大石規湖

映像で音楽を奏でる人々 第4回 [バックナンバー]

フリーかつ丁寧に 大石規湖の仕事との関わり方

“本物を知ってしまったがゆえ変えられない音楽との距離感”

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音楽に関わる映像作家に焦点を当てていく本連載。4回目は、大石規湖へのインタビューの後編をお届けする。前回は学生時代から今にいたるキャリアを話してくれた大石。後編は彼女に、MTV JAPANで初のレギュラー番組として関わった「サ上と中江の青春日記」と、2017年公開となった初映画監督作「MOTHER FUCKER」について、さらに大石自身が特に影響を受けた映像作品3作品について話を聞いた。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / 梅原渉 編集・構成 / 土館弘英

バラエティ番組を通して表現される音楽

──ミュージックビデオやライブ映像とは違った形の音楽映像としては、“サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)と中江友梨(東京女子流)の2人に青春をさせる”をテーマにしたバラエティ番組「サ上と中江の青春日記」をディレクションされましたね。あの番組を手がけられた感触は?

「青春日記」は初めてディレクションしたレギュラー番組です。前提として “青春”がテーマにあったので、1回目で2人には制服を着てもらって、富士急ハイランドで遊んでもらいました。

番組の様子は、ユニットアルバム「ビールとジュース」初回版付属DVDにも収録。

番組の様子は、ユニットアルバム「ビールとジュース」初回版付属DVDにも収録。

──当時中江さんは17歳だから制服も似合いましたが、三十路半ばで改造学ランにモヒカンというサ上くんのビジュアルには震えました。

もう1つのテーマとして、友梨ちゃんがサ上さんと触れ合う中でヒップホップを知っていく過程を撮りたかったんです。それでSIMI LABのMARIAさんを呼んで授業を開いたり、いきなり友梨ちゃんに当時のスタッフに対する不満をフリースタイルしてもらったりして。クラブのデイタイムに行われている、サ上さん主催のヒップホップイベント「建設的」に友梨ちゃんを連れていったら、その環境に驚いて泣かれたりしました(笑)。

──内容的にもドキュメントと言うか、出たとこ勝負の部分も強かった印象です。

基本は出たとこ勝負でしたね。出演する方も「いい感じでやってください」で伝わったり、うまく立ち回ったりできる人ばっかりだったので。

──その意味では、台本と筋道、演出がきっちり決まっているものよりも、ハプニングを含めた“その人が持つ魅力”を撮りたいと?

それはあると思います。アーティストって、基本的にはこちらの想像を超えてくる人ばっかりなんですよね。バラエティタレントじゃありませんし。そういう人にかっちりと内容を決めて「これをやって下さい」って言っても絶対やる訳がないし、そもそも、そういうことをやってもらうべきじゃないと思ってて。それよりも、こちらの想像を超えてくるなら最初から構成に遊びを作っておいて、そこを一緒に楽しむほうが面白いものが作れるし、アーティストの持っているいい部分が形にできると思うんですよね。

──なるほど。

あといい機会なので、この場を借りて“MVを作ってる人だけが音楽の映像を作っている人じゃない”ってことは言っておきたい。「青春日記」みたいな番組もあるし、例えばスペシャで「Black File」を作っているディレクターの沼田佳人さんも、めっちゃ面白いもの作っているんですよ。

──番組内の、ラッパーやDJのお宅へ訪問する「オタク IN THA HOOD」はすごく興味深いし、アーティスト同士の対談などでもほかにはないコンテンツが多いですね。

でもなぜかそういうタイプのディレクターは、“音楽に携わる映像作家”としては認められづらい。全面的にわかってくれとは言わないけど、そういう存在を知ってほしいとは思いますね。

──「青春日記」での、演者と大石さんとの関係性の近さも印象的でした。大石さんが出しゃばっているわけではないけど、中江さんがクラブで泣き出すシーンのケアの仕方などは、関係性が近いから生まれるものだろうなと。

私はアーティストと接して、その人の性格や考え方を知ることで、それを映像に反映させていくタイプなんですよね。だから関係性が近くなっていくし、その流れでドキュメンタリーになることが多いんです。ドキュメンタリストになりたいって考え方はないんですけど、結果的にドキュメント要素が強くなるのかもしれません。

「MOTHER FUCKER」を通して見えるもの

──そういった手法や方法論の延長線上に、2017年に劇場公開された初の映画監督作品「MOTHER FUCKER」があります。この映画を撮ったきっかけは?

