ラテンパーカッションが世界中に広まった理由
──日本のポピュラーミュージックにパーカッションが加わる場合、コンガやボンゴなどのラテンパーカッションが多い気がするんですけど、その理由ってなんでだと思います?
やっぱりブラックミュージックの存在が大きいんじゃないかな。世界中の音楽シーンにアメリカが与える影響ってものすごく大きいよね。アメリカにおけるブラックミュージックって、もともとはブルースやジャズから始まって、ソウルやモータウンの時代にスタジオミュージシャンがたくさん登場するんだけど、彼らがパーカッションをよく使ったんだ。モータウンにはコンガ専門の奏者がいたりして。さらにモータウンブームの少しあとの1970年代には、ラテン系の移民の影響によりアメリカでサルサブームが起きた。なので、その2つが主な理由なのかなと。ブラックミュージックとラテンミュージックでラテンパーカッションが使われていて、それが世界的にヒットしたからっていう。
──その影響が日本にまで波及したということですね。
日本でも1961年に西田佐知子さんが「コーヒー・ルンバ」をカバーしたり、Sergio Mendes & Brasil '66の「マシュ・ケ・ナダ」が大ヒットしたりとか、ラテンミュージックを積極的に輸入していた時期があって。けっこう演歌にコンガが使われていたりもするし、民謡とも相性がいいんだよね。
──TAKAFUMIさんはバンドのサポートでパーカッションを叩くとき、どんなことを意識してますか?
音楽は自由なので「絶対こうじゃなきゃいけない」という決まりはないんだけど、例えばバンドにドラムがいない編成の場合は役割的には下支えする係になるので、ジェンベのベース(※)やカホンのベースをドラムのキックに見立ててボトムを作るのがメインになるかな。プラスアルファで金物系を入れて、カラーリングというか、上モノ的なアプローチもがんばってやるとか。
※ベース:ヘッドの中央部分を叩いて低音を出す叩き方の呼称。ほかにヘッドの縁部分を叩いて中音(=ドラムのタム)を出すオープン、高音(=ドラムのスネア)を出すスラップなどの叩き方がある。
──ドラムがいるときは?
ドラムがシンプルなパターンを刻みながらそのうえでパーカッションが複雑に動くと気持ちいいダンスミュージックになるので、そうやってリズムをもっと面白くすることを意識しているよ。もちろんバラードとか曲によってはそんなにリズムを出さなくていい曲もあるから、そういうときはカラーリングのほうにウエイトを置いて。
──TAKAFUMIさん的にはリスナーにパーカッションのどんなところを楽しんでもらいたいですか?
パーカッションはセットの組み方によって“各国の民族楽器大集合!”という感じになるから、やっぱり音色の多彩さかな。例えばラテン系の楽器を使えばご機嫌なイメージが湧きやすいし、タブラだったらなんとなくインドっぽい感じがするよね。パーカッションはそうやって楽曲の雰囲気を強調できるし、まだまだ知らない音色の楽器もあると思うので、「なんだこの音!?」っていうのを楽しんでもらえたらいいんじゃないかな。
まだまだある! 世界のパーカッション
──せっかくこれだけパーカッションがあるので、いくつかほかのも紹介してください!
タンバリンとか面白いと思うよ。もともとフレームドラムっていう紀元前からある太鼓が起源で、のちにジングルが付いてアラブタンバリン(レク)になり、それを中世ヨーロッパの十字軍が持ち帰ってクラシック音楽でも使われるようになったんだ。さらに植民地時代にブラジルに渡ってパンデイロになったり、北米では最初にゴスペルで使われたりと、世界中で愛されてきた楽器だよ。モータウンに「タンバリンマン」と呼ばれたジャック・アシュフォードっていう伝説のパーカッショニストがいたんだけど、彼の影響でThe Beatlesが「Help!」や「Day Tripper」など多くの曲で取り入れたくらいで。
The Beatles - Help!
Day Tripper (2023 Mix)
──それだけ多くの人を虜にするタンバリンの魅力ってどんなところですか?
入っただけでグルーヴを生み出す力とカラーリングの力がすごく強い。レコーディングでドラム3点(スネア、ハイハット、バスドラム)を録って、それに何かキラキラ感をプラスできないかっていうときに、タンバリンは存在感が強いから候補に上がりやすいみたい。さっき紹介した
大輔 Official髭男dism
Official髭男dism「Rolling」
──今までタンバリンって、ライブ中にボーカルの人が1、2曲叩くくらいの印象だったんですが、ここまでガッツリ楽曲を彩るポテンシャルがあるんですね。なんかイメージが変わりました!
よかった(笑)。あと個人的に好きなのはダラブッカかな。
──すごくきれいな装飾ですね! 形状的にはジェンベに似ている……?
それはたまたまで、ダラブッカはお酒を飲む盃、ジェンベは穀物をひく臼が原型と言われていて。ダラブッカはアルミがメインなので、特に高音を鳴らしたときにより金属感が出るんだ(と言って叩く)。
──アラビアンな感じがしますね!
まさにディズニーの「アラジン」とかの印象だよね。あとはよくベリーダンスの伴奏楽器としても使われているよ。続いて振りもの系を紹介しようかな。シェイカー、カシシ、マラカス、シェケレが“4大振りもの”と呼ばれているんだけど、その中でも最強なのがシェケレだよ。
──あ、前にライブで観たことあります! 「なんかすごいの出てきた」って思ってました! なんで最強なんですか?
バンド演奏の中でシェイカーを使っても音が埋もれちゃうケースが多いんだよね。やっぱり楽器のサイズで音量が変わるから、シェケレはそういう意味で土台になりうるくらいのパワーがあって。
──確かに大きいですもんね。でもずっと振り続けるの大変そう……。
これはひょうたんを乾燥させたもので、中をくり抜いているからそこまで重くはないけど、それでもほかの振りものに比べたら大変だよね。周囲にビーズが付いているのでもちろん振れば音が出るし、ボディを叩いてもベース音が出せるから、そういう意味でもほかの振りものと比べて用途が多いね。シェケレはナイジェリアのヨルバ族が起源の民族楽器で、近くのイボ族にはウドゥという楽器があって、そっちも面白いよ。
──壺……!? 形はシェケレに似てますね。
そうそう、陶器でできた壺(笑)。ジェンベとダラブッカもそうだけど、音が響きやすい構造を探っていくと、物理学的に同じ形状になっていくんだろうね。ウドゥは穴が空いていて、そこを押さえると低音が出るし、ボディを指で軽く触れると高い音が出るんだ。アコースティック編成の音数が少ない場面で使うと、海の中とか夢の中みたいな幻想的な音風景を描けるんじゃないかな。まだまだいろんな楽器があるから、もし興味を持ったら一度楽器屋さんに行って叩かせてもらうと楽しいと思うよ。
──いやー面白い! パーカッションの沼にハマったら抜け出せなさそうですね……! 今日はありがとうございました!
パーカッションって何? コンガ、ボンゴ、ジェンベの違いを解説
プロフィール
TAKAFUMI
マルチパーカッショニスト。アーティストのサポート、個人レッスンやワークショップの開催、YouTubeでの情報発信、「パーカッション・マガジン」での連載など、幅広く活動中。
TAKAFUMI / PERCUSSION (@takafumiperc) / X
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バックナンバー
大阪 どらむ村(ドラムショップACT) @ACT_DRUM
この夏、どらむ村の半日店長としてお越し頂いた、パーカッショニスト TAKAFUMIさんが、あの「音楽ナタリー」に!
パーカッションの事を基礎知識から楽しく、アツく語ってくれて面白いですよ! https://t.co/B5ZroLm9X6