクのある空間でした。撮影当日お店に到着すると、撮影の話がうまく伝わっておらず、地元のおじさまおばさま2名のカットが普通に行われていました。後からおじさんがもう1人来ました。お客様のカットが終わるのを待ってからの撮影となりました。
生々しく物が溢れている。置いてある物に年季が入りすぎていて何か念のようなものを感じます。いつだったか店の半分が家のリビングのような定食屋に入ったことがあります。何処となく漂う実家っぽさ。
この実家っぽいコクはどこからくるものなのでしょう。物が溢れていることなのでしょうか。しかし物が多かろうと1人暮らしの部屋に実家感はない気がします。同棲を始めたばかりの若い2人の部屋にもまだ実家感はないでしょう。おしゃれな食器、置いてみたかった照明やソファ、知り合いのアーテイストの作品を飾るハイセンスな方もいるでしょう。しかし、いつしか結婚や出産などを経て生活感のあるものが部屋に入り混み始めます。こだわりは崩れ、家の中は生々しい物たちで溢れ始める。実家とはそうなってしまった有様なのではないでしょうか。両親にもこだわりの1人暮らしや、お洒落な同棲生活の時代があったはず。我々の実家は最初から実家だったわけではありません。
実家のことで1つ思い出しました。
千葉の高校に通っていた頃の話です。金髪のロン毛のヤンキー・西村君が遅刻してきました。西村君は席に座り、カバンからノートや教科書を取り出します。そして最後にテレビのリモコンを取り出しました。「リモコン?」と周囲がざわつく中、西村君は気怠そうに「……ふで箱じゃねえ」そう言いました。
西村君はふで箱とテレビのリモコンを間違えてカバンに入れてきたようです。
リモコンにはサランラップが巻かれていました。ボタンの間にホコリが入るのを防ぐためのものでしょう。ラップが巻かれたリモコン。これは実家の成せる技な気がします。笑うクラスメイトたちを尻目に彼はぼそっと言いました。「やべえ。ばあちゃん困ってる」
これは豊かに妄想を繰り広げることができる出来事でした。まずは、家で困っているおばあちゃんが妄想できます。チャンネルを変えられず、見たくもない番組を見続けるおばあちゃんの姿が。コタツの上に残された西村君のふで箱を無言で見つめるおばあちゃんが。あと、西村君がおばあちゃん想いであることも想像できます。西村君がおばあちゃん子だった幼少時代も想像できますし、そんなおばあちゃん子だった優しい西村君が何をきっかけに非行に走り始めたのか妄想もすることもできます。
なんかあまり関係ない話だったかもしれません。妄想や想像を巡らせるきっかけはそこら中にあるということが言いたかったんだと思います。
5月の新作公演、画餅「ウィークエンド」の撮影をさせてもらった、駒込にある夜のヒットスタジオ どっこいは、BARBARマエの店主・マエさん行きつけのカラオケスナックでした。確かに何か近しいものは感じていました。ものすごいコクです。
撮影時も実際にみんなでカラオケを歌いながら撮影することになりました。ずっと「マツケンサンバ」を歌っていました。
皆さんもぜひ夜のヒットスタジオ どっこいに足をお運びください。
ママさんと店員のみどりちゃんが、どこまで本当かはわからない昭和・平成の芸能界の闇についてたくさん話してくれました。それもまた画餅です。
神谷圭介 プロフィール
千葉県生まれ。コントグループ・テニスコートのメンバーで、ソロプロジェクト・画餅の主宰。玉田企画、ブルー&スカイ、犬飼勝哉、東葛スポーツの作品や、NHK大河ドラマ「青天を衝け」などに俳優として出演するほか、マレビトの会の「福島を上演する」に作家として参加。ダウ90000の蓮見翔を作・演出に迎えた公演「夜衝」を玉田企画の玉田真也と共同企画した。自身が主宰する画餅の最新公演「ウィークエンド」が5月21日から26日まで東京・小劇場B1で上演される。25日には同劇場で画餅 特別公演「天才少年」を実施。
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神谷圭介(テニスコート/画餅) @kamiya_keisuke
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