「MOTHER FUCKER」メインビジュアル

「MOTHER FUCKER」メインビジュアル

谷ぐち順さんの家族に会ったことがきっかけで、初対面はライブの撮影のときだったんですね。妻のYUKARIさんが今よりも小さかったお子さんの共鳴(ともなり)くんを背負いながらリハーサルをしてて、夫の谷ぐちさんがそれに対してアドバイスをしてたんです。バンドの中に家族の姿があったし、それが本当に素敵だと思って。そのあとに谷ぐちさんのやっているFOLK SHOCK FUCKERSの「イン マイ ライフル」 のMVを撮らせてもらったときに、ご自宅にお邪魔して一緒におにぎりを食べて(笑)。そういったつながりの中で生活が見えて、人生が見えて……とにかく魅力的な人たちだと感じたし、「この人たちの生活を撮りたい」って思ったんですよね。ごく自然な気持ちとして。

──映画を撮りたいという気持ちはありましたか?

最初はなかったです。ただ、勝手に自分の先輩だと思っている川口潤さんが「kocorono」を映画として作ったという先例が近くにあったので、同じようなスタンスで撮るのもアリなのかなとも思ったし、映画として制作すれば新しい提示の仕方ができるんじゃないかという気持ちはありました。

──「MOTHER FUCKER」は今の時代だから必要な映画だと感じました。最近の「生産性」発言のような、“人としての自然なあり方”を剥奪しかねない考え方が広がりつつある中、「その考え方は間違っている」ということをこの映画は強く発信していると思います。しかしそのメッセージを、この映画では言葉にはしていません。それがこの作品を“映画”たらしめる大きな要素だと感じます。

多様性を認めるのは当たり前のことだと思うし、それを言葉にしなくても、多様性を認めることの大切さを理解してる人がこんなにたくさんいるんだってことが伝わればうれしい。そして、そういったことを根本的にわかっている人がいたから、いろんな場所で上映させてもらえたんだと思います。それに、何かをわかりやすくしたり言語化したりすることでカッコ悪くなってしまうことってあると思うんですよ。言葉にしないからわかりにくかったかもしれないけど、メッセージは日常を通してのみ伝えたかった。空気とか匂い、そこにしかない時間の感覚など、そういったことを自分の言葉にせずに表現しないと意味がないと思うんですよね。特に谷ぐちさん家族のような方々は私には言葉にできない、説明し尽くせない存在だからこそなおさらで。

「売れる / 売れない」から離れるという美意識

──では映画を制作しての気付きはありましたか?

映画を撮るまでは、生活と音楽って別のモノだと思っていたんですね。だけど撮影しながら、「この人は音楽だな」「存在自体が音楽だ」って思える人がこんなにたくさんいるんだって感じて。それからは音楽と生活を分けて考えることはなくなりました。自分としても、映像制作はもちろん仕事なんだけど、「これは仕事」っていうスタンスで撮ることはなくなりました。たまに「この人はこれから売れるんで一緒にやりましょう」みたいなことを言われると、「何が目的なんだよ!」って思っちゃうんですよね。谷ぐちさんたちと映画制作を通して接して、邪念なく音楽に携わる姿勢に影響を受けて、そういう考え方から余計に遠くなってしまって。先日、Fugaziのブレンダン・キャンティ(Dr)と話す機会があったんですが、Fugaziのドキュメント映画「INSTRUMENT フガジ:インストゥルメント」の中で、彼らは「ビジネスとしての音楽業界と、クリエイターや生活者としての自分たちの住んでる世界は別だ」という話をしてるんですね。ブレンダンと直接お話してそのことを思い出したりして、本当にそうだな……って。しかしこういうことを話すと、本当にお金になる仕事が来なくなる(笑)。

──大石さんのそのピュアネスは、映像にも反映されてると思います。

でも、それしかないのかなって。映像制作界隈のパンクスになろうと思ってます(笑)。

──ちなみに、編集するうえでのこだわりはありますか?

