音楽業界4団体による特定候補の支持表明に音楽関係者たちが抗議声明、何が問題なのかを発起人が解説

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音楽業界4団体が参議院議員選挙自由民主党候補の今井絵理子氏、生稲晃子氏の支持を公式に表明したことに対し、音楽関係者による署名運動・SaveOurSpaceが抗議声明を発表。昨日7月5日にYouTubeの報道チャンネル・ポリタスTVにて生配信された番組で、抗議声明の発起人でもある篠田ミル(yahyel)、都内のライブハウス・下北沢LIVE HAUSの店主を務めるスガナミユウ、シンガーソングライターのNozomi Nobodyがこの件の問題点などについて話した。また番組の終盤には、Zoomを使って報道関係者とつなぎ、オンライン記者会見のような形式で質疑応答のコーナーが設けられた。

ポリタスTV配信画面のキャプチャー。左から篠田ミル(yahyel)、スガナミユウ、Nozomi Nobody。

ポリタスTV配信画面のキャプチャー。左から篠田ミル(yahyel)、スガナミユウ、Nozomi Nobody。

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一般社団法人の日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の音楽業界4団体は、6月30日に東京都内の自民党本部で「今井絵理子、いくいな晃子決起大会」を開催。7月10日に第26回参議院議員通常選挙の投票日を迎えることを受け、同選挙に出馬している今井氏と生稲氏を激励した。4団体はこれに関して、過去に今井氏はSPEED、生稲氏はおニャン子クラブのメンバーとしてそれぞれ活躍したことから、音楽文化に与えた功績をたたえるため支援を決めたと説明している。

SaveOurSpaceはこの支持表明について、各業界団体に所属する会員に向け、十分な合議や意見統一のプロセスを経たかが明かされていないと指摘。これらの候補を支援する明確な理由および支援するに至った経緯を公に説明する義務があると考え、7月2日に抗議声明を発表した。合わせてSaveOurSpaceは、この抗議に賛同する音楽関係者・業界関係者を募集。フォームから投稿した賛同者の一覧には、7月5日の時点で4000人以上の名前が記されている。

番組は津田大介による司会のもと進行し、冒頭ではSaveOurSpaceによる抗議声明発表までの経緯を紹介。この説明の中で、日本音楽事業者協会および日本音楽出版社協会から会員宛てに、支援の理由や、特定の候補者への投票を呼びかけるものではないことなどが書かれたメールが届いていたことも明かされた。

篠田ミル(yahyel)

篠田ミル(yahyel)[拡大]

4団体の支援について、篠田は「僕は直接的な会員ではないのですが、プロモーターやレーベルとは関わりがあるのでびっくりしました。そもそもどういう承認プロセスがあったのか、『4つの業界団体が一丸となって支持表明する』ということ自体が不明瞭だと感じた」、スガナミは「4団体はただ決起大会に呼ばれたのではなく、主催を務め、メディアを呼んで実施していたことが衝撃的で。『自民党の支援団体になる』と言っているようなものだと思った」とコメント。2人は報道後すぐに連絡を取り合い、SaveOurSpaceを通じて抗議声明の発表に踏み切ったという。Nozomiは「音楽業界にここまで影響力のある4団体が『一致団結して支援する』という報道を見たとき、『なんのための団体なのだろう』と思ってしまった」「各団体の会員や関係者から抗議の声が上がるのではないかと考えたが、結局そのような動きはなかった。その状況もいろんなことを示唆しているように感じました」と数日間の様子を振り返った。

抗議声明の説明に入ると、篠田は「合意や意見統一のプロセスを経ずに団体として支持表明をしていたのならば、会員の政治的信条の自由を脅かす可能性がある」と指摘。さらにスガナミは「コロナ禍では各省庁に支援を求めてきたが、業界の人たちが連携し、相談窓口を作ることは正しいことだと思います。ですが連携しているからと言って、選挙のときに特定の政党への支持表明や支援をすることはまったく別の問題。そこは一線引かなければならない」、Nozomiは「4団体が支援した候補が自民党の方々だったことが問題なのではなく、特定の政党および候補者を支援すると表明したことが問題。個人ではなく団体が連携し、支援することの影響力を省みるべき」と支援発表の問題点を挙げた。賛同者の募集について、対象者を音楽業界関係者に限定した理由は何かという津田からの質問に、Nozomiは「一般の人からの声も集めたいと思っていたが、目的を考えたときに、業界内から声が上がっているということを4団体にアピールしたかった」と説明した。

スガナミユウ

スガナミユウ[拡大]

スガナミによると、ちょうど前日に音制連の野村達矢理事長から連絡があり、近日中に直接会って抗議文と質問書を渡すことになったとのこと。質問書の内容は以下の通り。

  1. 支援表明に至った合意形成プロセスについて。今回の支援表明は、各団体・団体間においてそれぞれどのような合意形成プロセスを経た上で行われたのでしょうか。また、支援表明の事前・事後に、各団体の会員・会員者とはどのようなやり取りがなされたのでしょうか。
  2. 支援表明に至った理由について。貴団体が該当候補の支援表明を行った理由について、7月1日に日本音楽出版社協会から会員に送られたメールによれば「日本の音楽文化、芸能文化に多大な影響を与え、それらの発展を支えてくださったお二方の功績から、音楽4団体は今回の参院選出馬を一丸となって支援することといたしました。候補者のお二方には、政治家として音楽芸能業界の発展のみならず、日本の文化を支えていただきたくご活躍を期待しております」と記載されています。特にこの候補者二名、及び所属政党を支援表明される理由をご説明ください。
  3. 個人ではなく団体で支援表明した理由およびその評価について。団体の代表や役員個人の支援表明ではなく、なぜ団体として共同で支援を表明するに至ったのでしょうか。また、団体として支援を表明することによる会員・会員社への影響、そして業界全体への影響についてどのようにお考えでしょうか。
  4. 支援の具体的な内容について。7月1日に日本音楽制作者連盟から会員宛に送られたメールには「当連盟加盟社スタッフ並びに所属アーティストの皆さんに特定の候補者への投票をお願いする内容ではございません。また、特定の政党への支援をお願いするものでもありません」とありますが、では団体として両候補を「支援する」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

