熊谷和徳

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熊谷和徳と神戸の高校生が西神中央ホールで灯す、一筋の“光”「Tap into the Light」

“闇が深いときだからこそ見える光”を探すとき

PR「Tap into the Light」

アメリカ・ニューヨークと日本を拠点に、世界中のステージに立つタップダンサーの熊谷和徳が、兵庫県神戸市にある西神中央ホールで1日限りのパフォーマンスを繰り広げる。「Tap into the Light」ではさまざまなアーティストとコラボレートしてきたが、今回のゲストは、地元高校の吹奏楽部。さらにプロのミュージシャンや神戸のタップダンサーたちも交え、西神中央ホールでしか体験できないステージとなる。

「光は闇が深いときにこそ強く感じられる。闇が深くないと見えない光もある」と語る熊谷が、神戸の高校生たちと灯す“光”とは? 今回のコラボレーションについて、そして「Tap into the Light」シリーズについて、熊谷の思いを聞いた。

取材・/ 熊井玲

「西神中央ホールは音がいい、すごくタップ向き」

西神中央ホールより、劇場内の様子。

西神中央ホールより、劇場内の様子。

タップダンサーの熊谷和徳が、9月20日、兵庫県神戸市にある西神中央ホールで「Tap into the Light」を上演する。「Tap into the Light」は国内外でツアーを行っている熊谷のライフワークとも言うべき公演で、その土地土地でゆかりのあるアーティストやパフォーマーを交えた多彩なセッションを繰り広げている。今回の「Tap into the Light」では、兵庫県立伊川谷北・神戸学園都市高等学校 吹奏楽部とコラボレートする。2022年にオープンしたばかりの、木の温もりを感じる西神中央ホールに、熊谷と高校生たち、そしてプロのミュージシャンやタップダンサーが新たな音を響かせる。

公演まで1カ月を切った8月26日、熊谷と高校生たちの最初のワークショップが神戸で行われた。ワークショップの手応えを熊谷に尋ねると、「お互いに未知との遭遇という感じで(笑)、まだ打ち解けられない部分はありましたが、僕がやろうとしていることを何人かは理解してくれました。つまりそれは、自由に表現するっていうことなんですけど……。僕の最終ゴールは自由に表現することで、『Tap into the Light』でもそこが1つのテーマになっています。クラシックミュージックやバレエにはある決まった枠があるけれども、いい感じでそこからはみ出していきたい。ワークショップではその可能性みたいなものが少し、垣間見れたかなと思います」と穏やかな表情で語った。

兵庫県立伊川谷北・神戸学園都市高等学校 吹奏楽部

兵庫県立伊川谷北・神戸学園都市高等学校 吹奏楽部

兵庫県立伊川谷北・神戸学園都市高等学校 吹奏楽部は、兵庫県で名の知れた実力校。コラボレーション相手として劇場スタッフから提案があった際、「高校生のブラスバンドとのコラボは未来が感じられていいなと思いました。さらに現地のタップダンサーにも飛び入り参加してもらおうと思っていて、“そこ”にいる人たちと何か一緒にやってみたいなと思っています」と話す。また西神中央ホールの印象を尋ねると「音がいいですね! 壁が木製で、ホールの音の響きがいいんです。お客さんとの距離も近いので、すごくタップ向きだと思います」と笑顔を見せた。

吹奏楽部とのコラボレーション曲には、「Another Day of Sun(ラ・ラ・ラ・ランドのテーマ)」「A列車で行こう」「上を向いて歩こう」が予定されている。

