藤井フミヤが40年分の歌を届けた111回目の武道館、燃え尽きながらも再会を誓う「また一緒に遊ぼうぜ」

73

2958

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 262 933
  • 1763 シェア

藤井フミヤのデビュー40周年のアニバーサリーイヤーを締めくくる公演「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」が6月9日に東京・日本武道館で開催された。

藤井フミヤ

藤井フミヤ[拡大]

1983年9月21日にシングル「ギザギザハートの子守唄」でチェッカーズのメンバーとしてデビューし、1992年12月のチェッカーズ解散以降はソロアーティストとして、実弟・藤井尚之とのユニット・F-BLOODの一員としてリリースやライブを重ねるなど、40年以上にわたって音楽シーンのトップランナーとして活躍してきた藤井フミヤ。昨年9月に開幕したアニバーサリーツアー「FUMIYA FUJII 40th Anniversary Tour 2023-2024」では47都道府県を巡り、その歌声を文字通り全国津々浦々に届けてきた。予期せぬ体調不良により延期した公演もあったが、振替公演も無事完遂。チェッカーズとしてもソロとしても立ってきた武道館で、約9カ月におよんだ“長旅”に幕を下ろした。

「40年分歌います。覚悟してください」

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」オープニングの様子。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」オープニングの様子。[拡大]

観客が会場に足を踏み入れると目の前に広がっていたのは、円形のステージとそれを円柱のように覆う真っ白な幕。全方位から熱い視線が注がれる中、客電が落ちた刹那、「Hello everyone. I'm here again」と武道館への帰還を告げる言葉が耳に飛び込んでくる。すると幕にマイクを高く掲げるシルエットが浮かび、尚之(Sax, G)の吹く高らかなサックスの音色を合図に「ギザギザハートの子守唄」へ。フミヤの歌声を世に知らしめたチェッカーズのデビュー曲が、ツアーファイナルの幕開けを華々しく飾った。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。[拡大]

序盤のブロックで披露されたのは、ありし日のヒットチャートをにぎわせたヒット曲や、ファンから愛され続けるチェッカーズのナンバー。「ジュリアに傷心」「星屑のステージ」といったフミヤいわく“スーパーアイドル時代”のナンバーでは、黄色い歓声がステージに降り注ぐ。きらびやかなラメをあしらったジャケットに身を包んだフミヤは、鼓膜を震わせるほどの大歓声と、まばゆいスポットライトを一身に浴びながら、エルヴィス・プレスリーを思わせる華麗なステップやターンを決めつつ、いまだに衰えることのない伸びやかな歌声を360°に響かせた。一方、ロックンロールバンドへとシフトした1986年以降に発表された「I Love you, SAYONARA」をはじめとする楽曲では、手練れのバンドメンバーが奏でる豊かなアンサンブルに、みずみずしく包容力のあるボーカルを絡ませていく。この“チェッカーズブロック”でひときわ圧倒的な存在感を放っていたのが「夜明けのブレス」。櫻田泰啓(Key)が奏でる重厚な音色に導かれ、静寂の中で一筋の光のように力強い歌声が響く。その声に呼応して夜明け前の薄明かりを思わせる色彩のレーザーが扇状に広がり、愛を歌った壮大な楽曲を彩った。

藤井フミヤ

藤井フミヤ[拡大]

懐かしい楽曲を惜しみなく届けつつ、フミヤは「マラソンで言うところで、ようやく武道館のグラウンドに入ったところです」と冗談を飛ばしながらも「今日は40周年なので、40年分歌います。覚悟してください」と宣言。「40周年は私だけでなく藤井尚之も。たまたま同じバンドにいたんです」と横に佇む弟に視線を向けたのち、「皆さんの思い出を照らし合わせながら楽しんでください」と柔らかくほほえんだ。

解散のないユニットF-BLOOD

藤井尚之と藤井フミヤ。2人合わせてF-BLOOD。

藤井尚之と藤井フミヤ。2人合わせてF-BLOOD。[拡大]

