テンミニ!10分でハマる舞台
髙田曜子の翻訳で味わう、「NOT TALKING」「モンスター」
翻訳者が“出会い”をつくる
2024年12月13日 12:00 PRゴーチ・ブラザーズ「NOT TALKING」「モンスター」
取材・
人と人、人と作品をつなげたい
イギリスの気鋭劇作家マイク・バートレットとダンカン・マクミランによる戯曲が、このたび日本で上演される。バートレットによる「NOT TALKING」はラジオドラマをもとに、男女4人のモノローグが美しく絡み合うリーディング作品で、マクミランの「モンスター」は、問題行動を繰り返す14歳の生徒ダリルと、新人教師トムの会話を中心に現代の教育・家族問題をあぶり出す作品。どちらも髙田のアンテナに引っかかり、上演へと結びついた。髙田は「演劇の通訳になりたくて、翻訳もできたら素敵だなという気持ちでこの業界に飛び込みました。すぐには通訳・翻訳の仕事につながらなかったのですが、制作として現場で学んだ経験や出会いを、今、財産として生かせるようになった気がします」と顧みる。さらに、ゴーチ・ブラザーズに所属していることで、「“これやりたい”と声を上げると、一緒にやってくれる仲間がいたり、企画に合う海外戯曲を見繕ってほしいと声をかけていただいたり。ありがたい環境にいることと、翻訳・通訳・制作の職域が少しずつ重なっていることで、実現できることが増えてきました。もともと、人と人、人と作品がつながるような場所が好きなんです」と微笑む。
登場人物の言葉が美しく織り重なる「NOT TALKING」
英語圏で活躍する劇作家が数多くいる中、髙田が日本語に翻訳し、さらに上演の機会を得ることができる海外戯曲の数は限られる。膨大な戯曲の中から、髙田はなぜ「NOT TALKING」「モンスター」に惹かれたのか。「NOT TALKING」は2006年にイギリスのBBCラジオでラジオドラマとして放送された作品で、髙田は今回、初めてリーディングの翻訳に挑戦した。本作では、流産を経験した妻(長野里美)と不倫をした夫(平田満)、義憤と罪悪感を抱く新人兵士(岡本圭人)と心を閉した女性兵士(sara)が、それぞれの立場で心境を語り、やがて1つの物語へと集約される様子が繊細に展開する。「バートレットさんの戯曲に触れる機会は何度かあったのですが、“ラジオドラマで放送されていた戯曲があるらしい”と聞いて読んでみたのが『NOT TALKING』でした」と髙田。さらに、「この戯曲は、1人の登場人物が発した言葉と、別の人物が異なるタイミングで話す言葉が、まるで示し合わせたかのようにつながっていく、とても美しい構造をしています。形式が独特なので、上演の機会はあるだろうか?と考えていたのですが、リーディングならピッタリ」と太鼓判を押す。また、出演者の本読みでは新たな発見があるそうで、「リーディングはお客様が耳で“読む”もの。言葉に“引っかかり”を作ってあげないと聴き逃してしまいます。その逆もしかりで、リーディングだからこそ、俳優の言いやすさを考えて言葉選びを工夫する必要があって。稽古場で出演者の皆さんと作品を読み進める中で、どんどん“学び”が見つかる、戯曲の奥深さと秀逸さにノックアウトされています(笑)」と創作の喜びに胸を弾ませる様子を見せた。
台本上に視覚で“人間”を浮かび上がらせる「モンスター」
一方、2021年に上演された「LUNGS(ラングス)」での翻訳をきっかけに作家に興味を持ったという髙田は、「実は、マクミランさんの戯曲の数は多くないんです。気軽な感じで“(LUNGSの)次に読もう”と思ったのが、2005年に執筆された『モンスター』で。読了後、今にも通じる物語だと痛感しました」と振り返る。また、マクミランと演出・美術を担う杉原邦生、髙田は同世代で、自分たちの世代が世間から“キレる14歳”と呼ばれていたことから、「どこか共鳴する部分があって。でも何よりマクミランさんの文体が魅力的なんです。戯曲を読んでいると、文章が途中で終わっていたり、“休符的”な記号が使われたりして、日常で人がしゃべるようなリズムで書かれている。俳優がまくし立ててしゃべるシーンなのか、言葉数が少ない場面なのかがページを見ただけでわかるので、“生きている人間がそこにいる”と感じられます」と翻訳者ならではの視点で特徴を述べ、「この戯曲では特に、句読点の打ち方一つで俳優の生理が変わってしまう。原文の句読点とリズムをなるべく崩さないように気を付けました」と翻訳の意図を明かした。本作では、風間俊介と松岡広大が、ガチンコの演技対決を繰り広げる新人教師役と生徒役に扮する。大阪・茨城・福岡公演を経た東京公演での作品の深化も見どころだ。
翻訳者・髙田が言葉と文化の架け橋となり、原作者から俳優、そして観客へと届けられる海外戯曲。髙田が翻訳で大事にしているのは、「現場に行き、俳優さんのお芝居と演出家の意向を知ることです。俳優さんがどうしても言いづらい、詰まってしまうセリフは、翻訳がどこかうまくいっていないことが多いんです。現場で一緒に見つけていく作業が大切」と職人気質をのぞかせる。そんな髙田は今後、海外演出家・脚本家を迎えるワークショップなど、さまざまな企画を発信していくという。「時間が足りない!というのは言い訳ですが(笑)、時間があればいつか訳したい本や、すぐに上演につながらなくても読んでもらいたい本が本棚に積み上がっている状態で。そこから一つずつ出していって、作家、演出家、アーティストの素敵な出会いにつながればいいなと思います」と話した。
リーディング「NOT TALKING」
2024年12月15日(日) ※公演終了
東京都 新国立劇場 小劇場
スタッフ
作:マイク・バートレット
翻訳:髙田曜子
演出:荒井遼
出演
岡本圭人 / sara / 長野里美 / 平田満
※学生割引あり。
モンスター
2024年11月30日(土)・2024年12月1日(日) ※公演終了
大阪府 松下IMPホール
2024年12月7日(土)・2024年12月8日(日) ※公演終了
茨城県 水戸芸術館 ACM劇場
2024年12月14日(土) ※公演終了
福岡県 福岡市立南市民センター 文化ホール
2024年12月18日(水)〜28日(土) ※公演終了
東京都 新国立劇場 小劇場
スタッフ
作:ダンカン・マクミラン
翻訳:髙田曜子
演出・美術:杉原邦生
音楽:原口沙輔
出演
風間俊介 / 松岡広大 / 笠松はる / 那須佐代子
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