林家つる子

私と音楽 第38回 [バックナンバー]

落語家・林家つる子が語る氣志團

落語家として影響を受けた、“本気でふざける”というマインド

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モットーは「本気でふざける」

2010年、私は9代目林家正蔵師匠に弟子入りして、噺家の道を歩み始めました。修行時代は氣志團さんのGIGに行きたくても行けない時期が長く続いていたんですが、2018年のツアー(氣志團結成21周年御礼参りツアー「あいにいく I・NEED・YOU! おあいにく I・LOVE・YOU!」)で、私もよく行っていた高崎clubFLEEZに来てくれることになったんです。これはと思い、必死でチケットを取りました。ライブが素晴らしかったのはもちろんですけど、公演中にトミーが客席に投げてくれたピックを、たまたま私が拾うことができて。もううれしくてうれしくて、お守りのようにいつも持ち歩いています。しかも、そのGIGの感想をツイートしたら、翔やんがリプをくださったんですよ。一生の思い出ですね。

【X】高崎、最高過ぎました!

翔やんの“知人”として2006年にデビューされたDJ OZMAさんの活動もすごく興味深いものでした。氣志團さんが活動休止されている時期もDJ OZMAさんがいたことでみんな忘れなかったし、ものすごい結果も残してますし。大ヒットした「アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士」を筆頭に、クラブミュージック系のパフォーマンスで、ロックバンドではできないことをされていましたよね。実は私も多方面で活動していく中で落語を広めていきたいという思いがあって、2016年から神出鬼没のラッパー「MC曼荼羅」を登場させています。もちろん、私の“知人”です(笑)。

林家つる子/MC曼荼羅 ‐ if... DA PUMP / THE FIRST TAKE(parody)

もともと私が落語会をやらせていただいていた高崎のSLOW TIME cafeの店長さんがバンドをやられている方で。ラップができる人を探しているという話からMC曼荼羅が誕生しました。同じくラップ好きの落語家・桂笹丸くんのご縁で、ラッパーの狐火さんとステージでご一緒させていただいたり、MC曼荼羅を先に知って林家つる子の落語を観に来てくれる方もいらっしゃったりと、ごく一部ですけれども“曼荼羅 / つる子現象”を起こしております(笑)。MC曼荼羅以外にも、キャンディーズさんのパロディユニット「おきゃんでぃーず」(林家あんこ、林家つる子、春風亭一花扮するあん、つる、はなの3人組)、群馬出身の同世代の落語家4人で県内35市町村を回るユニット「上州事変」など、“本気でふざける”をモットーにいろいろと活動させていただいているんです。やるんだったら徹底的にやる。氣志團さんから学んだマインドです。

林家つる子

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「One Night Carnival」芝浜バージョン

古典落語に「芝浜」という有名な演目があるんですが、コロナ禍で1回目の緊急事態宣言が発令されていた時期、「One Night Carnival」の歌詞に「芝浜」を当てはめた映像作品をYouTubeで公開させていただきました。歌い出しの「俺んとこ こないか?」に、おかみさんの「お前さん起きとくれよ」を当てはめてみたところ、「あれっ? いけるかもしれないぞ」と思い、そこから「アーリー・モーニング 芝の河岸 重い足で 仕事行く勝っつあん」と続けてみたんです。

One Night Carnival 気志團【cover】 古典落語「芝浜」version

やらせていただく以上、ディティールにもこだわりたいので、私1人でメンバー全員を再現させていただきました。トミーは大巨人なのであえて見切れて、光ちゃんのロボットダンスやユッキの頭の矢印もリスペクトを込めて真似しています。氣志團語の「本気(ポンゲ)」も使わせていただきました。翔やんのマインドなら「芝浜」の替え歌にしても怒られることはないという確信があったので、公開後に「こういうものを作らせていただきました」とだけDMしたんです。そしたらなんとYouTubeをご覧になってくださって!

【X】嬉しい。つる子さん、ありがとう。

翔やんって、SNSでもKISSESの皆さんへの対応が素晴らしいじゃないですか。丁寧かつ、しっかり笑いも交えてリプライをされているので、いったいいつ寝ているんだろう?と心配になるくらい。落語家の多忙な師匠方を見ていても、やっぱりエンタテインメントに必要なのは体力なんだなって思います。KISSESの皆さんも優しい方ばかりなので、「One Night Carnival」芝浜バージョンにも温かいコメントをたくさんくださって。本当にうれしかったです。

コロナ禍で染みた「今日から俺たちは!!」

コロナ禍で誰もが塞ぎ込んでいた時期、毎年恒例だった「氣志團万博」(氣志團の地元である千葉・袖ケ浦海浜公園で例年9月に開催されている野外フェス)も中止になりましたが、オンラインならできるだろうということで「氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~」が開催されました。私も落語の活動がまったくできなくなっていたので、せめて何か発信して世の中に少しでも明かりを灯せたらという思いでYouTubeを活性化させたんですけど、「翔やんも同じ気持ちなんだな」と、とても勇気付けられました。初めてのオンライン万博。私も何か力になることができないだろうかと思って、事前にクラウドファンディングで募集されていた名前入りの提灯を出させていただいたんです。そしたら、まさかステージ上のあんないい位置に置いていただけるとは思っていなくて……。モニターの前でずっと泣き散らかしていました(笑)。