「デビューして最初の数年はスーパーアイドルでした。国内だと離島とかに行ってもすべての女の子から『キャー』って言われる。そんな経験はなかなかないし、多少のぼせ上がってたね(笑)。チェッカーズは解散しましたが、解散のないユニットをやります」。そんな言葉を機に、アコースティックギターを抱えた尚之がフミヤの傍に立ち“F-BLOODブロック”の始まりを告げる。スポットライトがフミヤと尚之それぞれに落ち、ステージに濃い影を1つ浮かび上がらせる中、猿岩石に提供した「白い雲のように」のセルフカバーがノスタルジックなムードを武道館にもたらす。続く「未来列車」では背中合わせになり、息の合ったハーモニーを聴かせたフミヤと尚之。60年近く人生をともにしてきた2人にしか醸すことのできない、阿吽の呼吸と声の重なりがオーディエンスの胸を熱くさせた。

藤井フミヤ

藤井フミヤ[拡大]

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。[拡大]

ミラーボールが高速回転し、武道館の天井に流星群を描く演出とともに届けられた「SHOOTING STAR」を経て、“F-BLOODブロック”は一区切り。フミヤはアコースティックギターを抱えると観客に座るよう促し、「初めて全都道府県回りました。全部で61本。そして……111回目の武道館です」とこの日が111本目の武道館ライブであることを報告する。「チェッカーズの解散もここでした。ソロの始まりも武道館で、21世紀もここで迎えました。いろんな思い出がある武道館です。30年前にソロになり、1曲目が運よくヒットしました」と過去に思いを馳せた彼が歌い出したのは、1993年にリリースされ、200万枚のセールスを記録した「TRUE LOVE」だ。藤井フミヤの代名詞であり、30年にわたり歌い継がれてきたスタンダードナンバーが優しく穏やかな時間を紡ぎ、そのままバラードの名手としてのフミヤを象徴する楽曲が続く。空調や衣擦れの音すらも聞こえるほどの静けさに包まれる武道館内に、一番星さながらにフミヤの歌声が響いた「Another Orion」、「弓を引くヘラクレス像」のようなダイナミックな動きとともに貫禄たっぷりに歌い上げられた「Go the Distance」と、“歌手・藤井フミヤ”の魅力が存分に発揮されていく。エモーショナルな空気は、かつてファンの人気投票で1位を獲得した「ALIVE」でピークに。オーディエンスはイントロが聞こえた瞬間に席を立ち上がり、フミヤが歌を通して伝えるポジティブなメッセージを全身で受け止めた。

求愛の音楽=ロックンロール三昧

ラストブロックに入る前に大島賢治(Dr)、山田“Anthony”サトシ(B)、沢頭たかし(G)、櫻田、そして尚之という全国をともに回った“飲み友達”であり盟友のバンドメンバーを紹介したフミヤ。「センターを務めています。40年間センター。今日はセンター中のセンターです」と武道館のど真ん中で宣言して、「俺と尚之はティーンエイジャーの頃、真っ白な心をロックンロールで洗脳されて」と切り出す。

藤井フミヤ

藤井フミヤ[拡大]

尚之がコームで髪を撫で付ける横で、「ロックンロールは男女が踊るために作られたんです。踊って何をするか……恋をするため。だからロックンロールは求愛の音楽なんです。求愛しようぜ!」。そう叫んだフミヤはノースリーブのシャツに黒いパンツ姿に。彼が軽快なステップを踏みながら、1987年にリリースされたチェッカーズ時代の「REVOLUTION 2007」を歌い出すと、武道館はたちまち80年代へとタイムスリップ。キャノン砲から放たれた金銀のリボンが華やかな景色を描いた「NANA」では、オーディエンス1人ひとりを射抜くように見つめながら、ハイキックを決めファンの歓声を誘う。昔も今も変わらぬキレのある動き、年を重ねる中で深みを増したボーカルに会場の誰もが骨抜きにされている様子だった。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。

「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」の様子。[拡大]

