スガナミユウ

ライブハウスができるまで 第6回 [バックナンバー]

コロナ禍の中オープン決定、奮闘する店長が抱く不安

新たな施策とその手応え、配信は代替えにはならない

7

423

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 141 258
  • 24 シェア

配信に依存しないために

LIVE HAUSでは「LIVE HAUS SoundCHECK」と並行して、店先にホットサンドの屋台「HauStand」を出したり、店内ロビーの壁面を使ってギャラリー展を開いたり、下北沢のレンタルスペース・下北線路街 空き地で野外イベント「LIVEHAUS Garden」を定期開催したりと新たな取り組みを次々と展開している。これらはスタッフの雇用を守るため、音楽を止めないための施策なのだそう。

「HauStand」キービジュアル

「HauStand」キービジュアル

LIVE HAUSギャラリーの様子。(提供:LIVE HAUS)

LIVE HAUSギャラリーの様子。(提供:LIVE HAUS)

「僕たちがコロナ禍に直面して企画した施策は基本的に事態の終息後にも運用できるものを念頭に置いていて、ホットサンドは8月以降LIVE HAUSの店内でも提供する予定で、ギャラリーではTシャツの展示をメインに展開していきます。『LIVEHAUS Garden』については“窓を開け、音の鳴る庭へ”をテーマにしていて、生の音楽を楽しめる日常を少しずつでも取り戻すために企画したもの。ライブハウスはガイドラインに基づいて縮小営業してもいいことになりましたけど、人々の不安は払拭されないままで自粛要請の期間と何ひとつ変わっていないのが現状じゃないですか。そこで僕らは、LIVE HAUS店内を使うという発想を捨てて、少しでも不安が軽減できるよう野外イベントから始めるべきだと考えたんです。毎週末、オープンエアで音楽を体感できる公園のようなイメージですね。自粛要請明けの2日後に第1回を開催したのですが、イベントの様子を見ていて、お客さんも出演者も生の音楽を求めていたのだと実感しました。あと『Social Distance Club』というクラブイベントも始めています。このイベントは会員制で開催場所などの詳細を非公開にしているのですが、情報を集めてたどり着いてほしいですね」

「Social Distance Club」ロゴ

「Social Distance Club」ロゴ

ただ、こうした新たな試みに対してバッシングを受けることもあるのだそう。

「『LIVEHAUS Garden』を初めて開催したときに、会場の外から観ていた方が人が密に見えるような写真を撮ってネットにアップしたらしく。その投稿を見た第三者から会場に直接クレームが入ったんです。感染防止のために店を飛び出して野外イベントを企画してもバッシングを受けてしまう……正直この流れは地獄ですね。実際には公園の芝生で人々がくつろいでいるのと変わらないんですよ。体温検査やマスク着用の徹底、消毒など感染症対策をしっかりしていても、そこに音楽があって人が楽しんでいるとアウトという」

「LIVEHAUS Garden」より松本素生のライブの様子。(提供:LIVE HAUS)

「LIVEHAUS Garden」より松本素生のライブの様子。(提供:LIVE HAUS)

コロナ禍の中オープンへ

東京都では6月12日に新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛、休業要請などを緩和するロードマップがステップ2からステップ3へと移行。これによりライブハウスやクラブに関しても19日より適切な感染防止策を講じることを前提に規模を縮小しての営業再開が可能となった。8月から実店舗での営業をスタートさせるLIVE HAUSだが、素直に喜べないのが現実だとスガナミは語る。