また、この日は収録会場に来ることが叶わなかったものの、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)も番組宛に以下のコメントを寄せた。

新型コロナウイルスの流行によって、多くの音楽関係者が苦境に立たされています。そうした状況にあって、私たちに代わってロビー活動をしてくださる4団体には感謝しています。しかし、今回の件については、政権与党を選挙応援しなければ助成を受けられない社会の恐ろしさを思います。それは支配的な立場である者が独断ですべてを行う専制政治への入り口ではないでしょうか。
コンサートに集う人たちは様々です。主義や思想どころか、何から何まで違う私たちが、たった一瞬でも何かを分かち合う瞬間が持てるのだということ。分断だけが可視化し続ける社会にあって、音楽はその可能性を見せてくれます。
それぞれに違う私たちの選択が、それぞれに尊重される社会を望みます。
そして当然のことですが、選挙における私たちの選択は組織のものではなく、私たちそれぞれの権利です。

音楽4団体に何を求め、今回のことをどう落着させたいと思っているのかという質問に対し、篠田は「説明責任をきっちり果たしていただくこと。支持表明は一度撤回すべき。支援をしたければ手続き上の納得できるプロセスを踏んだうえで、コンセンサスが取れればしてもいいと思う」と回答。これに付け加えてNozomiは「仮に会員全員の同意が取れたからといって、どこか特定の政党の候補を一致団結して応援すること自体の是非は考えなければいけないと思う」と自身の考えを述べた。

Nozomi Nobody

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今回の応援対象となった候補者に関して、スガナミは「候補者を芸能の功績だけで応援するのは筋が悪いのではと思う。SaveOurSpaceで自民党の文化議連に呼んでもらって話しに行ったときに、今井絵理子さんと最初に名刺交換をしたんですが、僕たちの話を一切聞かずに退席して、当時すごく悲しかった思い出があります」と振り返り、音楽業界と政界をつなぐパイプとして団体を挙げて支援することに首を傾げた。これにNozomiも「支援する理由として文化芸術の分野に詳しいからと書かれていますけど、それで言えば与野党ともに文化芸術政策に関心を持って取り組んでくれた議員さんはいらっしゃったわけで、それを理由にするのであればこの2候補を支援する理由にはまったくなっていない」と一刀両断。スガナミは音楽4団体の心づもりを「今はコロナ禍から少しずつ日常に戻ってきていて、今後は公的支援もなくなっていく段階。支援を何かしらの形で継続してほしいという点で、業界自体も焦ってるのかなと感じる。だから政権与党とのパイプを強く持ちたいという気持ちもわかるし、それがすごく怖いとも同時に思う」と推測した。

記者によるオンラインでの質疑応答コーナーでは、まず音楽ナタリーから、4000人以上が名を連ねる賛同者リストについて「現状はフォームに入力されたものがそのまま記載されているが、すでに亡くなっている方の名前や、明らかに悪ふざけのような名前が混ざっていたり、信憑性を疑問視する声も上がっている。事実確認などの対応は今後どうするのか」と質問。篠田が「人員が足りたらぜひしたい。人数的に追いつけていないので、僕らもいただいたものをパッと載せている段階ですが、ご指摘があればできるだけチェックしたいと思っています。それと今後はメールアドレスをいただいて『本人確認のために連絡するかもしれません』という注意書きを載せることを考えています。可能な限り対応はしていきたいです」と返答した。

続いて寄せられた質問は「今回の抗議声明はプロセスが問題だというものだったが、もし合意ができたとして、音楽業界が組織内候補を立てるというのはそもそも健全なことなのか。そしてそれを考えたときに、どのレベルで合意を取るべきなのかという判断は難しいのでは」というもの。Nozomiはこれに「音楽文化芸術という分野は、それぞれの意思や考えが尊重されるべき場なので、それが阻まれてしまってはいけない。そういう分野が特定の政党を支持するというのは、どういう意味合いを持つのか慎重に考えなくてはいけないと思います」と答え、篠田は「文化芸術業界の問題だけとしてでなく、民主主義のプロセスの問題として論点を広げていくべきなんじゃないかと感じます。いろんな業界が族議員を出して自分たちを支援するというのはありふれたことですけど、そもそもそれが民主主義のプロセスとして正しいのか、今回の音楽業界の問題をきっかけにもっと議論されていいトピックなんじゃないかなと思いました」と私感を述べた。

そして最後に新聞記者が「コロナ禍で文化芸術に対してどのような対応をしてきたのかなどを踏まえて、今の自民党についての個々人の意見を聞きたい」と要望し、3人とも「今の状況の自民党はまったく支持できない」と回答。篠田は「理由はいろいろありますが、生稲さんが同性婚に明確にNOと言っているのは大きい。もしこれで自民党を支援して、それで音楽フェスが守られたとしても、一方でマイノリティの権利が踏みにじられて、経済的に生き残ったフェスとはなんなのか、と考えると納得できることではない」と語った。

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読者の反応

sakamobi.com @sakamobi

@natalie_mu 【動画あり】アジカン後藤が「安倍死ね」と歌っていた動画がひどすぎると話題に https://t.co/AvH0zuYqVm

手のひら返してんじゃねぇよクソダセェな
ロッカーとして恥ずかしくねぇのか😡😡😡

※リンク先に動画あり

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