「『A列車で行こう』はビリー・ストレイホーンがデューク・エリントン楽団に書き下ろした楽曲で、“A列車に乗って、ジャズが楽しめるハーレムに行こう”という曲です。ジャズもタップも同じアフリカをルーツとしていますが、デューク・エリントンの楽団が活躍した1920年代から1970年代はタップの黄金期でもあり、ハーレムはタップダンサーにとってもすごく大切な場所。今、吹奏楽部の高校生たちは、譜面の自分のパートだけをしっかり吹くことに一生懸命になっているけれど、ワークショップでは、楽曲全体のストーリーだったり、背景だったり、なぜここにタップが入るのかということを、僕がかみ砕いて伝えながら進めていきました。公演では、お客さんにも何かを一緒に感じてもらえるような時間にできるんじゃないかと思います」と語った。

闇が深いときだからこそ見える光がある

熊谷和徳「Tap into the Light」より、8月26日に行われた、高校生たちとのワークショップの様子。

熊谷和徳「Tap into the Light」より、8月26日に行われた、高校生たちとのワークショップの様子。

15歳でタップと出会い、その魅力を長年追い続けてきた熊谷のステージには、力強さと繊細さ、ダイナミックさと緻密さが同居し、“足を踏み鳴らしてリズムを鳴らす”という既存のイメージを超えたタップが繰り広げられる。同じステージ上で熊谷のタップを感じられる高校生たちがうらやましい、と伝えると、熊谷ははにかみながら、静かに「Tap into the Light」に込めた思いを語ってくれた。

「僕は世界のいろいろな都市を訪れますが、今はどこの地に行ってもかなり混沌とした状況にあり、みんなが同じような不安を抱えているように感じます。国ごとに、あるいは信じていることで分断が起きてしまう今だけれど、もっと深いところへ行けば、みんな同じだと感じられたらいいですし、不安の中で、それでもポジティブにいたい。『Tap into the Light』では、その不安はみんな同じなんだよ、大丈夫なんだよということをお互い確認し合うような場にしたいと思っています。オンラインだけじゃなく実際にその場所に行ったり、人に会ったり、空間を共有することで初めてわかることがあるし、現地の人たちとの交流をして感情だったり、不安だったりを共有したい。タップの音を介して、高校生たちともプロのミュージシャンとも、うまい下手ではない部分で分かち合えるものがあると思うんです。

またタップの成り立ちを考えても、タップは奴隷制など暗い歴史を背景に始まったものです。『Tap into the Light』は震災後に始めたシリーズですが、光は闇が深いときにこそ強く感じられる。闇があることで確認し合えるものがあるし、闇が深くないと見えない光もあると思うんです。闇の時代にアートは軽視されてしまいがちですが、アートを通して光を見いだすことがアーティストにできる役割だと思うし、表現することによって心の動きが生まれたり、心の中が本当に真っ暗にならないようにできる場合もあると思うので、今はほんのちょっとした光を見つけに行くときだという気がしています。今回コラボする高校生たちや観に来てくれる方たちは、きっと何かしら受け取ってくれると思うので、ゆくゆく大人になったときに『あんなことがあったな』と思い出してくれるような公演になればいいなと思っています」。

今回の「Tap into the Light」でタップに初めて出会う観客もいるかもしれないが、神戸でしか体験できないセッション、そして劇場空間に響く熊谷にしか出せない唯一無二の音にぜひ酔いしれてほしい。

熊谷和徳「Tap into the Light」

熊谷和徳「Tap into the Light」

2025年9月20日(土)
兵庫県 西神中央ホール

出演

ダンス:熊谷和徳
ベース:岩見継吾
ピアノ:高橋佑成
兵庫県立伊川谷北・神戸学園都市高等学校 吹奏楽部

※高校生以下割引あり。

公演・舞台情報

熊谷和徳(クマガイカズノリ)

熊谷和徳

宮城県生まれ。タップダンサー。15歳でタップを始め、19歳で渡米。2014年にアメリカ・ニューヨークにてFlo-Bert Award、2016年にはBessie Awardを受賞。2019年版ニューズウィーク誌が発表した「世界が尊敬する日本人100人」に選出された。現在はニューヨークと日本を拠点に、世界各国で活動。「東京2020オリンピック」開会式において出演・振付・作曲を行った。

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