「ソーシャルディスタンスを基準にして営業する場合、お客さん同士の間隔を最低でも1メートルは空けなきゃいけない。それだとLIVE HAUSでは定員14人くらいになるので、どう考えても経営を続けることができないんです。ただ一方で収容人数の半分以下なら問題ないという考え方もあって、僕らは8月以降この考えをもとに120人キャパに対して定員50人で営業していきます。とはいえチケットがソールドアウトしても本来の収容人数の半分以下なわけですから、厳しい状況には変わりありません……。今回のガイドラインはライブハウスや劇場が営業再開するために作られたもので今後段階的に緩和されるとのことですが、ワクチンができるまでソーシャルディスタンスを基準にした内容は変わらない可能性がある。そうなると本当にすべてのライブハウスや劇場が潰れてしまうかもしれません。これは『Save Our Space』などの活動を通してさんざん発信していることなのですが、縮小営業をしろと言うのであれば赤字部分の補償をしてほしい。『Go Toトラベルキャンペーン』にしてもそうですが、『経済の回復=国民に何かやらせる』という構図自体が、そもそも実情と合っていないように感じます。それにガイドラインはただ作ればいいとわけではなく、それに沿って運営した際に商売として存続可能なのかが重要。例えば映画館や劇場は、観客のマスク着用など飛沫防止対策を徹底すれば客席をすべて埋めてもいいと思います。ソーシャルディスタンスが会話を前提としているなら、全員がマスクをして同じ方向を向いて黙って観劇するのは当てはまらないのではないでしょうか。ライブハウスも同じく対策をしたうえで“観客同士の肌が触れ合わない程度の動員”まで基準を緩和すれば収容人数をある程度戻せるんです。ステージと観客の間にアクリル板を置いて、観客同士の間隔を四方2メートルずつ離した着席形式のライブの映像を何度か見ましたが正直疑問に感じました。それは本来のライブの様子とかけ離れているからではなく、感染防止の対策として無駄なものが多いなと感じたからなんです。僕らは感染症対策として何が本当に必要なものなのか考えながら営業していきたいと思っています」

スガナミユウ

スガナミユウ



新型コロナウイルスの終息の目処が立たない中、ライブハウス / クラブを立ち上げるスガナミ。最後に現在の心境と8月のオープンを心待ちにしている音楽ファンへのメッセージをもらった。

「僕たちの職種に限ったことではなく、事業者が恐れているのは感染者が出ること、クレームなどの風評被害が起こることの2点だと思います。感染者数が増えるたびに不要不急の外出は避けるよう呼びかけられ、イベントはキャンセルせざるを得なくなる。仕方のないことかもしれませんが、それに対する補償はない。この事実を行政はメディアはどこまで認識して情報発信しているのか疑問に感じます。どのお店も自分だけでなく従業員の生活もかかっていますから営業する。しかし感染者が出ればすぐに吊し上げられて非難される。一番怖いのは分断なんですよね。外に出て経済活動をしている人、外出を控えて気を付けている人などそれぞれの立場を尊重することが必要で、それができないとこの国は新型コロナの終息までもたない。立場の違う誰かを過剰に監視することで、自分の首が締まっていることに気付くべきだと思います。そういった理解があって初めて経済活動の再開と言えるのではないでしょうか。LIVE HAUSではお客さんや出演者の皆さんに安心して楽しんでもらうために、敷地内全域に抗ウイルス効果のある光触媒のコーティングを施したり、医療機関で使用されている紫外線空気殺菌装置、ストリーマ放電の空気清浄機、業務用のサーキュレーターを設置したりと感染症対策の設備導入を進めています。あとラッパーでハンドクラフターのMC JOEさんに飛沫防止用のマイクガードを作ってもらったんですよ。そういった工夫や努力を惜しまず、試行錯誤しながら営業していくことで、本来のライブハウスやクラブの在り方を取り戻したい。皆さんが心配をしなくて済むような環境を用意していきたいと思っています」

MC JOEが制作したマイクガード。(提供:LIVE HAUS)

MC JOEが制作したマイクガード。(提供:LIVE HAUS)

ステージ側から見たLIVE HAUSの店内の様子。

ステージ側から見たLIVE HAUSの店内の様子。

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自の運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末にTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。

バックナンバー

この記事の画像(全13件)

読者の反応

  • 7

J_ROCKNews @J_ROCKNews

ライブハウスができるまで 第6回 コロナ禍の中オープン決定、奮闘する店長が抱く不安 https://t.co/taGfRkFUWL

コメントを読む(7件)

曽我部恵一のほかの記事

リンク

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 曽我部恵一 / カジヒデキ / KONCOS の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。