若手バンドから感じる残響レコード周辺とのリンク
ではなぜ12年ぶりに復活をした
こういった流れもあって、2010年代の日本のメジャーなバンドシーンでオルタナティブな音楽性はトレンドからやや遠ざかっていたように思うが、その一方、海外では1990年代のエモを現代によみがえらせるエモリバイバルの流れが浮上した。2000年代の日本のバンドにも影響を与えたAmerican Football、Mineral、Penfoldといった伝説的なバンドたちが再結成をして、その流れを受け継ぐ若いバンドたちもTopshelf、Count Your Lucky Stars、Run For Coverといったレーベルから作品を発表。これによって、まだオーバーグラウンド化はしないまでも、2010年代半ば以降の国内ライブハウスシーンではエモリバイバルの影響を受けたオルタナなバンドがまた増え始めていた。
この流れはコロナ禍によって一旦中断を余儀なくされるも、収束とともにライブハウスの熱を求めるオーディエンスの気分とフィットして、そこにアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」による下北沢ギターロックのリバイバルも加わり、2022年以降はその盛り上がりが加速。現在頭角を現しつつある
アニメやボカロといった現代のユースカルチャーとのリンク
また現在the cabsが注目されている理由として、アニメやボカロといった現代のユースカルチャーとのリンクも重要だ。解散時には「今後音楽に対して向き合っていく自分を想像することが難しく、他の活動をしていくことは現時点で考えていません」とコメントを出していた高橋が、SoundCloudにアップしていた
「東京喰種√A」ノンテロップOP映像 österreich「無能」
österreichは2015年にアニメ「東京喰種トーキョーグール√A」のオープニング曲として、元
the cabs「二月の兵隊」ミュージックビデオ
現在のösterreichのライブには飯田や鎌野だけでなく、cinema staffの三島想平も参加している。高橋の再起を元レーベルメイトたちが支え、それがあったからこそthe cabsの復活にもつながったのだと思うと、彼らの活動を近くで見ていた1人として感慨深い思いだ。また、cinema staffの「great escape」(「進撃の巨人」エンディングテーマ)や、
そして、その世界観や構築的な楽曲に対しては、ボカロ系のクリエイターからの支持も厚い。特に有名なのが「呪術廻戦 懐玉・玉折」(劇伴をハイスイノナサの照井順政が担当)のオープニングテーマである「青のすみか」で知られる
もう1つ、ネットやSNSとの関係性においては、「弾いてみた」系の動画が非常に多いこともthe cabsの特徴だ。変拍子の難しいフレーズを流麗に弾きこなす高橋のプレイはエモやマスロック好きのギタリストを刺激し、手数の多い中村のプレイを再現しようとするドラマーも多く見られ、その複雑さ・難解さはある種ネットミーム的な広がりを生んでいると言える。この流れは海外のリスナーにも伝播していて、動画やSNSには日本語以外のコメントも多く、12年という歳月の中でthe cabsの名前が大きく広まった理由としてかなり大きいはずだ。
さて、いよいよ目前に迫った8月4日のLIQUIDROOMでのライブはどんなものになるだろう。このメンバーで音を合わせるのはひさしぶりでも、それぞれがそれぞれの音楽活動を続けてきた3人なので、個人的にあまり心配はない。高橋はösterreichとしてthe cabsの世界観を受け継ぐ活動をしてきたし、首藤はKEYTALKで当時のthe cabs以上の大舞台を何度となく経験してきた。中村はベルリンで現地のミュージシャンとセッションを重ねてきたようで、彼の進化は最大の注目ポイントになるかもしれない。もちろん、メンバーとオーディエンス双方にとって、過去も含めたさまざまな思いを持ち寄る1日にもなるはずだ。12年の伏線回収としてはあまりにもできすぎな「再生の風景」というタイトル通り、ここからまた新たな世界線で、the cabsの物語が再び始まる。
公演情報
the cabs tour 2025 “再生の風景”
2025年8月4日(月)東京都 LIQUIDROOM
2025年8月29日(金)宮城県 Rensa
2025年9月7日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
2025年9月26日(金)福岡県 DRUM LOGOS
2025年10月5日(日)大阪府 BIGCAT
2025年10月10日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
2025年10月18日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2025年11月1日(土)東京都 Spotify O-EAST
2025年11月5日(水)東京都 豊洲PIT
- 金子厚武
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1979年生まれ。インディーズバンドでの活動や音楽出版社勤務を経て、現在はフリーランスのライターとして音楽を中心に雑誌やWebで執筆している。2015年発売の「ポストロック・ディスク・ガイド」を監修。
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鎌野 愛 Ai Kamano @kamanoai
金子さんの書いたこの記事はとても丁寧だし正しいと思う。
最近もやもやする記事を多く見つけていたので、なんかすっきりした。
8/4からいよいよですね。楽しみだしドキドキする。 https://t.co/NVbBrct17B