細野ゼミ 1コマ目(前編) [バックナンバー]
細野晴臣とアンビエントミュージック(前編)
“ゼミ生”安部勇磨(never young beach)&ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)と共に探るその奥深い歴史
2020年10月21日 20:00 155
ビル・ラズウェルから突然の電話
細野 そういえばアンビエントにのめり込んでいる頃、「近所まで来てるんだけど今から会える?」って突然外国人から電話がかかってきたことがあって。ビル・ラズウェルだったんだけど。
ハマ ええ!
安部 以前からお友達だったりしたんですか?
細野 いやいや。お互い名前は知ってたんだけどね。
ハマ 「こちらはハルオミホソノの電話ですか?」みたいな電話だったんですか?
細野 そう(笑)。近くのファミレスにいるから来てくれと。それで会いに行ったら彼は「自分はアンビエントだ」って僕に宣言するんだよね(笑)。つまりで一緒に何かやろうよっていう誘いだった。それで1枚作ったのが「N.D.E」(1995年発表)。
ハマ&安部 へえ!
細野 ファイルのやりとりで作ったんだよ。
ハマ 当時から! 今みたいにネットが普及していなかったと思うんですけど、ファイルのやり取りってどういう感じだったんですか? 「ギガファイルに上げておくから」ってわけにはいかないですよね。
細野 オンラインではなかった気がするな。FedExだったかな? ちょっと覚えていない。その頃、YMO再開の話が進んでたんだけど、ずっと僕は抵抗してたの。「今、ポップなテクノはできない」って。でも、結局説得されて「TECHNODON」というアルバムをニューヨークで作ることになったんだけど。
ハマ 当時の細野さんはがっつりアンビエントモードだったわけですよね。
細野 うん、かなり深く入ってた。
ハマ それだとなかなかテクノには行きづらいですよね。
細野 あの頃の僕は海の中にいる動物みたいな気持ちだったから。陸の音楽と海の音楽とを分けていたわけ。で、2年くらい海の音楽を作りながらフローティングしてたんだよ。だからYMOの話が来たときは丘に引っ張り上げられたような感じだった。でも、「TECHNODON」の中でも自分の持ち曲はアンビエントっぽく作ったね。その頃、LOVE,PEACE & TRANCEっていうユニット(細野プロデュースによるユニット。メンバーは遊佐未森、甲田益也子、小川美潮、細野)をやっていたんだけど、そのときも僕は少しアンビエントモードだったの。サンフランシスコまで行ってキム・カスコーンって人にミックスをやってもらって。その人はアメリカで数少ないアンビエントをやる人だったの。で、会いに行ったら「アンビエント」って書いてあるバッジを付けてた。
ハマ&安部 はははは(笑)。
細野 だからアンビエントって、当時はジャンルというよりも標語だったの。
安部 精神性だったと。
細野 しかもキム・カスコーンがやってるレーベルがSilent Recordsっていう名前で。
ハマ その人と細野さんは精神性が共通していたんですか?
細野 僕より過激だったから怖かった(笑)。
ハマ バッジを付けてるってすごいですよね(笑)。意味合いが強すぎる。
細野 すごくストイックな人で、ミックスもちっちゃーな音で作業して。サイレントだなと。
ハマ レーベル名通りの(笑)。そんなに音が小さかったんですか。
細野 うん。ヘッドフォンもしないでね。
アンビエントは偽物と本物がある
──細野さんがアンビエントに傾倒していた時期は90年代なのかなと思いますが、今も再びアンビエントにハマってるという意識があるんですか?
細野 今? そう、さっき安部くんが言ってたように、普通のポップス音楽が聴けないんだよね。
ハマ いろいろ入ってきちゃうから。
細野 そう。昔のはいいよ。自分のラジオで最近かけたのはThe Books。ニューヨークのアヴァンギャルドな音響系のバンドで、もう解散してるけど。すごく好きだったから、最近そういうのをかけるようになったんだよね。レトロなもののあとにアンビエントの曲をかけたり。で、アンビエントというのは、偽物と本物があるんだよね。
安部 それ面白いですね。
細野 聴くとわかるんだよ。
安部 それは音なんですか?
細野 音だけじゃないね。
安部 アンビエントって誰しもがそれっぽくできてしまいそうなイメージがあるんですよ。
細野 実際できるんだよ。形を真似しようと思えば、いくらでも真似できる。
安部 アンビエントの中でもいいものとよくないものがあるんじゃないかと思って、その線引きがどこにあるのかを今日は細野さんに聞いてみたかったんです。
細野 それは難しいね。なんだろう、普通のポップスでもロックでも、1小節目、2小節目は大事じゃない?
ハマ なんでもそうですね。
細野 それと同じだよ。
安部 聴いた感覚で「あ、なんかいいな」と。
細野 やっぱり聴かせるための音楽だから、エンタテインメント性がないと面白くないでしょ。あまりにもエゴイスティックに作られると付いていけないよね。リスナーに聴いてもらって、面白いなと思ってもらうのが大事だから。
ハマ なるほど。エンタテインメントな感覚が通ってるか、通っていないかが大事なんですね。
細野 初期のアンビエントはどれも面白かったんだけど、いろんな人が真似するようになって偽物がいっぱい出てきて。そうなったら終わっちゃうんだけど。なんでもそうじゃない?
安部 そうですね。最初が一番面白いですね。
細野 エレクトロニカもそうだったんだよ。みんなが同じようなことをやるようになると面白くなくなっちゃう。
ハマ ブームが蔓延していくと、どうしても新鮮さは失われていきますよね。フォーマットもできあがっちゃいますから。
細野 予定調和になっちゃうんだよね。
ハマ 今度、細野さんと一緒にアンビエントのCDを聴いて「これはいい」「これは違う」とかやりたいですね。
細野 アンビエントイントロ当てクイズとかやってみたいな。
ハマ ははは(笑)。アンビエントのイントロの概念って(笑)。
安部&ハマのロックの線引き
──ちなみに安部さんとハマさんの中で、これはロックでこれはロックじゃないという線引きはありますか?
ハマ 感覚的な部分もあると思うんですけど、うちのメンバー間でよく話すのがThe BeatlesとThe Rolling Stonesの違い。ビートルズって誰が演奏してもある程度サマになるけど、ストーンズの曲はミック・ジャガーが歌わないとカッコよくならない。それがロックとポップの明確な違いなんじゃないかって。その人じゃないとダメだというのが僕ら的なロックとかロックスターの定義ですね。
──属人的というか。
ハマ イギー・ポップじゃないとカッコよくないとか。でも細野さんがさっきおっしゃっていた最初の1小節を聴いてアンビエントかどうかっていうのは、どの音楽にも通じる感覚ですよね。オリジナリティとか、その人じゃないとダメという感じをどうやって出せばいいのか。それって法則みたいなものもないからすごく難しい。そう思わない?
安部 思うね。結局は人なんだなって。ロックでもなんでもそうだけど、その人のままの音が出てるのが本物なんだろうな。
ハマ それはあるよね。
安部 イギー・ポップみたいな人が上裸でいればそれっぽく見えちゃうけど、そういう人が実家に住んでいて、お父さんとお母さんにごはん作ってもらってて、それで「世の中クソだぜ」って叫んでても「お前、実家やん」って思っちゃう。どんなジャンルでも、その人の生活とか、すべてが作るものに直結してることが大切なのかなと思います。
※近日公開の後編に続く。
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2020年11月3日の「レコードの日」には過去6タイトルのアナログ盤がリリースされる。
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安部勇磨
1990年生まれ、東京都出身。2014年に結成された
・never young beach オフィシャルサイト
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ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
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