【Instagram】氣志團万博の提灯

あのオンライン万博を観て、改めて氣志團さんはすごいなと思いましたね。「うわっ、油断してた! このMCでも笑わせにかかるか」みたいな場面がたくさんあって。人気ドラマのパロディや時事ネタを盛り込みながら、めちゃめちゃ笑わせてくれたし、出演者も本気で楽しませてくれる方々がそろっていて素晴らしかったです。あの時期、表舞台に立つ人はみんな打撃を受けていたし、どうしていいかわからなくなっていたと思うんですけど、翔やんが「エンタテインメントはコロナ禍において不要不急の中に入れられてしまったけれども、いや、エンタテインメントは不要不急じゃない。それを必要としてる人がいるんだ」ということをおっしゃったんです。「ああ、そうだよな。このマインドを忘れちゃいけないな」って、さらにリスペクトの気持ちが強くなりました。

コロナ禍で一度活動がゼロになったことでいろんなことを考え直すことができたんですけど、その時期に聴いた「今日から俺たちは!!」がすごく染みました。「俺たちは間違ってばっか 俺たちは傷ついてばっか」。だけど、それでもいいんだって。コロナ禍に入る前ぐらいまで私は落語家としてがむしゃらに走ってきたんですけど、うまくいってる感覚がなく、このままでいいのかなと思い悩んでいたんです。お客様に来ていただけなかったり、思うような評価をいただけなかったり、どうしてもほかの人と比べてしまっていたんですね。氣志團さんもこれまで決して順風満帆ではなかったと思います。それでもずっと走り続けていて、なおかつ「今日から俺たちは!!」と歌っていることに、すごく鼓舞されました。私は人の評価とかお客さんの数に気を取られて、本質を忘れていたなって。人を楽しませることこそが自分の生きがいだし、自分の喜びなんだということを思い出すことができた。コロナ禍が落ち着いてからもお客様はなかなか戻ってこなかったけど、それでも来てくださるお客様がいかに大切か、すごくよくわかりました。何かご病気を抱えている中で無理して来てくださったかもしれないし、ものすごくつらいことがあって笑顔になりたくて来てくださったかもしれない。目の前のお客さんが喜んでくれればいいんだと思えるようになってからは気持ちが楽になったし、しっかりと芸に向き合えるようになりました。

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いつか氣志團モチーフの新作落語を

2024年3月、おかげさまで真打に昇進することができました。コロナ禍のつらい時期がなかったら、もしかすると真打昇進の話もなかったかもしれません。ようやく40日間の真打昇進披露興行も終わったので、これからいろいろと挑戦していく中で、氣志團さんの曲をモチーフにした新作落語も作ってみたいです。私、氣志團さんのおかげでヤンキーマンガが大好きになってしまったんです。すでに新作落語でヤンキーがちょっとだけ登場する話が1個あるんですけど、次はさらにヤンキーに特化させたものをやりたいなって。ジャンルこそ違いますけど、翔やんのマインドを受けて落語という道を歩もうと決めたので、いつの日か落語と音楽という形でご一緒できたらすごくうれしいです。あるいは、MC曼荼羅の腕をみがいて、DJ OZMAさんとのコラボ……あっ、というのは知人の夢ですが(笑)。実は私、氣志團万博には一度も行けていないんです。ずっと修行中だったので仕方ないんですけれども。なので今年11月9、10日に開催される「氣志團万博2024 ~シン・キシダンバンパク~」にはなんとかして行きたいなと思っています。もし行けた場合は全身フル装備で臨みたいです。赤いTシャツにハチマキして、差し色で黄色も入れて。ちなみに高校のときに一緒に踊っていた友人は今も大切な親友です。彼女の結婚式の余興では、お察しの通り「結婚闘魂行進曲『マブダチ』」を全力で踊りました。これだけはやらせてくれって(笑)。こんな話をしてると「一番星」とか「ゆかいな仲間たち」とか一緒に聴いた日々がよみがえってきます……。いやー、ホント青春ですね!

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プロフィール

林家つる子

群馬県高崎市出身の落語家。大学生のときに落語研究会で活動し、その後2010年に9代目林家正蔵に弟子入り。古典落語の滑稽噺や人情噺のほか、現代を舞台にした自作の新作落語にも取り組んでいる。また古典落語の名作「子別れ」「芝浜」「紺屋高尾」の登場人物であるおかみさんや遊女を主人公にして、その視点から落語を描く挑戦を行っており、その挑戦が2022年にNHK総合「目撃!にっぽん」や日本テレビ「NEWS ZERO」で取り上げられ話題となった。2024年3月に11人抜きで真打に昇進。女性初の抜擢昇進という快挙を成し遂げた。

林家つる子 公式サイト
林家つる子 (@hayashitsuruko) ・X

※「BOOWY」の2つ目のOはストローク符号付きが正式表記。

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綾小路 翔 @ShowAyanocozey

ここまでの解像度で氣志團を語って下さった芸能人の方はつる子さんが初めてではなかろうか。大変ありがてえです。励みにしかならねえです。氣志團、もうちょっと頑張っちゃおうかな。 https://t.co/lzg5OQ9BbS

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