尚之と一緒にドーナッツ状のステージを練り歩き、オーディエンスとの距離をグッと縮めた「I LOVE IT! ドーナッツ!」、近年のライブの定番曲として愛されているアッパーな「GIRIGIRIナイト」を経て、クラブライクなパーティチューン「UPSIDE DOWN」でライブ本編はクライマックスを迎える。しかし、観客はまだ足りないとばかりに即座にアンコールを求めた。するとフミヤは「願わくばもう少し休みたかった」と笑いながら、Tシャツ姿で再びステージへ。そして、「長い長いツアーがやっと終わります。地球儀を見ていると小さい日本ですが、回るとまあまあ広い。また全国ツアーをやりたいと思います。今日はいろんなところから決起集会のように来てくれてありがとう」と改めて自身を囲むファンにお礼を告げた。

燃え尽きながらも……

藤井フミヤ

藤井フミヤ[拡大]

アンコールの序盤を飾ったのは、売野雅勇と芹澤廣明という稀代のヒットメーカーたちによるチェッカーズ時代の楽曲「Song for U.S.A.」「哀しくてジェラシー」の2曲。過ぎ去った日々と自身の思い出を重ねながら、観客はフミヤと一緒に歌を口ずさみ、手を揺らし、手慣れたように振付を踊る。観客の腕にかけられたライブグッズ「HOTAFURU」が揺れるたびにきらめき、満点の星空のような空間を作り出した。壮観な景色は、続く「紙飛行機」でも武道館内に広がることに。「ここでしか見られない世界を作ろうぜ」とフミヤが呼びかけたのを合図に、無数の紙飛行機がステージに向かって飛んでいく。客席はもちろん、ステージや花道までもが色とりどりの紙飛行機で埋め尽くされ、その数の多さにフミヤもステージ上のバンドメンバーも笑い出すほど。曲が終わってからも宙を飛ぶ紙飛行機に視線を向けた彼は、「だから折りすぎるなって言ったじゃん。武道館さん、あとで片付けます!」と会場関係者に謝罪した。

「40年間ステージの上で歌わせてもらってありがとうございました」と口にしたフミヤがツアーのラストナンバーとして選んだのは、湾岸戦争が勃発した1991年にリリースされ、チェッカーズの解散ライブの最後も飾った「I have a dream」。フミヤは「キング牧師の演説に感化されて、チェッカーズ時代に作った曲です。21世紀になったら戦争がなくなると思ってました。でも……」と夢と現実の違いに落胆の思いをにじませる。「世界から戦争がなくなりますように。武器と兵器がなくなりますように」と述べ、温もりのあるアコースティックギターの調べに乗せて祈りを込めてこの曲を歌い上げた。最後は「燃え尽きました」と2時間半歌いっぱなしのライブに満身創痍な様相を見せていたフミヤだったが、「また必ずお会いしましょう。また一緒に遊ぼうぜ」とまだまだ歌手として歌い続けることを観客に誓うと、万雷の拍手を浴びながら花道で恭しくお辞儀をした。

この記事の画像(全22件)

セットリスト

藤井フミヤ「40th Anniversary FINAL in 日本武道館」2024年6月9日 日本武道館 セットリスト

01. ギザギザハートの子守唄
02. ジュリアに傷心
03. 星屑のステージ
04. I Love you, SAYONARA
05. Cherie
06. NEXT GENERATION
07. 夜明けのブレス
08. 白い雲のように
09. 未来列車
10. SHOOTING STAR
11. TRUE LOVE
12. DO NOT
13. Another Orion
14. Go the Distance
15. ALIVE
16. REVOLUTION 2007
17. NANA
18. I LOVE IT! ドーナッツ!
19. GIRIGIRIナイト
20. UPSIDE DOWN
<アンコール>
21. Song for U.S.A.
22. 哀しくてジェラシー
23. 紙飛行機
24. I have a dream

撮影:平野タカシ / 江隈麗志 

読者の反応

寺岡呼人 @yohito_teraoka

とにかく、所作が美しい!
こんなに見惚れてしまう、カッコ良く、スターのオーラを纏ったボーカリストはいない。
そして、チェッカーズの曲も懐メロなんかではなく、現座進行形の歌に魅せる。とにかくただただ「かっこいい」。

現在(いま)が最高!な40周年ライブでした! https://t.co/2BzPTRvIUB

コメントを読む(73件)

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 藤井フミヤ / 藤井尚之 の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。