色にはこだわっています。「MOTHER FUCKER」も、現実よりもフィルムっぽい色味の仕上がりにしていて。谷ぐち家は本当に映画のような家族なので、フィルムっぽい質感が合うと思ったんですね。それからMVやライブ映像では極端な色使いも多いと思います。関わっているアーティストの個性が強いので、そのアーティストに合わせたり、アーティストに“面白い”って思ってもらえるような構成にすると、極端な表現になるのかもしれないですね。

「MOTHER FUCKER」のワンシーン。(c)2017 MFP All Rights Reserved.

「MOTHER FUCKER」のワンシーン。(c)2017 MFP All Rights Reserved.

「音楽」のために自分ができること

──これからも映画は撮ろうと思ってますか?

テーマは考えてます。

──お話しいただけますか?

日本の音楽業界って、海外と比べるとインディーズとメジャーの差が激しすぎると思うんです。例えばインディでも海外でツアーができるような日本のアーティストに話を聞くと、海外でツアーをすれば、大儲けはできないけど生活ができるぐらいの売り上げが生まれると。それはライブハウスのバック率や、ちょっと酒を飲みにライブハウスに来るようなお客さんの多さ、物販の購入率などが要因だと思うんですけど、そういう意味でも海外では音楽がもっと生活とつながっていると思うんですよね。そういった海外の状況と、日本の音楽の状況をテーマにしたドキュメントを撮ってみたいんですよね。

──経済も含めた、音楽を取り巻く現状や環境をドキュメントすると言うか。

音楽や表現が儲からない状況があるから、「表現者には生産性がない」と軽視されていると感じることが多々あるので、その状況を改善したり、表現を尊重できたりするような環境にしたいと思ってるし、そう考えている人を取り上げた作品が作りたいと思っていて。それこそ商売になるタイプの内容でもないと思うけど、もし興味がある人がいればご連絡ください(笑)。

──その意味でも、やはり大石さんの作品は“現象を切り取る”ことが創作意欲の源泉なんですね。

自分にとってインスピレーションになるのは、目の前の現象や外部からの刺激なんですよね。何しろ私が関わらせてもらっている方々が刺激物ばっかりなんで(笑)。そして、そういった現象と自分との化学反応が楽しいし、それを映像にしたい。それがモットーかもしれないですね。

大石規湖が影響を受けた音楽映像

bloodthirsty butchers「kocorono」(映画)
監督 / 川口潤

bloodthirsty butchers「kocorono」DVDジャケット

bloodthirsty butchers「kocorono」DVDジャケット

あとにも先にもこんな音楽映画はないと思っています。自分の作っているものは、川口さんと、催郷通範さんの影響がとても大きいですね。お二人の作品は毎回進化し続けているところや、アーティストと関わっていく姿勢も含めて作品に触れるたびに感化されています。

54-71「beyo~nd」(MV)
監督 / 催郷通範

54-71

54-71

とにかくよくわからないMV(笑)。「エル・トポ」(アレハンドロ・ホドロフスキーが監督および主演を務めた1970年のメキシコ映画)みたいにシュールで無意味なんだけど、でも哲学的で上品。催郷さんの映像には常にそういう感触がありますね。

「Burn To Shine」(DVDシリーズ)
監督 / クリストフ・グリーン プロデューサー / ブレンダン・キャンティ

「Burn To Shine : Washington, DC 01.14.04」ジャケット

「Burn To Shine : Washington, DC 01.14.04」ジャケット

Fugaziのブレンダン・キャンティと、クリストフ・グリーンっていう映像作家がコラボして作っているライブDVDシリーズ。取り壊しが決まっている一軒家にアメリカの各都市を代表するアーティストたちを集めて、彼らが演奏する姿を撮影するんですが、最終的にはその家を燃やしたりするんですよ(笑)。カメラとアーティストの距離も近くてすごく生々しいんですが、それはお互いがプレイヤーであるという信頼関係やリスペクトがあるからだと感じますね。

※催郷通範の「催」はつちへんが正式表記。

バックナンバー

大石規湖

静岡県出身。フリーランスの映像作家として、スペースシャワーTVやVICE japan、MTVなどの音楽番組に携わる。またトクマルシューゴ、 Deerhoof、BiS階段、奇妙礼太郎をはじめ国内外問わず数多くのアーティストのライブ映像やミュージックビデオを制作するなど、音楽に関わる作品を作り続けている。2017年には初映画監督作品「MOTHER FUCKER」を公開した。現在同作品のDVDが発売中。

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